第78話:おもてなし
いつの間にかカレンが仮拠点に住み着き、完全に俺の弟子みたいな雰囲気になった、二週間後のこと。尋常じゃない雪が降り積もり、外が銀世界になっていた。
当然、こんな寒い日はポカポカで温かい仮拠点の中で、ゆったり過ごして……いない!
「コラッ! ブロックでガードするのはズルじゃん!」
小さい頃から寒がりで冷え性のリズが憧れていた、雪合戦をすることになったんだ。ポカポカグッズを着用していれば、大自然の脅威に負けない温かさがあるため、恥ずかしそうに誘ってきたよ。
ねえ、一緒に雪合戦しない? と。
アラサーの精神を持つ俺としては、子供じゃないんだから、と大人の羞恥心が邪魔してしまう。しかし、今の俺の体はリズよりも年下なので、「雪合戦のプロに挑むとはいい度胸だな」と、謎のマウントを取って参戦した。
異世界の雪合戦がハードだということを知らずに。
「そんなこと言うけど、リズは風魔法で雪玉を加速させてるだろ! 魔法使いが魔法使うなら、クラフターがブロックを使って何が悪い!」
「怪我しない程度だもん! 実質使ってないのと同じだよ」
「とんでもない豪速球を投げておいて、変な言い訳を使うなよ。怪我はしなくても、ダメージが残るやつだぞ」
雪玉の軌道が明らかにおかしいんだよな。リズが雪玉をパッと離した瞬間、グオーッ! と加速してくるんだ。何の前触れもなく投げつけてくる、ピッチングマシーンみたいなもんだぞ。せめて、投げるモーションだけでもしてほしい。
「だって、ミヤビが強いんだもん。ちょっとくらい私も当てたいじゃん。魔法使わないと勝てないし、ミヤビのことだから、絶対になんかズルしてるよー」
人聞きの悪いことを言うようになったな、リズも。投擲スキルが自動で発動して、狙いが鋭いだけだろう。魔法を使ってこなければ、リズが投げた雪玉をすべて空中で迎撃できるからって、不正を疑うのはやめてくれよ。ただの実力だ。
盛大に不正している俺が優位に雪合戦を進めていると、雪をかき集めてくれるカレンがやってきた。仮拠点の周りはポカポカすぎて、雪が溶けやすいんだ。
「師匠、リズちゃん! 雪を追加しにきたのです~!」
街中の雪をインベントリに詰め込み、うちの敷地内にバーッと撒いてくれる。以前に作ってあげたポカポカセーターを着て、元気にスコップを持って駆け回るカレンには申し訳ない気もするが、これもクラフターの修業の一つだ。
「どうだ? インベントリは拡張してる感じがするか?」
この二週間、
今まで真面目に作業台でクラフトしていた影響が大きく、
「拡がってる気がするのです。今まで採取はやってこなかったですし、街の外で採取するのは怖いから、雪があるうちに頑張るのです!」
元々インベントリの容量が大きめのカレンは、こういったパワープレイに向いている。クラフトスキルに未知の可能性を感じて、楽しめている影響も大きい。
「子供が雪で遊びそうな場所だけは避けて、雪を回収してくるんだぞ」
「大丈夫なのです。雪が積もった日は、元々クラフターが各家をめぐる習慣があるのです。採取の穴場スポットは、すでに調査済みなのですよ~!」
勢いよく雪の採取に向かうカレンを見送っていると、ムスッとしたリズが近づいてきた。
「街の緊急依頼『屋根の雪下ろし』っていうのがあってね。生産ギルドに事前申請していると、クラフターが各家を回って、屋根の雪を下ろしてくれるの。ついでに買い物も頼まれたり、家具の修理も頼まれたりするから、ボーナスイベントみたいなものかな」
「稼ぎが悪いクラフターは雑用をこなさないと、生産職として生きられないってことか。大変だなー、クラフターって」
「呑気なクラフターがここにいるけどね。雪合戦はもう終わりにして、今度は雪だるまを作るよ」
「いいのか? 俺に雪だるまを作らせたら、とんでもないやつを作るぞ」
「別にいいけど、クラフトスキルは禁止ね。インベントリも使用不可だから」
「厳しい条件だな。リズも氷魔法でズルしようと考えるなよ?」
「べ、別に考えてなかったし。雪が早く固まるように魔法を使おうなんて、全然考えてなかったもん」
敵対していた雪合戦から一変して、リズと一緒に雪だるま作りを始める。
ひたすらゴロゴロと転がすだけだが、妙に楽しいのはなんでだろうな。ポカポカグッズのおかげで、霜焼けになることはないし、子供に戻ったような気分だよ。……まあ、実際に十五歳まで若返ってるんだけどさ。
仮拠点の前だとすぐに溶けてしまうため、敷地の入り口付近に雪だるまが完成する頃、こんな雪が積もる寒い日に、一人の客人が足を運んでくれた。
「リズちゃん、ミヤビくん。元気ですね」
冒険者ギルドも休業状態で、暇を持て余していたエレノアさんである。仕事がない今日は私服で、黒のロングスカートにタイツを履き、白の温かそうなトップスを着て、茶色のコートを羽織っていた。
以前、VIP待遇で迎え入れようと決めていたこともあって、雪がちらつき始めた昨日のうちに声をかけておいたんだ。日頃のお礼を兼ねて、仮拠点でリズと一緒に食事をしませんか? ってな。
これには、ヴァイスさんの付与魔法の練習を支え続け、久しぶりにエレノアさんと再会したリズもニッコリだ。本当の姉妹が再会したかと思ってしまうほど、ギュッと抱きついている。
「エレノアさん、かなり冷え切ってますね。それなら、ミヤビが作ったお風呂に一緒に入りませんか?」
「仮拠点なのに、お風呂、ですか? どういうことでしょうか、早くも嫌な予感がするんですが」
「敷地内に踏み入れたからには、もう逃げ場はありませんよ。夢よりも夢っぽい、現実逃避の世界へ一緒に旅立ちましょう」
ガシッと腕をつかんだリズが、エレノアさんを引っ張って誘導していく。
うちの拠点のコンシェルジュ、リズに任せておけば、極楽への道が自然と開かれるに違いない。何といっても、エレノアさんと一緒に過ごすことを一番楽しみにしているのは、リズだからな!
「ま、待ってください。仮拠点に雪が積もっていない時点で、少し現実逃避をしていますから。早くも不自然が始まっているのに、普通の家にはない風呂場がある時点で、おかしいではないですか! ミヤビくん、いったい何をやらかしたんですかー!」
今まで見たこともないほど取り乱すエレノアさんを見て、俺は思った。リズと一緒に立てた強引に押す作戦、めっちゃ効いてるなーって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。