第38話 在りし日の記憶2
一人の男が始めた街づくりは今やサムーラに住む全ての者の望みだった。
あらゆる部族が男に手を貸した。最早サムーラの誰もが自分達に定住の場所ができることを疑ってはいなかった。如何なる魔物が襲いかかってきても我らが偉大なるリーダーさえいれば何とでもなる。男はそれ程の信頼を勝ち取っていた。
事実男は強かった。どのような恐るべき怪力を誇る魔物も、どんな強靭な肉体を持つ魔物も、男の振るう剣には敵わなかった。
男の名前をデルルガと言った。デルルガは生涯戦い続けた。その最後は魔物の大進行を阻止するという劇的なものだった。最後の最後まで戦い続けた男を彼の仲間達は崇拝し、街の名をデルルガと名づけ、死した彼をサムーラの初代王とした。
そしてここからサムーラの王権制度が始まった。
デルルガには双子の子供がいた。王位をついだのは兄の方だ。選定方法は決闘。サムーラの王は誰よりも強い剣士でなければならない。そしてデルルガの血を引いた者達は皆その期待に応えられるだけの強さを持っていた。
最強の王に率いられた一騎当千のサムーラ兵。こうしてサムーラの伝統は出来上がり、そしてそれはこれからも変わらないように思えた。だが五代目サムーラ王の時代に一つの転期が訪れる。デルルガが大量の魔物に襲われ、その戦闘の最中に五代目サムーラ王が魔物の牙によって倒れたのだ。
それによって起こるサムーラ兵の動揺は凄まじく、その結果、デルルガはかつてない被害に襲われてしまった。
その事件を教訓に六代目サムーラ王は考えた。最も強い王が率いる軍。それは理想だ。だが理想は理想故に砕け散った時の損害が計り知れない。ならば武と知は分けるべきではなかろうか?
王は悩んだ末に決意する。幸いなことに初代からずっとサムーラ王の直系は双子だ。今までは強い者が王となり、陣頭に立っていた。これからは弱き者が頭脳となり民を導き、強き者が剣となって敵を討ち滅ぼすのだ。
六代目は生まれてきた双子の子供を一人だと民に発表した。双子は十歳になるまで全く同じ服、全く同じ名前、全く同じ教育を与えられた。公式の場にも交代で出た。事情を知る者以外は誰も双子を双子だとは認識できなかった。
そして双子が十歳になった頃、ひっそりと決闘が行われた。勝ったのは兄だった。兄は王国の剣として存分にその力を振るう為、男爵の地位を与えられ、代わりに王族を名乗ることを禁止された。
それがデルルウガ。王の血を引き、しかしそのことを歴史に葬り続ける剣の一族だ。
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