第15話 事の顛末

ドリナにケイテス、そして数は少なくとも心強い仲間たち。


「マスター、西ソルテシア旧魔石採掘場って本当に魔石が沢山ありますね、プロイントス家の奴も今頃あたふたしてるはずですよっ全部売っぱらいましょうよ、最初話を持ち込まれた時は怪しい奴とは思っていましたが、当たりでしたッ」


ドリナはニコニコと笑う、頭のネジからは緑の炎が漏れ出ている。


「残念だが、今回売るのは難しいだろうな」

「?どういう事です」

「ドリナ、聞いていなかったのですか、」

「何か......言ってましたっけ」


ケイテスはやれやれと肩を落とす、ドリナは自由人だからケイテスがしっかりと見張っていないと何をしでかすかわからない。


「今回は最深部で見つけた、例のあれを詳しく見たいという人が見物しにくるのですよ」

「......さて、そろそろ依頼者が此処に来るはずだ」


待っていたのは採掘場の最深部、祭壇に続く扉の近くで待機していた、


「......マスター、おかしくないですか......いつもはギルドで相談してからの見物ですよね、今回はどうしていきなり現場で?」

「......そうだな、ドリナの言い分はわかる、しかし奥にあるモノを早く見たいと依頼主がな」


依頼主が採掘場にわざわざ来ると言う。しかし、普通はこんなリスクを取る必要はないのだが、今回最深部で発見した祭壇のようなモノの実物を見てみたいという依頼主の要望を聞く事にしたのだ。


「......ただ協会か帝国の犬の可能性があります」

「それはない、依頼主は裏社会では名が通っている、アルトールだ。知ってるだろう?」

「ですが、今回のような事例は初めてでは?」

ケイテスが言う、だが問題ない、もしもの為にトラップを仕掛けてある、最悪、自分とケイテス、ドリナそれに他の仲間、総出で戦えば問題はない。

「......そこまで言うのなら......危険であると私は考えてはいますが......」

ケイテスはやはり渋々だった。

足跡が聞こえて来た、コツコツ、しかし現れたのは見慣れない紋様の入った黒いローブを纏った大男。しかし顔も体も真っ黒で、ローブからチラリと見える顔にあたる場所は穴のようだ。


「ッ」

「おっと待て、主の命で来ただけだ」


ドリナとケイテスは戦闘態勢を取るが相手の男はそれを腕を出して止める仕草をする。


「......お前は誰だ」

「私は主アルトールより、遣わされた使い魔『蠢く影シャドーマン』」

「......依頼主に頼まれたという証拠を出せ」

「証拠はこの手紙だ」


男はコートの中から手紙を出してきた。

その手紙の内容は、自らが出向くには危険であるため使い魔に手紙を持たせる、支援者も送る、依頼内容は最深部にある遺物の調査と回収という物だった。


「......この、魔術刻印は本物か......『蠢く影シャドーマン』支援者というのは?」

「今、来るはずだ――」




そしてそいつはやってきた、■■■はどのような力かわからないが、いつの間にか【漆黒の蛇ブラック・スネーク】の仲間を骨抜きにして手中に収められ、彼女を巡って醜い争いが横行するようになっていた。

しかし、目的はギルドの支配ではないようだった、■■■は基本的に祭壇の中で物色していた。


「これが何なのかわかるのか?」

「――」


これは中心核を中心にして、周囲から餌を取り集める物だという、餌とは何か、それは魂である、精神である。しかし中心核には今は何もいない。

少なくとも彼女が呼び出そうとしていた存在がかつてそこにはいたのだそうだ。


占拠してから少し経った頃に皇帝が崩御し、新たな皇帝が即位すると闇ギルドの一斉摘発がそこら中で行われるようになっていた。ここも時間の問題だ、彼女は祭壇にあったモノを回収していく。


「ここもおしまいですね、劣化していた『魂の檻』は意味はないでしょう、仕方ありません、なのでコレはいただきます」

最後に中央に有った綺麗な形で鎮座している大きい禍々しき赤く黒い大結晶を彼女は慎重に手に持っていた。それは恐ろしい精神汚染の効果を持っているはずなのに、彼女の状態に変わりなく。


「......これを盗っても『魂の檻』は反応なし、リードル『魂の檻』は経年劣化がヒドイ状態です、既に壊れていますが、万が一発動した場合は急ぎ回収をお願いしますね、魂に耐え切れず崩壊してしまうかもしれませんから」


もし断ったら?


