Episode7 チエコ先生とキクちゃんの水平思考クイズ【5】『お父さんの笑顔』
【問題】
高校生のH治くんは、友達と一緒に肝試しに行くことになりました。
気は進みませんでしたが、肝試しの場所は十数年前に陰惨な未解決殺人事件の現場となった一軒家でありました。
事件当時はまだ小さかったH治くんでしたが、その一家惨殺事件のことを忘れたことは一日だってありませんでした。
肝試しに向かったH治くんが見てしまったのは、事件現場となった家の庭に佇むH治くんのお父さんでした。
お父さんの姿を見たH治くんはパニックを起こし、家へと逃げ帰ってしまいます。
その後、険しい顔をしたお父さんも家へと帰ってきました。
H治くんは、お父さんから未解決事件の真相を聞かされました。
警察署へと走ったH治くんは、信じてもらえるとの保証はありませんでしたが、お父さんから聞いたことを全て話しました。
ほどなく犯人は逮捕されました。
お父さんは笑っていました。
お父さんのその笑顔を見たH治くんは声を上げて泣きました。
さて、H治くんの涙の理由は何でしょうか?
【質問と解答】
キクちゃん : えーと、チエコ先生、H治くんのお父さんが未解決殺人事件の犯人だったということですよね。犯人じゃなきゃ真相は分からないわけですし。H治くんは、自分の中に殺人犯の血が流れているという悍ましさに声をあげて泣いたんでしょうか?
チエコ先生 : NO。
キクちゃん : 悍ましさが理由じゃないと……それなら、加害者家族である自分が今後、世間からどのような目で見られるか、どんな目に遭わされるか、という恐怖と絶望による涙ですか?
チエコ先生 : NO。昨今、犯罪の被害者遺族だけでなく加害者家族の苦しみについても、注目されるようになってきたわね。でもね、キクちゃん……先入観を持って、この問題を考えていないかしら? 頭の中にメモされている方程式をもう一度、見直してみて。
キクちゃん : 私が頭の中にメモしている方程式は、「H治くんのお父さん=未解決殺人事件の犯人」ですね。では、まず、この方程式が合っているかどうかを確認します。H治くんのお父さんは事件の犯人ですか?
チエコ先生 : NO。
キクちゃん : !!! ……ということは、H治くんのお父さんは事件の目撃者ですか?
チエコ先生 : NO。
キクちゃん : 犯人でも目撃者でもないのに、なぜ、事件の真相を知っているんでしょうかね。……あ! H治くんが”肝試し”に行ったことが鍵のような気がします。”肝試し”と言えば…………まさか、H治くんのお父さんは、”殺人事件の被害者”だったんですか?
チエコ先生 : NO。
キクちゃん : ちょっといい線いっているかと思ったのに、違いましたか。
チエコ先生 : 違ったけれども、いい線はいっているわ。もう一度、先ほどの質問に至る過程を遂行してみて。
キクちゃん : はい! H治くんのお父さんは、殺人事件の被害者遺族ですか?
チエコ先生 : NO。
キクちゃん : それなら逆に、H治くんのお父さんは、殺人事件の加害者家族ですか?
チエコ先生 : NO。どちらでもないわ。
キクちゃん : うーん、うーん……あ! もしかして、「”肝試し”と言えば……」のくだりの方が問題を解き明かす鍵だったんでしょうか。となると、やっぱり……H治くんのお父さんは幽霊だったんですか?
チエコ先生 : YES。だんだん解答へと近づいてきたわ。その調子よ。
キクちゃん : でも、H治くんのお父さんと殺人事件の関係性が全く分からないです。被害者側にも加害者側にも立っておらず、目撃者でもないのに事件の真相を知っている。そのうえ……お父さんは幽霊となってまでこの世に……というか、殺人現場となった家に留まっているのだから、事件に対してよっぽどの心残りがあったとしか思えないですけれども……
チエコ先生 : そうよ。”心残り”があったの。でも、お父さんがH治くんに事件の真相を話したことで、犯人は逮捕されたでしょ。十数年以上も未解決のままであった事件を、ついに解決に導くことができたのよ。
キクちゃん : ……ということは、生前のお父さんは何としてでもという思いで、ずっと事件を追い続けていた立場にいた人だったんですね。H治くんのお父さんは、刑事さんだったんですか?
チエコ先生 : YES。正解よ。H治くんのお父さんは長らく事件を追い続けていた刑事だったんだけど、そのさなかに、事故や病気といった何らかの理由で若くして亡くなってしまった。何としてでも事件を解決したいというその思いが、お父さんの霊魂を事件現場へと向かわせたんでしょう。そこで、お父さんはおそらく……事件現場に無念のまま留まり続けていた被害者たちの霊魂、そして残留思念などより、追い続けていた事件の真相をついに知ることができたのよ。
キクちゃん : H治くんもお父さんがどんな思いで事件を追い続けていたのか、お父さんの背中を見ていたから、覚えていたんですよね? 作中に「事件当時はまだ小さかったH治くんでしたが、その一家惨殺事件のことを忘れたことは一日だってありませんでした。」とありますし……
チエコ先生 : ええ、そうね。だから、お父さんの笑顔を見たH治くんは、これでやっとお父さんは安らかに眠ることができると思ったのよ。そして……事件の被害者たちもね。
(完)
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