第2章 エピローグ

現在________

私はキッチンで昨日使ったであろう器具とコップを洗っている。

何ヶ月ぶりだろう、1人で洗い物するのは……

もう、この店で働いて半年になるのに、去紅舞さんに頼りすぎだよね。

でも、それでもあの人には勝てなかった。

私よりも彼女を選んだのが、その答えである。

それでも諦めなんて付く訳が無いから、こうやって去紅舞さんの帰りを待っているのだろう。


「……あれ、何でだろう、


私の手は今、食器用洗剤で泡だらけなため、涙を拭くことが出来ない。

涙が頬を撫で、キッチンのシンクの中に落ちていく。

誰か、私の涙を止めてよ!!

もう涙は流したくなんてないの!!

もう、私じゃダメなんだってわかってるから……

それでも溢れ出した涙が止まらない、いや、止められないでいる私は、最後のコーヒーカップを洗い始めた。


「涙なんて、お前らしくないぞ。でも、そのくらいなら俺が何時でも拭いてやるよ」

「え……」


あの人の、大好きな人の手が私の目元を優しく撫でる。


「ただいま、綾香。放置したままで悪かったな、カップも器具も」


私は言葉を失った、彼は今、私の目の前に立っている。

相も変わらず無愛想な表情が今は、優しい心を持っている人のような顔をしている。


「あれ?もしかして、俺の事忘れちゃったの?」

「……か」

「ん?もう一度お願い!!上手く聞き取れなかった」

「このバカっ!!」

「え!?」

「何回も言ってあげますよ、去紅舞さんのバカ、バカバカバカ!!何でこの世界線に戻ってきちゃうんですか!!阿阪さんと幸せになる世界線を私が進めた理由がわかった上でやってるんですか!!」

「そうだよ」

「何で私を選ぶんですか!!阿阪さんに勝てないから、私は!!私は諦めたのに……」

「そう、だったのか……、ごめん。」


そう言うと去紅舞さんは私の頭を撫でた。


「何でそんなに優しいんですか。何でそんなに好きにさせるんですか。何で私が届かないと思ってたのに手を伸ばしてくれるんですか……」

「そんなの、理由なんてあるのか?」


その瞬間、私はハッとした。


「好きに理由があるのか?それなら何が愛で何が恋で、それを証明する理由があるのか?」

「それは……」

「俺の好きは綾香の好きと同じように具体的な理由がない好きなんだよ。愛で、恋で、そして理由のない本当の好きなんじゃないのかな?」


その時、私の頬を一筋の雫が流れた。

枯れ果てたと思っていた涙が溢れ出した。


「わぁぁぁぁあ!?ちょっと、泣かないでくれよ!?」

「なら、泣かさないでくださいよ!!今の言葉、忘れませんからね」

「そうだね、私もちゃんと覚えておくよ」


声の方を振り向くと、休憩室に向かう扉の前に一人の女性が立っていた。


「去紅舞、大胆なプロポーズだな!!たまには男を見せるじゃないか!!」

「美葉音、そういうのやめてくれよ!!恥ずかしいだろ」

「まあ、そうだろうな。そして、君が綾香ちゃんだね。やっと会えたね!!何度も顔は見てるのに、初めましては本当に違和感がある」

「私もです、阿阪さん。」


この日、私たちは出会った。

やっと会うことが出来た。


「意外としっかりした子じゃないか、これからも去紅舞のこと頼んだよ。私もこれからは近くにいるから、支えるよ。」

「頼まれました!!私も何かあれば力になりますので、良かったらこれから仲良くしてください!!」

「うん、言い返しだ!!この子めちゃくちゃいい子じゃない。去紅舞には勿体ないくらいにね、私が貰っちゃおうかしら」

「それは美葉音でも許さないぞ。」

「大丈夫、私、女の子もイける口だから」

「というわけで、これからと言うか、これからも一緒に働く阿阪美葉音だ。よろしく頼むよ、綾香」

「はい、お二人共これからも、よろしくお願いします」











________________2章完結

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