学校一の美少女に告白したら、OKもらって、カラオケデートに行った
無頼 チャイ
告白罰ゲーム
良く晴れた日だ。きっと善人や悪人、路地に住まう猫や、犬小屋で寝転ぶ犬、道端に落ちる飴の包みから、捨てられ放置された自転車まで、全てを均等かつ平等に照らされているのだろう。
あの雲も、お日様によって濃淡に彩りされ、風によって彫刻されたのか、なだらかな丸みと細かい凹凸ができている。
わーい、大きなシュークリームだ。
なんて、知能が著しく低下する俺の頭は、ぼんやりと想像ゲームに浸っていた。お題は常に雲が運んできてくれる。
幼い顔付きのせいで良く中学生と勘違いされるが、今回は、童心に帰れるようなら……いや、過去に戻れるなら、数時間前の俺に一言言ってやりたい。
運が悪いのに、罰ゲームの罰を提案するなと。
じゃんけんだって弱いのに、なんでくじ引きなら勝てると思ったのか突っ込んでやりたい。
いや、ってか、四分の一を引いたのだから運は良い方か?
となると、俺は幸運だと言えなくもないのか。
だって、容姿端麗で、才色兼備で、男女共に人気があって、しかも学級委員の委員長だ。
そんな相手に告白するチャンスを、罰ゲームとはいえ手に入れたということになる。
そうだ、プラス思考で考えれば俺ってめちゃめちゃラッキーなんだ!
だからさ、俺の心臓。落ち着けよ。
「あいつ、顔青いけど大丈夫か?」
「大丈夫っしょ、それに、罰ゲームは絶対って言ったの、他ならぬあいつだぜ!」
「武司! 止めるなら今だぞ。伊集院さんなら泣いて謝って土下座すれば許してくれる」
「できるかッ! お前らの作ったラブレターの内容だと、俺は1日中伊集院さんのこと考えてる乙女系男子だろっ! ここで逃げたら、一転して迷惑系ストーカー男子になっちまう!」
それか、伊集院さんの怒りに震えるチワワ系男子だ。
つか、怒りなんて絶対に買うなよ俺っ!
校舎裏の、栽培委員会によって世話されている花壇の花達が、物珍しそうに俺を見つめている。
いや、正確には大原兄弟の四つの目か。
荒らすなよ、世話してんの俺なんだから。
俺の名を呼んだ佐合は、校舎の角から半身を乗りだし、眼鏡のブリッジを中指で押し上げてこちらをじっと見ている。
おい佐合、お前の眼鏡反射して目立ってるぞ。
「
大原兄弟の目と高倉の眼鏡がサッと引っ込む。
俺は慌てて振り返った。
「あっ……」
想像なんてついているのに、それでも声が漏れる。
木漏れ日を浴びて艶やかに反射する髪、きめの細かい肌は、もぎたての白桃のように瑞々しく、綺麗。目尻が少し下がって眠たげな表情は、睫毛の長さによって高貴な猫を連想させる。
背は俺と同じくらいか少し上ぐらい、だが、不思議なことに足は彼女の方が長いのか、ズボンとスカートで腰に留めている位置に差があった。
学級委員の人間らしく、威厳のある佇まいなのに、彼女にはそれと同じぐらい惹き付けられる蠱惑的な魅力と、触れたら消えそうな儚い雰囲気があり、目が離れない。
「君が、高倉 武司君で良いのかな? この手紙の差出人は」
そういって、どこか気だるげに薄いピンクの手紙を人差し指と中指で挟んで振っている。
てか、なんでピンク?
「はっ、はいそうです!」
「『
「ま、間違いない、と思います……、ってか、俺が書いたんですし」
書いてねぇよ。
書いたのは高倉兄弟の馬鹿ふたりだ。気になって一度見たけど、前より酷くなってんじゃねえか。
ってか、色々突っ込みたいけど裁判委員会ってなんだ? 裁判所あるのかこの学校。
考えても無駄なので、とりあえず、こんな駄文のために律儀にやって来た先輩に告白しなくては、この人は罰ゲームの被害者のようなものだ、なので、告白してとっととフラれよう。
「伊集院先輩ッ! 俺はずっと前からあなたのことが好きでした! こんなんですが、良ければお付き合いさせて下さい!」
「良いわよ、これからよろしくね」
「はい! そう来ると思ってました。貴重な時間を使わせて……って、え?」
今、良いわよ、って、言ったか?
キョトンとしてるのは俺だけか? 伊集院先輩は週四のペースでコクられて、撃沈する奴が絶えないと言っていた高倉兄弟をチラと見る。
あ、気を失って倒れてる。
驚いているのは俺だけか? 校舎の角に身を隠している佐合にチラと視線を送る。
振られても勢いよく捨て台詞を吐いて逃げればショックは軽くなる、と言っていた佐合の眼鏡にヒビが入っていた。
眼鏡って感情表現してくれるんだな、無表情の奴だから助かるけど。
「どうしたの? 高倉君」
「えっ、いや別に」
「そう。高倉君、明日時間はある? 良ければカラオケに行かない?」
「え? えぇー、時間はありますけど……」
「そう、良かった。じゃあ明日の朝10時に集合しましょう。詳しい場所はメールで送るわ、スマホを出してくれる」
「はい!」
そうして、学校一の美少女である伊集院 衣音菜先輩とメールアプリのアドレスを交換し、学級委員の仕事があるといって静かに校舎へと消えた。
これは幻だろうか……。
「てめぇー! どうするんだよ馬鹿! 罰ゲームに伊集院先輩を巻き込んでじゃねぇよ!」
「そうだそうだ! 俺たちだってお付き合いしたかったんだぞ! どうしてくれるんだ!」
「おい! 言ってること滅茶苦茶だぞ」
「おい、武司」
声を掛けた佐合は、ヒビ割れた眼鏡のブリッジを中指で押し上げながらこちらに歩み寄ってくる。しかし足取りはおぼついてなく、見ていて心配するレベル。
そして、俺の前にたどり着くと、ポンと俺の肩に手をおいた。
「俺の分まで、幸せになれよ」
ヒビ割れた眼鏡の裏で、穏やかな瞳を俺に向ける佐合。
お前も、先輩と付き合いたかったんだな。
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