第61話:学園に到着
Aランク冒険者という障害がなくなった護衛依頼は、順調に進んでいった。
正確な索敵で指示を送るリズに、下僕のように素直に従う
夜になると、メルが目を光らせて警備してくれるし、シフォンさんの勉強をリズが教えている。寝心地を悪くしたベッドにアリーシャさんも眠り、すべてが良い風に回り始めたように思えるが……。
「ミヤビくん、リズちゃんが四歳だった頃の話をしてあげよう」
親でもない赤壁が、リズの自慢話をしてくるようになった。嫌がらせ行動から和解した後、お気に入り認定された俺に対して、積極的にコミュニケーションを取ってくるんだ。
国や街のことを聞くと親切に教えてくれるし、他のサポーターや貴族の護衛依頼の注意点など、有用な情報が聞けることについては、ありがたい。でも、距離感を縮めすぎるとリズみたいに溺愛されそうなので、突き放すようにしている。
「多分ですけど、勝手に幼い頃の話をしていると、本人に嫌われますよ」
「残念ながら、今日はここまでだ。ミヤビくん、また明日会おう」
扱いやすい人たちではあるので、慰謝料の代わりに、何か問題が起きたときは協力してもらおうと思う。何も言わなくても、勝手に協力してくれそうではあるけど。
そんなこんなで、雨の影響により一日遅れで王都に到着。門兵さんに通行処理をしてもらい、大きな防壁を通りすぎて、ワイワイと賑わう街並みを歩いていくと、シフォンさんが通う学園にたどり着いた。
広大なグラウンドに魔法練習用のカカシが設置され、訓練に励む生徒が何十人といる。敷地を区切るように鉄柵があって、正門には何名もの兵士が滞在していた。
赤壁に聞いた話では、入学試験で著しい成績を残した平民以外はほとんどが貴族出身で、他国の王族も通うほどの魔法学園だそうだ。この国の王都に作られているものの、冒険者ギルドや生産ギルドが管理しているため、中立に近い立場で運営しているらしい。
馬車を止めると、グッと伸びをしたシフォンさんが降りてくる。
「少々お待ちいただけますか? 冒険者の方が学園へ入るには、特別通行許可書を発行する必要がありますので」
本来であれば、この場で護衛依頼は終わり、冒険者ギルドへ報告に行く。しかし、俺がクラフト依頼を受けたために、シフォンさんの部屋まで向かうことになった。インベントリにある荷物も持っていってあげられるし、ちょうどいいと思う。
ちなみに、野営警備担当のメルは馬車で寝る予定だったけど、王都へ着く前に馬車を降りていた。眠そうな顔で俺の横に立っている。
「わかりました、お待ちしてますね」
馬車の運転をしてくれたアリーシャさんと共にシフォンさんが学園の中へ入っていくと、赤壁の四人が動き出す。
「リズちゃん、ミヤビくん。俺たちは先に冒険者ギルドへ報告に向かう。馬車の処理もしておくよ」
「よろしくお願いします。くれぐれも無駄な報告はしないでくださいね」
「わかってるさ。リズちゃんの部隊リーダーの素質を、半日語る程度で納めよう」
「報告は二分以内に終えてください。それ以上かかった場合は、絶交しますから」
照れるなよ、と言わんばかりの笑みを見せる赤壁は、本当に半日ほど報告しそうで怖い。俺の報告について言及しない辺りが、一番怖いけど。
赤壁と馬車を見送った後、俺はリズにどうしても言いたかったことを確認する。
「リズ、勉強のやりすぎじゃないか? 普通は年が近い貴族に勉強を教えられないと思うんだ」
「そ、そんなことないよ。何といっても、私はシフォンちゃんの一個上だから」
この一週間で随分と仲良くなったリズは、シフォンちゃん、と呼ぶようになっている。親密な関係になれたことで、今後も依頼を受けられるようになったと思う。
色々あったけど、Aランク冒険者への道のりは順調な気がする。
「メルはどう思う? 普通は貴族の方が頭いいよな」
「……冒険者は感覚で魔法を使う。魔法構築理論を勉強する人は、まずいない」
絶対にあり得ない、と言わんばかりに手を横に振っているため、リズの頭の良さが浮き彫りになった。
俺のことを非常識人みたいな扱いしてるけど、人のことを言えない立場だろう。冒険者業も並行してやっていると考えたら、すごい努力だとは思う。
「しょうがないじゃん、お金がなくて通えなかったんだもん。ヴァイスおじさんに我が儘は言えないし、冒険者ギルドの参考書で我慢してたら、たまたま勉強した範囲の内容だっただけだもん」
勤勉のリズ、改め、ガリ勉のリズがいじけていると、シフォンさんが戻ってきた。門兵さんに特別通行許可書を手渡すと、俺たちを中へ入れてくれる。
他にやることがあったのか、アリーシャさんの姿は見当たらない。兵士さんも警備しているし、貴族が一人で行動していても、学園内は安全なのかな。
「お待たせしました。女子寮に男性を入れることもあって、いつもより厳しく聞かれ、手続きに戸惑ってしまいました」
シフォンさんの部屋とは聞いていたけど、いま女子寮だと知らされた俺の方が戸惑うぞ。貴族女性の部屋に入るということもあり、リズとメルに同行をお願いしておいて、正解だったな。
「ミヤビなら大丈夫ですよ。二人でパーティを組んでても、変な目で見られたことはありませんから」
「やっぱりそうですよね。高ランク冒険者の方でも、不快な視線を感じるものですが、ミヤビ様は気遣っていただいてばかりで、本当に快適な毎日でした」
「どうもミヤビは中身だけ大人になっちゃって、雰囲気がお父さん世代なんですよね。たまにお父さんが蘇ってきたのかなーって、誤解しちゃうんです」
「まあっ! リズ様もですか? アリーシャとも話していたのですが、私もお父様みたいだと思っていました!」
キャッキャッと俺がお父さんみたいな話で盛り上がるけど、いつから俺はお父さんキャラになったんだろうか。サポーターの任務を遂行するために、色々気遣ってただけなのに。
それにしても、よく本人を目の前にして盛り上がれるな。恥ずかしいよりも、過保護のトレンツさんにまで似てることが発覚して、複雑な心境になってるよ。
「メルも俺のこと、お父さんだと思ってるか?」
……ペシッ! とツッコミが入ったから、メルには思われていないみたいだ。獣人と人間とは子育ての文化が違うのかもしれないけど、メルにはお父さんと思われたかったよ。こんなに可愛い獣人の娘がいたら、毎日が楽しかったと思う。
「メルのお父さんは、どんな人なんだ?」
「……怒るとライオン。普通にしててもライオン」
「ライオンの獣人なんだな。どうりで俺には似てないわけだ」
メルのお父さんは、我が子を崖から突き落とすような厳しい教育だったのかな。詳しいことは教えてくれそうにないし、余計なことを聞かないようにしようと思った。
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