「お仲間をみぃんな、殺します」


そいつはふざけた事を抜かすと自分の頭に手をかけた、それは彼女の姿とそれを印象付けていた特徴、声、■■■という名前を封印させる力......昔どこかの本でそういう力を持つ存在がいた事をふと思い出した。


そしてあの日、摘発が行われる事を察知して逃走を図っていた時にそれは発動した。

その時現場にいたのは自分の仲間と魔石を狙っていたであろう奴ら、用心棒として雇っていたモトクのみだった。


◆◇◆◇



「――そして、いまこうなっている」


全てを話したような態度をとるが、実際に全てを話す訳にはいかない、依頼主の名前、その使い魔についての細かな情報は秘匿した。だから厳罰は覚悟していた、もとより闇ギルドのマスター。そんな事は恐れていない、依頼主を売り身内に報復される方が恐ろしい。


「それは本当に真実か?」

「......嘘を言ってどうする」


しばしの沈黙。


「【漆黒の蛇ブラック・スネーク】のギルドマスター・リードル、幹部級ドリナに告ぐ――」


無限監獄タルタロス

ギルド統括冒険者協会が所有する監獄島、晴れている時が少なくほとんどが嵐。来るも出るも難しく、さらに周囲には強力な魔物が多数生息している。

あらゆる魔法行為を無力化され、外からも中からも壊されないという鉄壁の要塞。


「......マスター、どうしてタルタロスへ......ケイテスは何処へ......」

「......」

広場の中央に自分とドリナが並べられている、わざわざ仲間を近くに置いたのは、自信の表れか。眼前の台の上で判決を言い渡す男の声は届かない、ただ疑問が残る。


「なぜだ?」


しかしわからなかった、何もわからない、なぜタルタロスなのか。今回の採掘場占拠は帝国内の事件だ、協会が裁判にまで出てくるとは予想していなかった。

それに、ケイテスは見つかっておらず、逃走している事になっているらしい、いっそのことそうであってほしい。


「最後に何かあるか?」

「......なぜ協会が出て来た?今回の事は帝国内の問題だ」

「......」


その問いに相手が答える事はなかった。


「お前が頑なに言わなかった依頼主。名前はアルトールか」

「......」


それは間違いなく依頼主、裏社会では名のある者の名前。


「アルトールはかつてはアルカディア帝国周辺地域のみならず、世界中の魔石採掘場に手を伸ばし、そこの資源を支配する事で小国の政治に介入していたな」

「......かつて?」

「奴は我らが既に捕縛している」

「ッ!どういう意味だ」

「そのままの意味だ、世間的に隠しているがな、今活動しているのは偽アルトール。我らが用意した闇に潜そむギルドをおびき出す餌に過ぎない」


では、ケイテスの忠告通りだったと


「だが、プロイントス家の所に偽アルトールは手を出してはいない、お前らに興味などなかった」

「いや、それはおかしい、俺は魔術刻印を見た。あれは確かに私の知るアルトールの物だ」

「余程精密だったのだろう、その『蠢く影シャドーマン』とやらの手紙はな......話は終わりだ連れて行け」


「待て、待ってくれ――」


俺たちは騙されたのか、最初から最後まで■■■と『蠢く影シャドーマン』の策略通りという事。お前は誰だ、どこにいる。『蠢く影シャドーマン』お前は本当に使い魔だったのか。


