Episode8-B それを奇跡という ※不快注意! 残酷注意!
元美(もとみ)さんは、同僚の真登香(まどか)さんのことが大嫌いでした。
確かに真登香さんは自分と比べると、少しばかり(?)顔面が整っているのは事実かもしれないと、元美さんは思います。
しかし、周りの男性たちの自分と真登香さんに対する態度は、醜女と美女に対するものほどの差がありました。
一例をあげるとするなら、手作りお菓子に対する態度です。
お菓子作りが趣味であるらしい真登香さんが持ってきたお菓子は、他部署の男性たちまでもがやってきて、「美味しいですね。毎日食べたいくらいですよ」「いつもありがとうございます。真登香さん」「綺麗なだけじゃなくて、お菓子作りまでも上手だなんて。いやあ、さすが真登香さん」と、惚れ薬でも盛られたかのようなメロメロの状態で頬張っています。
けれども、元美さんがそんな真登香さんに対抗するために――私が作ったお菓子の方がずううっと美味しいですよね? と確認するために――手作りをお菓子を持ってきても、男性たちは皆、「いや、いらない」「甘い物、苦手なんで」「なんで会社に手作り菓子を持ってくるんだよ。仕事しろ」と極めて塩対応です。
そんな海水よりもしょっぱすぎる男性陣からの対応にめげる元美さんではありません。
幸か不幸か「なんとかしてくれよ、あのブス(笑)」「ほんと、なんであの不味い顔面で自分は真登香さんと同レベルだって思えるんだろうな(笑)」「身の程をわきまえて大人しく仕事しているならまだしも、もはや歩く害虫だろ(笑)」という声は、彼女の耳には入っていないようでした。
正攻法(?)ではあの女を引きずり落とせない、と思った元美さんに残されたのは、神頼みしかありませんでした。
あの女の手作りお菓子を食べた男ども全員、お腹を壊せばいいのに!
いや、壊せ壊せ壊せ!!
壊しちまええ!!!
元美さんの神頼みというよりも、もはや呪詛が届いたのか、ある日、真登香さんの手作りお菓子を食べた男性たちが次々にトイレに駆け込んでいく事態になりました。
大事に至った男性はいませんでしたが、真登香さんは涙ながらに謝罪し、その一件以来、手作りお菓子を持ってくることはありませんでした。
元美さんは人智を超えた何者かが自分の願いが叶えてくれたのかと思い、心から感謝しました。
しかし、腹の立つことに集団食中毒事件の後でも、男性陣は相変わらず真登香さんに激甘なのです。
「たまにはああいうことも起こりますよね」「皆、もう気にしていませんから」「また真登香さんの手作りお菓子が食べたいです」と。
『真登香さん>>>(決して超えられぬ壁)>>>元美さん』は、決して崩せないようでありました。
それなら、もう一度、奇跡を起こしてやる!
元美さんは祈り、いえ、呪い続けました。
今度はあの女が事故にでも遭ってご自慢の顔がグチャグチャになりますように、と。
数日後、元美さんは終業後に真登香さんに呼び出されました。
真登香さんは哀れみを含んだ目で元美さんを見ていました。
「元美さん、あなた、まぐれとはいえ”一度は成功した”のよね。ただの人間でも時にそういうことが起こるから、それを奇跡というのよ。でも、調子に乗らない方がいいわ。今度は”私が事故にでも遭って、この綺麗な顔がグチャグチャになりますように”とか考えない方があなたの身のためだったんだけど」
……え?
なぜ、真登香さんは元美さんの心の中を知っているのでしょうか?
何より、真登香さんは一体何者なのでしょうか?
その時です。
真登香さんの忠犬と化した男性社員たちが、ザッザッザッと行進しながらやって来ました。
彼らの手には、ドライバーやスパナ、チャッカマン、そしてビニールシートやノコギリなどが握られていました。
この日を境に、元美さんの姿を見た人は誰一人としていません。
(完)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます