第60話:和解……?

「本当にすまなかった」


 夜ごはんを食べ終えた後、先にリズたち女性陣に謝罪した赤壁レッドクリフが、俺の元へやって来た。


 リズを溺愛するあまり、護衛依頼を受ける前に暴走した、赤壁の四人。直接的な妨害は少なかったように思えたけど、最初から因縁をつけてきたのは明らかだ。アリーシャさんも気づいていたし、シフォンさんも心配していただろう。


 さすがに、大きな問題がなかったから許します、というわけにはいかない。俺とリズが一週間かけて準備し、護衛依頼を先導してきたのだから。


「正直に言ってくださいね。護衛依頼に持ち運ぶ荷物の割には、大きすぎましたよね。理由はなんですか?」


「ミヤビくんを困らせられるんじゃないかと思いました」


 素直でいいですよ、ドルテさん。良い年したオッサンたちが、十五歳の俺に怒られている絵はちょっと悲しいと思いますけど。


 でもね、もっと他にも言うことがあるでしょう。荷物を調べれば、未遂だった犯行があるとわかりますよ。


「荷物の中身が保存食だけであれば、昼間に聞いた言い訳で納得します。ですが、どうして武器がいっぱい入っているんですか?」


「ミヤビくんに直させようとすれば、困るんじゃないかと思いました」


 そうだね、耐久力が減ってる武器をわざわざ護衛依頼に持ち込むなんて、完全な嫌がらせだね。修理素材を余分に持ち込めば、荷物もバカみたいに多くなると思うよ。


 素材を受け取って全部直してあげたから、とても素直な良い子になってくれたけど。


「全然わからないのは、このチーズです。護衛依頼に保存食としてチーズを持ち運ぶのは、一体どういう意味があるんですか?」


「ミヤビくん、知らないのか。リズちゃんはね、チーズが好きで魚が嫌いなんだよ。今後は必要になるだろうし、覚えておくといい」


「その情報、古いと思いますよ。前に焼き魚をおいしそうに食べてましたので、随分前の話じゃないですか? 子供の頃と食の好みが変わったんでしょう」


 絶望的な表情を浮かべられても困るんだよな。被害者はこちら側……というより、完全にターゲットは俺だ。一番の被害者は、リズではなく俺だった。


 おそらく、赤壁が描いたシナリオはこうだろう。


「部隊リーダーにリズを任命して、右往左往と苦戦するなか、パーティメンバーの俺に無理難題をふっかける。頼りない姿を見せ続け、リズが困惑するところで赤壁がサポートし、過酷な依頼でパーティに亀裂を入れた後、最後に冒険者ギルドで失格の烙印を押して、リズを赤壁に引き入れようとした。そんな感じですか?」


「補足させていただきますと、ミヤビくんが別のパーティでうまくやれるように取り計らう予定でした。あと、パーティが解散しなくとも、我々に頼ってくれるようになるかと、思った次第であります」


 短い付き合いだけど、赤壁の四人は変な優しさが残ってるんだよな。もっと陥れようと行動してきたら、俺も厳しく対処できるのに。


「誰も止めようとはせず、後ろの三人も同じ考えだったんですか?」


「面目ないんじゃ」

「うちも自分が情けないで」

「謝罪の極み。四十歳も過ぎて、憐れな男」


 俯いてズーンと落ち込む赤壁の四人は、すでにリズに怒られているのか、反省しているように見える。明確な事件が起こる前に、自分たちから謝罪したいと言い始めたし、嘘をついているとは思えない。考えていたことも、小学生レベルの嫌がらせ程度のものだ。


 しかし、貴族令嬢を巻き込み、寒い時期の過酷な旅で実行したことを考慮すると、やり過ぎかもしれない。俺が事前に家を用意してなかったら、初日の夜に大雨に打たれて、大変な状況に追い込まれていただろう。


 出発前にトレンツさんも怪しんでいたし、ヴァイスさんは事情を知ってる。そこに、現場にいたシフォンさんとアリーシャさんの証言が加われば、言い逃れはできない。


「それで、どうするつもりですか? 良い年して、ごめんなさいで済むと思ってないですよね」


「もちろんだ。我々も心に決めたことがある」


 罪になるかわからないけど、子供じゃないんだから、それ相応の対応をしてもらいましょうか。Aランク冒険者だし、俺が言わなくてもわかるでしょう。さあ、聞かせてください。精神的苦痛に対する慰謝料ってやつをね!!


「リズちゃんとの結婚を認めよう! ミヤビくんなら、リズちゃんを幸せにできる!」

「これからは冒険者活動以外にも、プライベートもサポートするんじゃ! ミヤビくんなら大丈夫じゃ!」

「うちも同じ意見やで! ミヤビくんしか勝たん!」

「あっぱれ、ミヤビくん! 永久にリズちゃんを幸せにする男!」


 盛大な拍手と指笛で祝われているが、求めていたものと違う。誰も自分で責任を取ろうとは考えず、なぜかリズを差し出してきた。


 何よりも恐ろしいのは、ここにいる全員がリズの親ではないことだ。育ての親はヴァイスさんだし、ハッキリ言って、リズとは赤の他人であり、ほぼ無関係である。なんだったら、嫌われている可能性が高い。


 無駄にお祝いムードに包まれているけど、もう一度だけ確認しておきたい。俺は、金が欲しいんだ。


「皆様はどういう責任の取り方をお考えですか?」


「責任となっ!? まさか早くもそういうことが!」

「最近の若い子は早いんじゃ」

「うちは賛成やで!」

「生命の誕生は神秘的。早くも名前を考える男」


 ダメだ、話が通じない。どうして彼らはAランク冒険者になれたんだろう。国が認めるほどの逸材だとは思えないぞ。


「そもそも、俺とリズは結婚する予定もなければ、付き合っているような関係でも……」


「ミヤビくん、みなまで言うでない! 我々はわかっておるし、もう心に決めた!」


「いや、勝手に決められても困りますし、話が繋がってません」


「いいんじゃ! 子ができたときは責任を取る、そういうことじゃろ?」


「子供ができる以前の問題ですね」


「うちにはわかるで! 子供ができても、リズちゃん一筋で生きるんやな。ほんまにミヤビくんは一途な男やで!」


「慰謝料って言葉、知ってますか?」


「愛する者と結ばれる、それが幸せの極み!」


 どうやらリズのことになると暴走して、話が通じなくなるみたいだ。周りの意見を聞こうとしないし、勝手に話が盛り上がっていく。だから、今回もどれくらい迷惑になるのか、誰も考えられなかったんだろう。


 今回の騒動に、ヴァイスさんが口を出さなかった本当の理由がわかったよ。口を出しても意味がなく、彼らが正常に戻るまで待たなければいけないんだ。


 面倒な高ランク冒険者だよ。深く関わらない方がいい気がしてきた。慰謝料は欲しいけど、距離を置いた方が安全だと思う。


「ミヤビくん! いや、我が息子よ!」

「何を言うとるんじゃ! ミヤビくんはワシの息子じゃぞ!」

「うちの息子に決まってるで!」

「赤壁の娘、リズちゃん! 赤壁の息子、ミヤビくん!」


 距離も置けない……だと!? こいつら、俺の厄介オタクにもなりやがった!


 この日、俺は夜遅くまで説得を試みたが……、急に仲間としても迎え入れられるだけなのであった。とても嬉しそうにお祝いしてくる、赤壁の四人に囲まれて。

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