第13話 誓いの儀式
声を上げて泣き出したレノア先輩に代わってシャロン先輩が事情を説明してくれる。
「冒険部は学院でもかなり古いクラブなの。でも、その過酷な活動から年々入部希望者は減っていたわ」
ただでさえお坊ちゃまやお嬢様の多い学校で、わざわざ危険なクラブに入る人は少ないようだ。
しかも毎年死人がでかけるほど過激な活動内容である。
本人が希望しても親がそれを許さないなんてこともあるらしい。
「それにね、貴族や商人が冒険者の真似事をするのは浅ましいことだ、そんな風潮もあるのよ」
シャロン先輩は小さなため息をついた。
そういうことを言いそうなやつ等なら心当たりがある。
きっとエラッソのような鼻持ちならない貴族が偉そうに
「それこそ嘆かわしいことですよね」
「ええ。未知なる場所への挑戦、古代への憧れ、自らの力で宝物を手に入れる、どれも崇高なことだと私は思っているわ。でも、なかなか賛同は得られないのが現実ね。レノアが言った通り、あと4人の部員を今年中に集めないといけないの。6人未満のクラブは認められないから」
そういう事情があってレノア先輩は強引だったのか。
「でも、クラブにこだわる必要がありますか? いざとなったらギルド登録して、個人で冒険をするという手もあるんじゃ?」
タオの質問にシャロン先輩は悲しそうに頭を振った。
「学院の力というのは意外と大きいのよ。本来許可が下りないような入山許可や遺跡調査の許可が下りるのも、カンタベル中央学院のクラブ活動だからなのよ。それに活動費をもらえたり、学院所有の宿泊施設も使えますからね」
なるほど、円滑な冒険のためにはクラブであることが必要なわけか。
と、それはそれとして、気になっていたことに話を戻そう。
「ところで転送ポータルのことですけど……」
「あ、やっぱり覚えていた?」
シャロン先輩はレノア先輩の頭を小突きながら、しぶしぶ説明してくれた。
「もう20年以上前の話らしいわ。冒険部を創設した初代部長はとんでもない才能を有していたの。彼の卒業論文は『時空魔法理論における宇宙旅行』だったみたい」
「宇宙旅行!?」
初めて聞く単語に僕ら新入生は一斉に声を上げていた。
「ええ。まあ、実際に行ったわけではなく、あくまでも理論だけだったようだけどね。ただ、月の石を転送ポータルで手に入れるのは成功したそうよ。それは嘘じゃなくて、今でも学院長室にはその時の石が展示されているの」
「すごいですね」
「本当に。で、その初代部長が実験の失敗で偶然できてしまったのが転送ポータルなの」
失敗でそんなものが!?
あ、でもラッセルも『殺虫剤を作ろうと思ったら毒ガスができちまったぜ」って言ってたな……。
「彼はマウスを使って生物の転送実験をしていたんだけど、マウスを入れた転送ポットにハエが混入してしまい、巨大なハエネズミができてしまったそうよ」
「ええ!? それはものすごく危険な状態だったんじゃないですか?」
「当時は大変な騒ぎになったみたい。まあ、その生徒はとても優秀で、再転送でハエとマウスを分離させることに成功。しかもどういう理屈かわからないまま転送ポータルまで作り上げてしまったらしいわ」
どこにでもお騒がせな人はいるもんだなぁ。
それにしてもムチャクチャだ。
「その人は卒業してから宮廷魔術師長にもなるくらい優秀だったそうよ。まあ、大臣や大貴族に楯突いてばかりで首になったって噂ですけど。名前は何だったかしら? たしか犬の鳴き声みたいな……バウバウ?」
あ、それはきっとバウマン……。
ラッセルのことに間違いない。
「その天才も数年前に姿を消したのよ。今頃何をしているのかしらね?」
どこかで触手魔法の実証実験を……とは言えない。
噂の真偽はともかく、学院では師匠の名前は出さない方がいいかもしれないな。
うん、これからも黙っておこう。
「あの、その、転送ポータルは安全なのでしょうか?」
ルルベルがおずおずと質問している。
女性に対してならそれほど恥ずかしがらずに話せるようだ。
「転送ポータルができて20年。冒険部が密かに活用し続けているけど、それで事故が起きたことは一度もないんだ。それだけは安心していい」
レノア先輩も何十回も使っているが、乗り物酔いの状態すらないという話だった。
レノア先輩とシャロン先輩の情熱に負けて僕は入部届を書いた。
流されやすい性格というのもあったけど、説明を聞いているうちに冒険部に興味が湧いてきてしまったのだ。
しかもパットン姉妹やタオも入部することを決めた。
「一攫千金って言葉に痺れちゃったのよ」
「私はララベルが心配だから」
二人とも彼女ららしい理由だった。
「タオも冒険部でいいのかい?」
「ああ、ここなら少しは期待できそうだからな……」
タオはニヒルな笑顔を僕に向ける。
「期待できそう? 何が?」
「ラッキースケベ……」
なるほど、チャンスは多そうだ。
僕らが入部届を書いているあいだ、レノア先輩とシャロン先輩は儀式の用意に取り掛かった。
たしか、誓いの儀式だったかな?
魔法陣が描かれた羊皮紙をテーブルの上に敷き、その上に細々とした品物を配置している。
「レノア、グールの頭蓋骨の位置が違うわよ。刻印をちゃんと合わせて」
「わかってるって。えーと杯に挿すナイフは三本だっけ?」
「ちなみにこの儀式を考案したのも初代部長のバウバウよ」
レノア先輩、それを言うならバウマンです。
「僕らは何を誓わされるんです? あんまり変なことは……」
「安心して、冒険部の秘密を外部に漏らさないという誓いだから」
それくらいなら大丈夫かな……?
「それでは魔法陣の上に手を置いて、私の言葉を復唱して」
シャロン先輩の厳かな声が資材倉庫に響く。
「私は冒険部の秘密を外部に漏らしません」
「私は冒険部の秘密を外部に漏らしません」
それだけ言うと魔法陣が紫色に光り、僕らの体を包んだ。
「これでおしまいですか?」
「ええ、これでおしまいよ」
ずいぶんとあっけなかったな。
でも気になることもある。
「あの、誓いを破ったらどうなるんですか?」
シャロン先輩が怖い顔でコチラを見つめた。
「下痢が止まらなくなるのよ」
「はっ?」
「それも3年間……」
くだらない……、くだらなすぎるよ、ラッセル……。
「でも、この恐ろしい呪いのおかげで転送ポータルの秘密は保たれてるの」
この人、呪いって言っちゃったよ!
儀式じゃなかったの!?
「あの……」
ルルベルがおずおずと手を挙げて、レノア先輩に質問する。
「どうした?」
「先輩はなんともないんですか?」
「ん~? どういうことだ?」
「だって、レノア先輩は先ほど私たちに転送ポータルの秘密を話してしまいましたよ」
「あー!!!!」
僕らは一斉にレノア先輩の方を向く。
タオはなんでそんなにワクワクした顔をしているんだ……。
「ちょっと、レノア、大丈夫なのっ!?」
「う、うん……なんだかお腹が痛くなってきたような……。でも、なんともない気もする……」
ひょっとしてこの儀式ってフェイクか?
ハッタリ好きのラッセルならじゅうぶん考えられることだ。
みんなは怯えていたけど、ラッセルをよく知る僕は平気だった。
たぶんラッセルは本気で呪いなんてかけない。
『あとは野となれ、俺は知らん』がラッセルの口癖だ。
彼にとって自分が卒業した後の冒険部なんてどうでもいい存在だからだ。
予想通りレノア先輩はトイレに駆け込むこともなく、僕ら四人は冒険部へ入部することとなった。
そうそう、好感度と親密度も上昇して『
名前:ロウリー・アスター
特殊能力:塔マスター(レベル5)
魔法:身体防御(プロテクト)ストーンバレット
身体能力:自己治癒力
エクストラギフト:オートシールド
タワー構築(基底部~3F)・部屋作製・小砦(しょうとりで)(15)
保有ポイント:43
好感度・親密度
ラッセル・バウマン ★★★★★★★★★★
アネット・ライオット ★★★☆☆☆☆☆☆☆
タオ・リングイム ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ララベル・パットン ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ルルベル・パットン ★☆☆☆☆☆☆☆☆☆
塔を三階建てにすることができるようになった!
しかもこんどは小さな砦も作れるようにもなったようだ。
詳細はまだ不明だけど、保有ポイントは大幅に増えている。
きっとタオやパットン姉妹と友だちになれたからだな。
学校が終わったらさっそく試してみるとしよう。
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