冬が嫌い
海星
第1話
私は冬が嫌いです。いえ、気候自体は好きなのですが、私の嫌いな音が溢れるから嫌いだと言えます。
私には生まれつき聴覚過敏があります。そして、絶対音感の持ち主だと言われました。
だからなんだ、それが私の感想です。どこに言っても音がついてまわり、町は不協和音のオーケストラです。何度自分の耳を潰して聞こえなくしようと思ったか、実行しようとして止められたかわかりません。
メニエール病を発症して、余計に聴覚過敏が酷くなりました。音を聞いているだけで世界が回り始めるのです。上下左右もわからなくて、平衡感覚も無くなります。そのせいで倒れることもしばしば。これでは仕事にならないからと、音を防ぐために色々な方法を試しました。
まず、耳栓、吸音シートで音を防ぐ。これも効果はあったのですが、音は空気を伝わるので今度は体感が過敏になり、振動で気分が悪くなり、やっぱり世界が回り始めます。
そこで、今度は音を相殺することにしました。同じくらいの音をぶつけて規則的な振動を崩すことで気を紛らわそうとしたのです。
まずはオーケストラのCDをかけました。綺麗な音楽で気は紛れました。ですが、オーケストラの音楽に紛れて、木管楽器のリードが割れた時に鳴る微かな高い音さえも拾ってしまい、気になってしまうようになりました。そこでまた不協和音に聞こえてきて気分が悪くなりました。
それならばと、一つの楽器にしてみました。ピアノ曲です。こちらは調律もしっかりできているのでズレた音に悩まされることはありませんでした。東京に住んでいた時は、電車や駅の音がどうしても駄目で、ピアノ曲のCDに救われました。地元に帰ってからもこのCDは重宝しています。
そうして大抵の音はクリアできるようになったのですが、どうしても耐えられない音が一つだけあります。エアコンの室外機です。
エアコンは温度を下げるよりも上げる方が、より負荷がかかるので、室外機の音が大きくなります。だから冬は本当にうるさいです。
どうして室外機の音が不快なのかと考えてみたら、その音が単調ではなく、不協和音になっているからだと気づきました。ベースのような重低音がドッドッドッと奏でる上に、キュイーンというギターのような音、そして、人の声のようにファルセットがかかります。一つの機械でこれだけの音を奏でるから嫌いなのだなと。
正常な室外機ならこれだけですが、掃除を怠ったり、ゴミが入り込むと、カラカラという音まで混じり、更に音が大きくなります。
音を聞くだけで室外機が正常かどうかわかるのも嬉しくないです。それだけ隣の家の室外機が毎日うるさいという、ただの愚痴でした。
冬が嫌い 海星 @coconosuke
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます