おまけエッセイ「作者の寸借詐欺”被害”体験(被害回数計3回、総額500円以下!)」

 まず、タイトルの”総額500円以下!”にツッコミたくなった方もいると思いますが、まあ何はともあれ、お時間のある方はご覧になってください。


 1回目の被害体験は、2021年5月現在、36歳のなずみ智子がまだ20代前半のピチピチのプリプリ(ただし当人比)だった頃です。

 当時、京都市に住んでいた作者は、京阪七条駅に向かって歩いていました。

 その時の季節は忘れてしまいましたが、太陽が高く昇っていた昼間であったことだけは覚えています。

 前から手押し車を押しながら歩いてきたお婆さんが、私に声をかけてきました。

 お婆さんの背丈は身長165㎝の私の肩よりも低く、大変に小柄で細い人でした。

 お婆さんの話を思い出せる限り要約してみますと、「体の調子が悪くて病院に行かなければならない。でもお金がなくて……」とのことでした。

 気の毒に思った私は、お財布に入っていたお金全てをお婆さんに渡しました。

 おそらく100円ちょっとでしたね。

 当時はお婆さんの話をおかしいとは微塵も思わず、大変な状況なのにほんの少ししか渡せず申し訳ない、とも心から思いました。


 2回目の被害体験は、私がピチピチのプリプリ(当人比)から萎びへの道を着々と歩み始めていた20代後半、時刻はおそらく午後8時過ぎであったかと記憶しています。

 一人の男性が声をかけてきました。

 街灯の明かりに照らされたその人は、推定年齢20代半ば、いかにもヤンキーやチンピラといった雰囲気ではなく、ごく普通の男性に見えました。

 男性の話も思い出せる限り要約してみますと、「ちょっと遠くから来たも、お金がなくなってしまった。コンビニで食べる物も買えなくて困っている」とのことでした。

 この時も気の毒に思った私は、お財布に入っていたお金全てを男性に渡しました。

 ちなみに、この時も100円ちょっとでしたね。

 男性の顔はもう覚えていませんが、私がお金を渡した後、男性が言ったことだけははっきり覚えています。

「ありがとうございます。もう少しで悪いことしなければならなかったです」

 …………。

 それはジョークだったのか、本気だったのかは今でも分かりませんし、知りたくもないことです。


 3回目の被害体験は、今かた2、3年前、マスク社会になる少し前ぐらい(2019年の秋ぐらい?)のことでした。

 その頃の私の萎び具合については、お察しくださいませ。


 勤務を終え帰宅途中、前から歩いてきた推定年齢五十代ぐらいの男性が声をかけてきました。

 男性の話の要約は「お財布を落としてしまいました。だから、助けてください」でした。

 私はこの時もお財布に入っていた全額、50円玉1枚と1円玉数枚を男性に渡しました。


 お金を渡した後、私は男性と少しだけ話をしました。

「近くに交番ありますよ。お財布を落とされたなら、交番に行かれた方がいいんじゃないですか?」

 事実、少し歩かなければなりませんが、近くに交番がある場所でした。

 すると男性は、言葉を濁し、「いや、実はもう交番には行ったんですよ。やれるだけのことはやった後ですから……」と。

 ……………………。

 ツッコむべきかと思いましたが、止めておきました。

 この時になって、やっと怪しいと思いましたが、もう私のお金は男性の手に渡ってしまっていますし、そうこうしているうちに男性はそそくさと私の前から去っていったのです。


 実は「Episode5 とある寸借詐欺男のしくじり」の寸借詐欺男は、この3番目に遭遇した男性をモデルにしたキャラクターです。

 今月分のルノルマン・カードを引く前に、急に思い出し、「明らかにおかしかったよな、あの人……」と苦くて腹立たしい気持ちになっていたところ、それがトリガーとなったのか、過去2回の同様の経験までもが「ああああっ!! もしかして、あの時の人も? あの時の人も?!」とブリブリブリっと蘇ってきたのです。


 計3回の被害体験ですが、正確に言うなら、寸借詐欺(お金を”借りる”振りして、だまし取る)というよりも、3人とも最初からお金を貰うつもりだった(返す気なし)だったと思います。

 けれども、私は3回とも小銭すら満足に持っていなかったため、総額500円以下の被害で済んだのは不幸中の幸いだったでしょう。

 貧乏も、人生においてたまにはいい仕事をするものです。

 仮に当時の私のお財布に千円札があったとしても、さすがに千円札は渡していなかったです。

 渡すわけがありません。私にだって生活がありますから。

 そして、被害総額は500円以下で済んだとはいえ、モヤモヤした腹立たしさは今も私の中に残っています。

 これは、お金だけの問題というわけではないですね。


 今、思い返してみれば、3番目の男性は私の顔を見て、”あ!”って具合に顔を輝かせたんですよね。

 カモ発見とでも思ったんでしょうか? 

 こいつなら金を引き出せる、というセンサーがピコーンと反応でもしたんでしょうか?

 ですが、騙せたのはいいものの、いい年して所持金100円以下という、身も財布も萎びた女に声をかけたのは「大ハズレ」だったでしょう。

 

 私に声をかけてきた3人の人物が本当に困っていたのか、そうでなかったのかは、もう確かめることはできません。

 しかし、自身の身に置き換えて考えてみますと、仮に私が道でお財布を落としてしまったとしても、半泣きになるのは確実ですが、通りすがりの人に声をかけてお金を借りる、もしくは恵んで貰おうとは思いませんね。

 交番に「遺失届出書」を出した後は、喉が渇こうが、お腹が鳴ろうが、自分の足で歩いて自宅まで帰るかと……

 そもそも、相手がどんな人かなんて分からないのに単なる通りすがりの人に声をかけること自体、非常にリスキーな行為であると……

 他人を舐めてはいけません。

 このご時世、返り討ちに遭う可能性だってあるのに、チャレンジャーな人たちですよね。

 

 実は「Episode5 とある寸借詐欺男のしくじり」を書いている途中、身近な人たちに”寸借詐欺”の話をしたのです。

 ”寸借詐欺”を知っている人もいれば、そして「何? それ? 聞いたことないけど……」と知らない人もいました。

 まだまだ一般に認知されていない、いや、認知されるほど”寸借詐欺”の被害が広まってしまうなんてことあってはならないのですが、”寸借詐欺”とは人の善意に付け込んでくるうえに、本当に困っているのか、そうでないのかの見極めも難しい卑劣な犯罪だと思います。

 

 私が「Episode5 とある寸借詐欺男のしくじり」ならび本エッセイを書いたのは、3回もあっさりと騙されてしまった苦くて腹立たしい体験を、自分自身の中で整理をつけ、昇華したかったからにつきます。

 もう騙されません。

 4回目はありません。

 私は仏ではありませんが、”なずみ智子の顔も三度まで”です。

 そして、皆様も人の善意に付け込んでくる人々には充分にお気をつけください。



2021年5月29日

なずみ智子

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