最後の一つ

旧多鐚

最後の一つ

親愛なる友人、カンナギ氏がその手紙をよこしたのは12月半ば頃の事だった。

彼にしては稚拙な文字で綴られたその内容には些かばかり驚くものがあった。

ここに掲載される文は全てそれの引用である。


◇◇◇◇◇◇◇


某日、私は夜の母校へ向かった。

特段理由なんて無い。その時は酒に酔っていて不法侵入だとか、それから繋がる諸々の・・・面倒事なんて頭の片隅にも無かったのである。

私のポケットには三つのあめ玉が入っていた。これをくれたスナックのママにも私を自棄にさせる理由があったのだが、それは親友である君にも話すのをはばかれる故、彼女についてはあえて何も話さない事にする(飴は舐めずに噛み砕いてやった)


閉まった校門を乗り越えて見渡してみると私たちが過ごした学舎は随分と古ぼけて空寂としていた。月光に照らされた壁は所々ペンキがはげているし、パイプなんかも錆びきっている。何よりまとっている空気が重いのだ。私たちが通っていた時からこの学校は古かった。君もトイレのタイルが剥がれ落ちているのを眉を顰めて見ていたことがあるだろう?窓を開けようとして錆びが不快な音をたてるのに、ため息をついていたに違いないのだ。


私はしばらく校舎の周りを散策していた。その内、例の場所に辿り着いたのだ。例の場所というのは私たち同期が周知の通りあの場所である。カジハラ君が死体で発見されたあの場所である。


その事に気付いた時、私は思わず身震いしてしまった。先刻まで何の気なしに歩いていた場所に陰湿なじめじめした空気が流れ込んできたようだった。酔いが一気に覚めた。変な汗が額から一筋落ちた。思わず後方に誰かいるような気がして振り返った。誰もいなかった。


ザアッと塀の向こうから車が走っていった。その人工的な光に安堵して事に気がつく前ののんきさを私の心は取り戻しつつあった。


そもそもカジハラ君の死因は何だったのだろうか。あの時の私たちは身近で起こったとんでもない事件を珍しがるばかりだった。いろんな憶測が飛び交って、何が何だか分からない状況だったのを覚えている。

自殺、他殺、霊的現象、呪い、そもそもカジハラ君は死んでいない・・・・・・。

そんな中、一人だけ事件の全容を知っている、という生徒がいた。

それがフルタ君、君である。


◇◇◇◇◇◇◇


そんな中途半端なところで手紙は終わっていた。

三つの名前の一つが僕だとするならば、その名前の最後の一つが僕なのである。















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最後の一つ 旧多鐚 @bita_huruta

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