第103話:リズの気持ちⅡ
エレノアさんとアリーシャさんが俺に気がある、リズがそう言い出したため、慎重に意見を聞くことにした。
「どうしてそう思ったんだ? まず、エレノアさんは俺のことを弟みたいに思ってるだろう?」
「それは照れ隠しだと思うんだよね。だって、けっこう年が離れてるもん。私よりもミヤビの方が心配で仕方がないって感じだから、母性が刺激されてるはずだよ。仮拠点に泊まりに来たとき、いつもより服装に気合いが入ってたし」
……そ、そうなんだ。ふーん。いや、全然期待してないけどね?
「でも、リズと遊んでばかりで、俺と話していた時間は少なかったぞ」
「エレノアさんは大人なんだよ? 私たちみたいな恋愛の仕方をしないの。心に寄り添うような恋愛テクニックで、気づけば隣にいて欲しいと思わせるんだから。私なんて一週間も会わなくなると、寂しくなっちゃうもん」
確かに、エレノアさんがいてくれると安心感があるし、大人の包容力もある。ギルドの裏事情も教えてくれるし、いつも気にかけてくれて、優しく寄り添ってくれている。
リズの言うことも一理あるかもしれない。リズがエレノアさんのことを好きすぎるだけのような気もするけど。
「じゃあ、アリーシャさんはどう見えてるんだ?」
「ミヤビと一緒にいるときのアリーシャちゃんは、けっこう素が出るんだよね。メイドさんがそこまで心を許すなんて、好きって言ってるようなもんじゃないかな。王都へ来るときだって、御者台の隣に座ってたじゃん。普通にあり得なくない?」
そういう気はしてるんだよなー。でも、アリーシャさんの父親にも似てると言われてるから、家族のような安心感で気が緩んで、素が出てるだけの可能性もある。ちょうどリズがそんな感じだし。
「実は成り行きで、うちの拠点のメイドをお願いしたら、専属メイドの契約が切れたときにお願いしますって言われたんだよな」
「ええっ!? 何それ、嬉しい!」
落ち込んでいたはずのリズがアリーシャさんの情報を聞いて、満面の笑みを浮かべる。しかし、ここはブロックを繋げただけの強風が吹き荒れる場所だ。気を抜いて魔法を解除すれば、風に襲われるのも当然のこと。
ビューーーッ
「うぉいっ! 風魔法を緩めるなよ!」
「ごめん、ちょっと動揺しちゃった」
「頼むぞ。マジで落ちたら、死ぬ」
「わかってるよ。でも、シフォンちゃんの専属メイドなのに、うちに来てくれるなんて嬉しいじゃん。だって、アリーシャちゃんは真面目で可愛いし、優しく注意してくれるんだよね。時間があるときは髪を解かしてくれるお姉ちゃんっぽい雰囲気まであわせ持つの」
やっぱり、リズの願望が入ってるんだよな。母親や兄弟姉妹がいない家庭で育った影響によって、母親や姉に憧れを抱いているんだろう。
アリーシャさんが、夜は怖くて一人で寝られないと言ってたし、リズと相性はいいと思う。二人とも寂しがり屋なら同じ部屋で寝ると思うし、どんどん仲良くなる気がする。
ただ、それは俺の恋愛と関係がないわけであって……。
「で、ミヤビはどっち派なの? すでに仮拠点へ呼んだエレノアさんかな。それとも、これから仮拠点に滞在するアリーシャちゃんがいい?」
俺と話せなくて寂しいと言ってたリズは、もういない。恋愛話が好きな年頃の女の子みたいになり、嬉しそうな表情で聞いてくる。
しかし、男心をくすぐられた俺としては、複雑な心境だ。娘みたいなリズのままでいてくれて嬉しいような気もするし、寂しいような気もする。このまま話してると変なことを言ってしまいそうだから、適当に誤魔化すとしよう。
「二人とも素敵な人だよな。よし、そろそろ橋の骨組みを作っていくか。クラフターたちもレンガブロックを作り終えた頃だろう」
「ええーっ!? 私に意見だけ言わせておいて、逃げるのはズルくない? 減るもんじゃないんだし、教えてくれてもいいじゃん。実際に二人がどう思っているのか、直接聞いてあげてもいいよ?」
「先に騎士団の意向を聞いてあげるべきだな。魔法で風を防ぐ障壁を張れる人は、限られると思うんだ。魔物が来なくても魔力を消費するし、役割分担を明確にした方がいい」
「真面目な話で誤魔化すのもズルいと思うんだよね。私はどっちのことが好きでも、応援するつもりなのになー」
今はその応援が困るんだよな。もう少し男心を勉強してほしい。
「そういうリズはどうなんだ? 誰かいい人はいないのか?」
「私は親がいなくなって悲しい思いをしたから、結婚しても子供を育てられる自信がないんだよね。だから、冒険者になるときに結婚しないって決めたんだー。その影響もあるのかな、男の人と話しててもドキドキしないの」
そう言われると、リズは貴族やギルドマスターみたいな偉い人に会う時に緊張するだけで、恋をしているような仕草を見せない。逆に、家族のような関係をパーティや友達に求める節があって、仲良くしたい人は男女問わず大切にする傾向がある。
まだ若くて可愛いのに、もったいないとは思うんだが……考え方は人それぞれだ。育ってきた環境もあるし、下手なことを言うべきじゃない。
あまり聞かない方がいい話題だったかもしれない、と反省していると、不意にリズが満面の笑みを浮かべて、俺を見つめてきた。
「でも、どうしても結婚する必要があるなら、ミヤビにお願いするかもしれないね。だって、私のお父さんだもん」
……本当にリズは、たまーーーにこういうところがある。思わせぶりな発言で男心をグラグラと揺さぶり、歯がゆい気持ちにさせてくるんだ。
「普通は父親と結婚しようと思わないだろう」
「そうかな。私はお父さんみたいな人と結婚したいなーって、思ってたよ。面倒見が良くて、頼りがいがあって、いつでも甘えられるんだもん。だから、私が保証してあげるね。ミヤビはモテるって」
この日、橋の骨組みを作り続ける俺は、人生で一番複雑な気持ちになるのだった。
「ねえ、やっぱり大人のエレノアさんがいい? それとも、メイドのアリーシャちゃんの方が好み?」
嬉しそうに問いかけてくる、リズのことを思いながら。
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