「そんなのありえません、あの魔術刻印は――」


ドリナもあれが偽物だとは思えなかったのだろう、偽アルトールの魔術刻印の可能性はあっても、あれが偽造であったとは考えられない。魔術刻印は独自の魔術刻印を自らの魔力と血で構築するモノだ、偽造なんてそう易々と出来るはずがない。


だが、そんな異議は跳ねのけられる、俺たちはこの後、無限監獄タルタロスに送られる。あれらが何者で何をしようとしていたのか、俺たちはきっともう知る事はないのだろう、俺たちにはただ良いように扱われただけの愚か者という結果だけが残った。



◆◇◆◇



数日が経過した頃に退院が決まり、そしてギルドは既に決まっていた。【青空の幻想スカイファンタジア】、来るものを拒まないギルドで、ギルドマスターも話しやすいとの事。


そんなわけでいつまでもルキウスの別荘にいつまでもお世話になるわけにもいかない、【青空の幻想スカイファンタジア】はいくつかのアパートを持っているらしく、そこを使わせてもらう事になった。


「わざわざ見送りに来る必要もないのに」


わざわざ、アイーシャや使用人が見送りに来てくれた。


「アイーシャに、それにみんな......いままでありがとう」

「アキラ様、もう少し居ていただいても......」

「ルキウス様も許可をしていますよ?」

「流石に悪いから、本当はルキウスにも礼を言っておきたいんだが......」


ルキウスは何かと忙しいようだ、まぁここは別荘だ、そもそも頻繁に来る場所でもないか。


「前は俺が無理言って迷惑をかけたからな、もし、何かあったら俺に頼ってくれ、役に立たないだろうけど......頑張るからさ」

「はい、何かありましたら、必ず」

「じゃあな、また会おうッ」


背中でただ腕を上げる、我ながらカッコいいな。


そして俺は屋敷から出る事になった、別に永遠の別れという訳ではない。

へベルナは【青空の幻想スカイファンタジア】の近くにいるらしいから、そこまで行くことにした。





流石に何度か言ってるからわかってきた、【青空の幻想スカイファンタジア】の近くにへベルナがいると聞いているから、そこまで行くと見慣れたローブの少女が目に付いた。


「おーい、へベルナ」

「っ、アキラ、お久しぶりです」


マルフやウルオーノは普通に話せるくらいに回復していた、へベルナ曰くもう少しかかるだろうとの事。


「俺の容疑は晴れたで良いんだよな?」

「はい、色々と不可解な所はあるようですが、皆は回復しましたしね、ですから【青空の幻想スカイファンタジア】にも入れるようになったんですよ」

「ギルド事にやっぱり入団条件とかあるんだよな?」

「それはギルド事に特色ありますね、【青空の幻想スカイファンタジア】は来る者拒まずですから大体は了承されますし、【赤の壁レッドウォール】も前のマスターの頃はそうでした」


よくよく考えたらこの世界に来てから、俺ってばほとんど容疑者だったんだよな。


「容疑が晴れたのは良かったけどさ、へベルナが目指した実力には到達したか?まぁまだだろうけど、少しは近づいたんじゃ?」

「全然ですね」


即答。


「はい......」

「同じギルドなら一緒に依頼を受けるという事も簡単にできますからね、しっかり力をつけてもらいたいです」

「旧友としてな」

「えぇ」


しかし、へベルナはそこまで俺に目を付けてくれるんだろうか、昔、後悔した事があるとは言っていたが。


「......へベルナはどうしてそこまでしてくれるんだ?」

「?どうしてって、それは前に」

「いや、後悔した事があるって前に話してたからさ、何か関係があるんだろう?」

「......そうですね」

「まぁ無理して言わなくても......」

「いえ、構いませんよ、隠す事でもないですし――」


へベルナは10年ほど前にネメイアという師の元で魔法の修行を行っていた頃、彼女には弟弟子と妹弟子がいたらしい、その頃というのは自分の事で精いっぱいで、他の人の事を見ている余裕はなかった。


「今でも思い出します、メルリヤにアンティア、マイル、レイラ、皆同じ師の元で修行していた仲間、ですが結局私は彼らに何もすることはありませんでした」

「することがなかった?」

「メルリヤとレイアが破門されてしまいました」

「どうして破門なんか......」

「してはいけない事をした、らしいです。ネメイアは......あまり良い人ではありませんでしたから......厳しい人だったのです」


ネメイア......10年前とは言えへベルナを指導していた魔導師、どんな奴だったんだろう、相当な実力者だったんだろうな。


「アンティア以外の人は魔法もそれ以外の知識も苦労していましたね、私は彼らを見捨てていました」


へベルナはどちらかと言えば甲斐甲斐しく世話をしてくる人だと思っていたから、以外だ。昔はへベルナもそういう人だったんだな。


「マイルから助けを求められたこともありました、子供には厳しい修行でしたからね、彼は孤児でしたからネメイアに捨てられれば何もありません、まぁ、そんな彼を私は助けず、いつの間にかいなくなっていましたよ」

「......」

「最後まで残ったのは私とアンティア......アンティアは優秀でしたから、将来は有名人になっているでしょうね」

「......当時はそれで良いと思ってたんだろ?」

「当時はそれで良かった。まぁ自業自得とまでは言いませんが、出来ないのは仕方ないと思っていました、ただ......」

「ただ?」

「いまだにあの眼を思い出すんです、助けを求めてくる眼。ネメイアは独自の魔法術式を弟子に継承させるために躍起になってましたから、出来ないを許さなかった、私はそんな人から術式を学ぶために志願しましたけど、他の弟子は強制だったでしょうし、逃げる場所なんてなかった」


へベルナは小さく遅く、トコトコと歩いて話している。


「あの時、助ける事、手伝う事をしていたらどうなったんだろう、あの破門は正当だったのか、庇うべきだったのではないか。もう過ぎてしまった事は戻りませんが、そう思ってならないのです......」


だから、へベルナ後悔しているのか、俺を助けてくれたのは俺が免罪であったらどうしようか、過去の後悔を反省したうえでの事だった。

彼女はメルリヤとレイラを見捨てた、今ではどこにいるのかもわからない、哀れな子供。

マイルの助けを求める声を無情にも無視し手を貸し助ける事をしなかったへベルナ、10年前のへベルナとはあまりに違う当時のへベルナ。


「......すみません、長い話を」

「いや、わざわざありがとう......」


へベルナと話をしていたら、いつの間にか【青空の幻想スカイファンタジア】の目の前についていた、しかし、何やら人だかりが出来ている。


「......これは、一体?」

中から慌ただしく、受付嬢と思わしき女性が走ってきた。


「へベルナさん、すみませんッもう新しい冒険者が受け入れられませんッ!」

「......はい?」

「【赤の壁レッドウォール】の冒険者の一部がこっちに移りたいと申し出てきてゴタゴタがありまして......それにマスターは急用で今はいません、なのでもう新しい冒険者を受け入れる余裕はないんです」

「っ、待ってください、マスターと約束していました、アキラをギルドの加入させるという話は?」

「マスターが帰ってくるまではナシッ、本当に申し訳ありませぇえん」


あらら、まるで、ここ簡単に受かるよって真に受けて落ちた感じ。


「いや、待て、この感じだと。ギルドが持ってるっていうアパートは......」

「お金の問題もありますよ、食事だって......」


へベルナはつい吠える。


「マスター何処行ったッ」


ガクッ......


へベルナはそう言って四つん這いになってしまう。


「私の計画が......」

「ははは......」


ヤバいッ別荘であんな事言って、やった手前もう戻れないッて


「はぁ......」


......まさかまた橋の下での路上生活に逆戻り!?



「......どうしましょ」



第1章 容疑者アキラと偽りの旧友編 終

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