第151話:魔力スポット
正義感に満ち溢れたリズが、魔の森の調査を果敢に手伝おうと提案したため、俺はいったんストップをかける。
「リズ、気持ちはわかるけど、いったん落ち着いてくれ。凶悪な魔物が繁殖するなんて、ただ事じゃない。手伝うにも限度があるだろう?」
「調査くらいならできるんじゃないかなー。魔族の領土であったとしても、同じ地上で起こる現象だもん。可能性として高いのは、『魔力スポット』だよね」
聞きなれない単語を聞いて、俺もベルガスさんも首を傾げた。当然、メルとレミィがわかるはずもなかった。
でも、魔法と魔力が密接に関係している以上、リズが詳しく勉強していても不思議ではない。むしろ、得意分野だと思う。
「詳しいことは解明されてないけど、魔力濃度が局所的に高まる場所を『魔力スポット』と言ってね、魔物が凶暴化して変異しやすくなるの。空気中の魔力濃度を調べれば、すぐにわかるはずだよ」
「人族の研究は侮れないな。魔物が高濃度の魔力を好むことは知っていたが、そんな影響を与えるとは」
「魔物の生存本能なのかもしれないね。進化して強くなるために、その場に留まろうとするの」
「我らと生息域を争っている以上、気持ちはわかる。強大な敵を前にすれば、強くなる以外に道はない」
うんうん、と互いに頷いて納得する二人だが……、なんで魔物に共感しているんだろうか。意外にベルガスさんとリズは気が合うのかもしれない。
「問題は、魔力スポットにしては範囲が広すぎることかな。たぶん、魔晶石が魔力濃度を上昇させて、広範囲に影響を与えているんだよ」
俺たちが魔の森で魔晶石を発見した時も、無造作に置かれているみたいだった。ヴァイスさんが『高濃度の魔力が含まれた特殊な鉱物』と言っていたし、リズの考えは正しく聞こえる。
本来であれば、空気中に含まれる魔力が一定以上集まり、魔晶石が生成されることで、魔力濃度が管理されるシステムなんだろう。でも、魔の森の一部はフォルティア王国の領土内で、採取できていない。この街に来るときも魔晶石をいくつも目の当たりにしたから、影響する可能性はある。
「魔力スポットと魔晶石が重なることで、魔力濃度を高める増幅装置みたいな役割を果たしているのか」
高濃度の魔力が集まったものがあちこちに発生すれば、それ自体が共鳴を起こし、空気中の魔力濃度を高める原因にもなりかねない。思っている以上に、魔の森は危険な状態なのかもしれないな。
「確実なことは言えないけど、シャドウウルフの亜種が増え続けているのも説明がつくよね。魔物の住処に魔力スポットが発生したら、亜種しか生まれないと思うの」
パズルが組みあがるように情報が集まっていくと、ベルガスさんが何かを思い出したように目を大きく開いた。
「そうか。数年前、魔晶石の取引をティマエル帝国と行う予定だったが、急に断られたことがある。その影響で魔昌石の採取が遅れているのは事実だ。魔の森の異変とティマエル帝国との問題が重なり、採取という発想自体がなくなっていたな」
時の流れが緩やかな魔族にとっては、魔晶石を採掘しようと思っていても、数年くらいは平気で放置するだろう。今までの出来事にも、すべて説明が付く。
でも、魔力を増幅させるような状況だったら、魔族が気づくんじゃないのか? ここにいるのは、魔帝国の四天王であるベルガスさんだぞ。魔力スポットの存在を知らなくても、魔の森の異変を見逃すとは思えない。
「一つだけ気になるんですけど、魔族は魔力に敏感なんですよね? それなら、今まで魔力スポットに気づかなかったんですか?」
「大気中の魔力が変化すれば、魔族はすぐに気づく。実際に、魔の森の魔力濃度が上昇していることに気づいているが、問題視するレベルではない。空気中の魔力濃度を測定しても、魔力スポットとやらは見つからないだろう。だが、可能性はゼロではない」
不穏な言葉を発したベルガスさんは、顎に手を置いて考え始める。
「いま思えば、トロールキングを討伐している最中に、魔力濃度の上昇を感じた。戦闘による高揚で勘違いしただけだと思っていたが、そう考えるにはまだ早い。地面を掘り起こしてまで調べようと、普通は思わないからな」
確かに、魔力を肌で感じられる魔族にとっては、わざわざ調査を行う必要はない。トロールキングを討伐する時みたいに、モグラ作戦で穴を掘るなんて真似は絶対にしないと思う。
でも、魔物は違う。シャドウウルフが穴を掘って生息する生き物なら、魔力スポットの影響を受けて、亜種ばかり誕生していることにも説明がつく。
戦闘後に穴を埋めたから、ベルガスさんも魔力濃度の上昇は勘違いだと判断したんだろう。今度はしっかりと調査すれば、魔の森に起きた異変の原因がわかるかもしれない。
いや、現地に行かなくても、確認できる方法はあるか。こういうときに便利なのが、インベントリなんだよな。
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