第26話:錬金術ギルドの試験、最終日1
翌日、錬金術師になるための試験最終日。高濃度の薬草スープを作り終えたジルは、こぼさないようにポーション瓶の中へ、それを流し入れていた。
出来上がったのは、薬草スープ入りのポーション瓶が十本。これを一つでもポーションに変えることができれば、錬金術師になれる。エリスに言われて始めたことだが、ジルはいま、どうしても錬金術師になりたいと強く思っていた。
「オムライスを作ったり、ルーナお姉ちゃんの話し相手になったりするだけじゃダメ。アーニャお姉ちゃんのお手伝いをできるようにならないと」
自分と同じように呪いで苦しむルーナの話を聞いたジルは、ずっと考えていた。
どうして呪いを解くポーションを、アーニャが持っていたのか。
どうして強力な呪いが付与された自分が、たった一本のポーションで治ったのか。
どうしてルーナが呪いにかかっているのに、アーニャはエリスにポーションを譲ったのか。
考えてもわからないけれど、その真意を聞くのは違うと、ジルは思っている。
自分が生きていることを心から喜んでくれるエリスに聞けば、悲しませてしまう。毎日懸命に呪いを解くポーションを作ろうとするアーニャに聞くのは、もっと違う。ましてや、まだ呪いに苦しむルーナには、口が滑っても聞けない。
「ルーナお姉ちゃんに使うはずだったポーションを、僕に譲ってくれたんだもん。呪いを解くポーションが完成するまでジッと待つなんて、僕にはできないよ。アーニャお姉ちゃんと一緒に、呪いを解くポーションを作らなきゃ」
いくらジルが子供といっても、元々エリクサーがルーナのために用意されたものだと、気づいてしまう。それでも、自分に使ってもらったのであれば、アーニャと一緒にルーナを治すことが自分の役目だと、答えを出していた。
ポーション瓶を左右で一つずつ握り締め、昨日のアーニャの姿を思い出す。
「アーニャお姉ちゃんが魔法を使ったときは、確か、左手から魔力が溢れ出しているようで……」
試しに、ジルはアーニャの真似をして、自分の魔力を流し入れようと試みる。
見た目では何も変化は起きていないが、この方法ではポーションができないと、ジルは悟る。
「今の感じだと、自分の魔力を使うから失敗しちゃうのかぁ」
失敗したポーション瓶を端にどけ、もう片方のポーション瓶に意識を集中する。
「確かアーニャお姉ちゃんは、マナを集めて雲を作るって言ってたっけ。……よーし」
ふんっ! と鼻息を荒くしたジルは、右手を前に突き出した後、空気中にあるマナを集めるように意識を向ける。アーニャみたいなスピードでマナは集まらないものの、確実にモヤモヤとしたマナが集まってくる。イモムシが進むようにゆっくりと、クッキリと、ハッキリと、白い集合体に変わっていく。
(あれ? アーニャお姉ちゃんのマナ、こんなに白かったっけ?)
あれ、なんか俺やっちゃいましたか? と言わんばかりにマナを集めてしまった、ジル。多くの時間を消費して集めたまではよかったのだが、手元に持っているポーション瓶にも影響を及ぼすほどの事態となっていた。
「なんか……失敗してる? 薬草の魔力がなくなっちゃった気がする」
本来、低級ポーションを作成するときに高濃度のマナを必要としない。それどころか、適切なマナを供給しないと悪い意味で干渉して、失敗することが多い。
「簡単に作れるって、アーニャお姉ちゃん言ってたのに。もしかして、マナが多すぎちゃったのかな。多分、料理初心者が火加減を強くして、失敗するパターンのやつと同じだ」
断固として違う! 新米錬金術師が集められるマナなど、この茶葉を何回再利用すれば気が済むのよ! とクレームがきそうな紅茶のように、薄い。ほんのり色が変わっただけで、水の味しかしないくらいに薄すぎるのだ。
一方、ジルはどうだろうか。茶葉を煮詰めすぎて、コッテコテになった紅茶のように、すんんんんっっっごい濃い。なんでこんなになるまで煮詰めたのよ! と、クレームが来るレベルで濃いのだ。よって、初心者あるあるなどでは、絶対にない。
この世界で初めて、低級ポーションに高濃度のマナをぶつけて、失敗した瞬間なのである。
失敗したポーション瓶を端にどけたジルは、違うポーション瓶を手に取った。
「やっぱりさっきのは、アーニャお姉ちゃんが作ったものよりマナが白かったよね。火加減で言えば強火だったから、今度はアーニャお姉ちゃんと同じくらいの、中火を目指そう」
そんなもの初心者が作れるわけないじゃない! と、突っ込むアーニャがいないので、これまた時間をかけながら、ジルは見事に再現してしまう。
「これだったら、ポーションが作れ……あれ? 失敗、してる」
だが、あくまで低級ポーションを作成しているのだ。マナの濃度は、まだまだ濃すぎるのであった。
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