二章 忍者が竹やぶ作りたがってる
十四話 えっ? 異世界にも巫女さんいるの?
仲間とはぐれ、空の上で暮らすようになってからひと月が過ぎた。
「チ、チ、チュ、ン、チュン」
マイハウスから漏れる光と、下手くそなひよこの鳴き声が俺を起こしに来る。
ひよこも大分成長し、ちゃんと鳴けるようになってきたがまだまだだ。
でも、毛並みが生え揃ってきて、とてつもなく可愛いのよなあ。
多分世界で一番可愛い鳥だと思う。
すずめだと分かった時は驚いたけど。
だが、俺は起きない。
俺を起こしていいのは女の子だけだ。
「ご主人さま。朝なのです! 起きるのです!」
「んあー?」
ああ、ラビに起こされたのなら、起きなきゃいけない。
でも、この起きなきゃいけないと思っている時の二度寝の誘惑。
そして、もうちょっともうちょっとと、先のばしにしたくなる誘惑。
たまらんのよなあコレ。
ずっとこうしていたいなあ。
別に誘惑に負けてしまってもいい気がする。
誰かに責められる理由もないし、俺、自由人だし。
「ご主人さまは朝弱いのです。だからラビは考えたのです。寝たままごはんを食べさせれば良いのです。それえっ!」
「もがっ。もごごご……」
元気な掛け声と共に、ちぎったバナナが口に放り込まれた。
それえって、人にごはんを食べさせる時の掛け声じゃないよね!?
結構深くまで押し込むから、とても苦しい。
「ラビ。まっふぇっ、ふかひ、ふかひ」
「あ、もっと、たくさん、深く、深く、ですね」
「ひがっ。ぐふっ」
待ってだし、もっとじゃねーし!
深くでもねーし!
たくさんはどこから出てきた!
しかし、ラビの行為を無下には出来ない。
次々に放り込まれたバナナを何とか全て平らげた。
お陰で目は覚めた。
多分ラビはひよこにエサをやれなくて寂しいのだ。
もう、ひよこは口に突っ込まなくて良いほど成長しちゃったから。
「チュ? チ、チ、チュンチュン」
目覚めたらまずはラビとさつま芋の様子を見に行く。
植物というのは真っ昼間にお水をあげると湯だってしまうんだそうだ。
だから、朝方か夕方にやるのがよろしい。
「さつま芋の壺がだいぶいっぱいになってきたのです。ほら、おみずですよー」
「そうだね。つるも順調にのびてきたし、後3、4カ月も経てば収穫できるよ」
「お芋楽しみなのです」
これは俺も楽しみにしている。
前世でもさつま芋を育てていて、考えた事があったのだ。
高いところから、ずらーっと、芋の苗をプランターで育てたら面白そうだなと。
緑のカーテン何か、このさつま芋たちにくらべたら、可愛すぎる代物よ。
俺のは、緑のオーロラになるのだ。
きっと、壮観になる。
「さて、今日も雲の下は海かも知れないけれど、地上の様子を見に行ってみようかね」
「準備は出来ているのです!」
ラビを背中から抱き締めると、さつま芋の壺の間から飛び降りた。
「いよっし! 前方に陸が見えたぞ!」
「はー。久しぶりの大地なのです。ご主人さま見てください。何か青くて大きな山が見えるのです」
「ああ、あれは富士山だね。おっきいなあ──。はあ!? 何故にマウントフジ!?」
なぜ異世界に、富士山が!?
いや、別に富士山とは限らないか。
俺が日本人だったから、この山が富士山に見えたのだろう。
「ふじさん? マウントフジ? ご主人さまはあの山を知っているのです?」
「ああ、ごめん。多分見間違いだよ」
しかし、瓜二つだなあ。
この異世界に日本に似た国があっても可笑しくはない。
異世界に詳しいかつての仲間は、この世界は転生者の為にあると言っていたし。
「む、人がいるな。あんまり、人の前には出たくないんだが……」
「ご主人さま! 女の子が囲まれているのです!」
「何があったのかは知らないが、女の子である事が大正義だ! 助けるぞ!」
人前には出たくないが、女の子の為なら行かねばなるまい。
出会え出会えとか、言いそうな奴等に追われているな。
やっぱり、日本っぽい。
ここは、日本モドキなのか?
「あっ! 飛び降りたのです!」
「ラビ。しっかり掴まっているんだよ。急降下する!」
死なせてなるものか。
俺の目の前で女の子が死ぬだなんてあってはならないんだ。
間に合え!
「よーし! 捕まえたっと!」
女の子をしっかりキャッチすると、海面ギリギリのところを滑るようにして飛び、落下の勢いを空を飛ぶ早さに変えた。
ああ、心臓がバクバクいって苦しい。
しかも、二人も抱えるとなると結構しんどい。
「ご主人さま凄いのです! でも、この子元気が無いのです」
「気を失っているみたいだな。そりゃ、大人でも気を失うこともあるらしいから、女の子ならなあ」
今日は一度戻った方が良さそうだな。
追われていたようだし、自殺するぐらいなら連れて帰っても問題あるまい。
しかし、白と赤色のヒラヒラしたこれは──。
巫女か?
まあ、起こして話を聞いてみよう。
聞けるのに邪推する必要はあるまい。
二人抱えての飛行はなかなかにしんどいものであったが、何とか城なしに戻る事が出来た。
「起きるのです!」
目覚めたときに男の顔が、目の前にあったら驚かせてしまうだろうと思い、ラビに任せた。
一度自殺しようとした人間というのは、目覚めた後に再び自殺しようとする。
そんな事を聞いたことがあるので、あまり離れず警戒は緩めない。
しかし、露出が多くてよろしくないな。
なんだって、へそだし、生足だしの格好なんだ。
「うぅっ、ここは……?」
「お空の上なのです!」
「空の上……。わぁは死んだのか……」
わぁは津軽弁で、私の意味だったかな。
前世で一度だけ、わぁと自分を呼ぶ奴に会ったことがある。
なんでも、都会の男にはウケが良いそうな。
「死んでないのです。ご主人さまが、ギリギリのところで助けたのです」
「ご主人さま? こちらのお方かのう? しかし、首輪と鎖でおなごを繋ぐ男とは、わぁは助かって無いんじゃないかのう……」
ああ、忘れてた。
ラビには首輪と鎖があったんだ。
奴隷=お姫さまだと思っているから外させてくれないんだ。
そりゃ、不安になるわな。
「大丈夫だよ。君の思っているような男じゃあないから。返して欲しければ直ぐにもとの所に返すから心配しないでおくれ」
「そ、そうかの? じゃが、わぁにはもう帰るところはないでのう──」
ああ、こりゃ、何があったのか聞かない方がいいかな。
「なら、ここに居ればいいさ。ここは、誰も来ないし安全だよ」
「しかしのう。そうは言われても直ぐに信じるのは難しいでのう」
まあ、そりゃそうだ。
慣れて貰うのには時間が掛かりそうだ。
と、思ったのだが──。
「ふぁあ? 甘いのう。甘いのう。こんなの初めてじゃ。わぁここに住む」
「おいおい、嘘だろう? バナナアイス一つで信じちゃうのかよ!?」
「ご主人さま。甘いモノは大正義なのです!」
ガバガバ過ぎるだろう、その大正義!
ああそうか、だから子供のころ、お菓子をくれるおじさんについていっちゃ行けませんと教育されたのか。
お菓子はやばすぎる。
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