第46話 我が学院生活は順調なり

 王都カンタベルに冬が訪れていた。

まだ雪は降ってこないけど、広葉樹の葉っぱはすべて散ってしまった。

窓から見ているとドングリを口いっぱいに頬張ったリスが枝の上をかけていく。

彼らも冬支度に忙しいのだろう。


 僕の塔も遠征の準備に向けてさらなる充実を遂げた。

新たに追加されたのは、塔を囲む防壁(15)とドライドを収容するための施設ドライドガレージ(5)の二つだ。


 僕は完成品のお披露目をするために冒険部員を塔に招待した。

でき上ったばかりの壁を見上げてララベルがため息をついている。

「またおっきくなったね……」

「うん、壁の高さは5メートルあるからね。複数の魔物に囲まれても大丈夫そうだろう?」

「壁も厚いんだ、2メートルくらいはありそうだね。これなら安心だ」

 現時点では堀などの設備はついていないけど、レベルを上げることによって充実していくのだろう。

必要ならレベルを上げればいい。


 門から入って右側のスペースにはドライドガレージを設置した。

パッと見た感じは馬小屋に似ている。

ただしドライドの出入りがしやすいように扉はずっと大きい。

今は2体のディノ型がいるけど、このサイズなら6体以上は収容できそうだ。


「お、メンテナンス用の工具やオイルがそろっているじゃないか! さっそく使わせてもらおっと!」


 自分のドライドを持ってきたレノア先輩は嬉しそうに工具のチェックをしている。

みんなも新しい設備に満足してくれたようだった。



 ドライドガレージのお披露目があってから、レノア先輩が三日と空けずに塔へ遊びに来るようになった。


「こいつを整備したり、洗ったりするのに、ここはすっごく便利なんだよ。あ、そのレンチを取ってくれ」


 すっかりローレライの森にも馴染んでいる。


「それに、ここは居心地がいいからな」


 レノア先輩は自分の私物をガレージに置き始めた。

なんかマーキングされている気分だ。

そんなこんなで、レノア先輩の好感度は先日また一つ上がった。

先輩にとって、僕はお気に入りの後輩ってところだろうか?


 このように、20を消費して新しい設備を作ったんだけど、ポイントはまだ196も残っていた。

そこで僕は以前に考えた通りキッチン(5)のレベルアップを図った。

これで冷蔵庫から得られる食材が2個になると考えたのだ。


 僕の予想は当たって、キッチンの冷蔵庫は容量が大きくなり、得られる食材も二つになった。

しかも、電子レンジというとんでもない魔道具が出現した。

原理はよくわからないのだけど、雷属性の魔法を応用したキッチン魔道具らしい。

これは冷たいものをすぐに温めてしまう魔道具なのだ。


 さっそく料理好きのルルベルに教えてあげたら、ものすごい興味を示してくれた。

そして二日おきくらいにやってきては新しい調理法を塔のキッチンで試している。

ここは広くて、とても使いやすいとのことだ。

おかげで僕は毎日美味しい料理を食べられるようになっている。


「今日は電子レンジでプリンを作ってみたの。よかったら食べてみて」


 ルルベルが作る料理はなんだって美味しい。

氷冷魔法でよく冷やしたプリンが口の中でとろけていく。

カラメルの甘みと苦みがほどよい。


「今日のおやつも最高だね!」

「そ、そうかな? 喜んでもらえてよかった」


 ルルベルは褒められて嬉しそうに顔を赤らめる。

でもお世辞じゃなくて本当に美味しいんだよね。

二人で後片付けをしていると、暮らしに役立つレシピのことなんかも教えてくれることがある。

そういうアドバイスがすごく助かっているのだ。


 このように僕の学園生活は充実しているんだけど、少しだけ困ったことも勃発している。

最近になってアネットの態度が微妙によそよそしいのだ。

別にケンカをしたわけではない。

それどころか、何のきっかけもないのに好感度・親密度はまた一つ上がった。

おかげでポイントは40ももらえている。

タオは「生理なんじゃね?」の一言ですませたけど、それじゃけじゃないと思うんだよな。

もしかして軽いジェラシーだったりして……。

そう考えるのは自意識過剰かな?


