第102話:リズの気持ちⅠ
「なんかさ、ミヤビと二人きりって……久しぶりだよね」
障壁を張って風を防いでくれているリズが、突然思わせぶりな発言をしてきた。 落下防止用のブロックを空中に設置している俺は、いろんな意味でドキドキしてしまうものの、平然とした顔で作業を続ける。
「急にどうしたんだ?」
「少し前まで依頼は二人で行動してたし、仮拠点でも二人だったでしょ? でも、カレンちゃんが仮拠点に住み着いて、クレスくんから大きな依頼を受けてさ、会話する機会も減ったなーって思って」
だから、それがどうしたんだよ! 急に恋人みたいな雰囲気を作られると、こっちが緊張してくるだろう!!
「この依頼が終わったら、また二人になると思うぞ」
なんか死亡フラグを立てていないか? つまずいたら死にそうな場所で、変なことを言わせないでくれよ。
「カレンちゃんは一緒に来るでしょ? ミヤビの弟子なんだもん」
「もう俺が教えてやれることはないし、カレンは一人でやっていけるだけの力がある。アンジェルムの街に戻っても、独立して頑張る気がするよ」
「できるかな。カレンちゃん、恥ずかしがり屋なのに」
「大丈夫だろう。トレンツさん経由で仕事をもらうだけでも、生きるには十分な利益が得られる。商業ギルドで代行販売してもらえるなら、多少の手数料を取られたとしても、カレンなら一人で生きていけるよ」
「そっか。それはそれで寂しいなー。でも……ちょっと安心するかも」
妙に大人っぽい顔をしたリズは、まっすぐ前を見つめて、どこか遠い目をしていた。
こういった表情をリズが浮かべているときは、落ち込んだり、悩みすぎたりするときが多い。パーティで疎遠が続いたことで、何か思うところがあったんだと思う。
「さっきからどうしたんだよ。いつもより元気がないぞ。思い上がりかもしれないけど……俺と一緒じゃなくて、さ、寂しくなったか?」
「うん……。ちょっと……」
そういうところが男心をくすぐってくるんだよなー。後で付け足した「ちょっと」が、本当は「とても」と言いたい感じを押し殺していそうで、心がムズムズするんだよ。普通は「そんなわけないじゃん」って強がるところだぞ。
毎日カレンやアリーシャさんと同じ宿舎で寝泊りしてるんだし、俺と話せないだけで落ち込む必要はないと思うんだ。ましてや、それを本人に伝えるなんて、普通はあり得ない。素直に態度で表されると、嬉しいよりも心配になるぞ。
「大勢の人が参加する依頼で、会話ができていないだけだ。毎日顔は合わせているし、仲が悪くなったわけじゃない。パーティを組んでる以上は、いつでも話せるだろう?」
「そう思ってたら、お父さんがいなくなったんだもん」
あぁー……なるほどな。足を踏み外したら死んでしまうような環境で作業してるから、リズの父親に似てる俺までいなくなるかもしれない、と感じたのか。父親が亡くなったときの思い出が蘇って、不安に押しつぶされそうになったんだろう。元々寂しがりな性格だから、余計に怖く感じてしまうんだ。
しかし、こっちも命を懸けて足場を作ってる以上、ブロックの設置作業に集中がしたい。話を聞くだけならいいけど……、そうもいかないよな。自惚れてるわけじゃないけど、多分、俺の声が聞きたいはずだから。
「じゃあ、何を話す?」
「急に言われても、困るけど」
こっちはもっと困ってるんだよなー。強風が吹き荒れるこの場所では、リズに魔法で障壁を張ってもらう必要があるし、近くにいてもらわないと困る。それだけに雰囲気が重くなると、気まずくて仕方がない。
何か話題はないかなと考えていると、急にリズがソワソワし始めた。周囲を何度もチラチラと確認した後、不安そうな表情を浮かべて俺を見つめてくる。
「最近のミヤビってさ、アリーシャちゃんといい感じだよね。エレノアさんとどっちが好きなの?」
会話の話題選びが下手くそかよ! ムードクラッシャーかよ! このタイミングで一番ない話題が、他の女の話だぞ。薄々気づいていたけどさ、いまのリズの気持ちを当ててやろうか?
お父さんが再婚相手を見つけようとしているときの娘の気持ちになってるんだろ! お父さんが取られそうだから寂しいけど、でも幸せになってほしいから応援したい、的な滅多にないシチュエーションのやつ!
「どうなんだろうな。俺にはわからないよ」
とりあえず、誤魔化そう。確かにアリーシャさんとは良い雰囲気だけど、リズとこんな話をするとは思ってなかった。恋愛相談するとしたら、絶対にシフォンさんだからな。
「私はどっちも脈ありな気がするんだよね」
……まあ、リズの意見を聞くのも悪くないと思うよ。一番身近で俺を見てくれてるのは、リズだから。
決して、第三者から見て脈ありだと思う根拠が気になるわけじゃないぞ。決してな!
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