 今日も僕とアネットは放課後冒険部を実施中で、ルアーム迷宮地下二階を探索中だ。

塔で落ち合ったときはそうでもなかったけど、ルアームに着いてからのアネットは機嫌がいい。

まるで、二人きりなら素直になれるみたいな態度で、僕は少し困惑する。


「ドライドの捕獲ははかどってる?」

「それがさ、ディノ型を手に入れてからはさっぱりなんだよ。一回落とし穴に反応はあったんだけど、逃げられたみたい。最近では痕跡も見つけられないんだ」


 僕らが活動を活発にしたせいか、ポータル周辺に魔物が集まってきている。

そのせいかドライドたちは別の場所に移動してしまったようだ。

次は少し離れた場所に落とし穴を仕掛けよう、なんて話も出ている。


 通路を進む僕は妙な感じがして立ち止まった。


「ちょっと待って。やっぱりこれ、トラップだな」


 前方の壁に丸い穴が複数あいている。

おそらくここから矢が放たれるしかけなのだろう。

暗闇の中だと、こんな単純な罠でも脅威になる。


「どこかにスイッチがあるはずよね?」

「おそらく、ワイヤーか床を踏み抜くと発動するタイプだと思う」


 僕には『夜目』という能力があるから、暗闇の中でもよく見える。

慎重に探っていくと蜘蛛の巣に紛れて、仕掛けのワイヤーが張られていた。

こういうトラップというのはてっきり足元に張られていると思ったけど、これは腰のあたりに線が伸びている。


 このようなトラップには二種類ある。

一つは迷宮が自動的に仕掛けるもの。

ある一定時間をおいて罠はいたるところに出現するのだ。

非常に厄介である。


 そしてもう一つは悪意のある人間が仕掛けるものだ。

こちらは冒険者の持ち物を奪うために盗賊が仕掛けるトラップだ。

追われるものが迷宮に隠れ住むことは多いらしい。彼らは金品と食料を得るために冒険者を殺す。


「そこにワイヤーがある。ストーンバレットを当ててトラップを発動させてしまうよ」


 どんな攻撃でもオートシールドが防いでくれるとは思うけど、わざわざ試す気にはならない。

僕は自分が思っている以上に怖がりなようだ。

何事にも絶対はないのだから、この態度は間違っていないと思うけど。


 ワイヤーに連動して、七本の矢が壁から飛び出した。

床に刺さった矢を拾い上げて矢じりの匂いを嗅いでみる。


「何しているの?」

「痺れ薬の匂いがする。おそらく蛇系の魔物をつかった毒だ」


 毒についてはラッセルに様々な知識を叩き込まれた。


『毒ってのは、どんなに力のないものでも使用できるんだ。だから対処法をしっかり学ばなければならない。特に俺は敵が多いから……』


 僕は敵を作らない生き方をしようとは思っているけど、いつ狙われるかはわからない。

おとなしくなったとはいえエラッソみたいなのがいつ牙をむいてくるかわからないしね。

『解毒体質』という能力を得てはいるけど、完璧な耐性があるわけじゃない。


「ふぅ、緊張の連続で疲れてきちゃった。少し休憩にしない?」

「いいね。実は魔導コンロとヤカンを買ってきたんだ。お茶にしようよ」

「あら、また地下通路で街へ行ったのね? ずるいわ」

「一人暮らしの特権さ。あ、あそこの部屋を使おう」


 僕らは休憩するために通路に面した小部屋に入った。だけどそこで予想もしなかったものを目にする。


「え? 何この光? もしかしてあれは……ドライド?」


 小部屋の床が裂けたように広がり、異次元からの通路が開いている。

それはまさに、この世にドライドが生み出される瞬間だった。


特殊能力:塔マスター(レベル13)

魔法:身体防御(プロテクト) ストーンバレット 

身体能力:自己治癒力 解毒体質 夜目

エクストラギフト:オートシールド×2枚 落とし穴×2 石壁

タワー構築(基底部~3F)・部屋作製・小砦Lv.2(30)

保有ポイント:231


■所有ガーディアン

ソードマンLv.2 ×1

アーチャーLv.2 ×1


好感度・親密度

 ラッセル・バウマン  ★★★★★★★★★★

 アネット・ライアット ★★★★★★☆☆☆☆

 タオ・リングイム ★★★☆☆☆☆☆☆☆

 ララベル・パットン ★★★★☆☆☆☆☆☆

 ルルベル・パットン ★★★★★☆☆☆☆☆

 レノア・エレノイア ★★★★☆☆☆☆☆☆

 シャロン・ギアス ★★★☆☆☆☆☆☆☆

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