第47話:大浴場を建設

 午前中のうちに仮拠点の建築を終えると、午後は大浴場専用の建物を建設する。


 本拠点を建設した時にも残しておきたいし、テラスで簡単に行き来できる距離に建てようと思う。予め計算して仮拠点を設置していたため、何も問題はない。


 問題があるとすれば、肝心の『湯』である。宿にある大浴場は、従業員さんの水魔法と火魔法で管理されていたけど、自宅だとそうもいかない。俺は付与系統の魔法しか使えないし、毎回リズに湯をお願いするのも申し訳ない。


 しかし、付与魔法付きのブロックを使えば、可能性はある。建物の外観を建築する前に、その実験から始めなければならない。


 付与魔法に関しては、まだまだ不思議に思うことばかりだ。火魔法を付与すれば熱を生み出して燃え広がるし、土魔法を付与すれば密度が増して重くなる。


 では、水魔法を付与したらどうなるのか。大きな被害はなさそうなので、石ブロックを一つ用意して、強めに付与魔法をかけて実験を行う。


付与魔法エンチャント:水」


 最初はまったく変化が起きないものの、徐々にジワ~ッと石ブロックが濡れてきて、地面に水滴が流れ始めた。石ブロックが汗をかくように、表面からジワジワと水分が出てくるんだ。


「付与魔法を施すだけで、ブロックが水源に変わるのは大きい。材質によっては、サビやカビが生える原因になると思うし、使い道は限られそうだ」


 今回に限っては、大浴場を作る要のパーツになるだろう。天然温泉のような水質に変える方法が見つかると嬉しいけど、そこまで付与魔法に求めるのは、さすがに贅沢か。


 次に、水魔法を付与した『水源ブロック』を挟み込むように、二つの石ブロックを追加で設置して、付与魔法を施す。


付与魔法エンチャント:火」


 石ブロックに火魔法を付与して、温熱ブロックに変換すると、少しずつ熱を持ち始める。徐々にブロックの接触部分から生まれる水が温められ、触ると熱いくらいの湯に変わっていった。


 この『水源ブロック』と『温熱ブロック』を活用すれば、手間のかからない大浴場が作れるだろう。二種類のブロックを隣接させる必要があるとはいえ、サイズを小さくして市松模様に並べるだけで、湯が沸き続けるシステムが完成する。


 水道代を気にすることなく、いつでも温かい風呂に入りたい放題。付与魔法のバランスを変えて吹き抜けを作るだけで、サウナもできるはず。


 そして、ジェットバスを誕生させる可能性があるのも、付与魔法になる。もう一つ別の場所に新しい石ブロックを置き、魔力を流し込む。


付与魔法エンチャント:風」


 水魔法を付与した時と違い、風魔法を付与した瞬間、石ブロックに変化が現れた。付与魔法をするために近づけた手に、弱い風が当たっているんだ。


 手を移動させて確認してみると、ブロック全体から風が出ていることがわかる。土魔法を付与した時とは逆の性質になるみたいで、持ち上げてみると軽く、空気を生み出す画期的なブロック『そよ風ブロック』に変化した。


 繊維の間に空気の層を作り出して、徐々に溢れてくるんだと思う。魔力を強く付与するだけでも、勝手に動いたり、浮遊したり、壊れやすくなったりしそうなので、風魔法は弱めに付与した方が良さそうだ。


 ジェットバスを実用化するなら、小石に軽く風魔法を付与して、石ブロックに埋め込むべきだな。空気の力で浮いてきて、周りのブロックに干渉してほしくないから。


 他にも、部屋の空気を自動で換気させることもできるだろう。火魔法と一緒に使えば、ドライヤーや乾燥機も作れる。夏は氷魔法と組み合わせるだけでクーラーの代わりになるし……、使い道は色々ありそうだ。


「難点は、微調整だな。ただでさえ付与魔法は扱いが難しいのに、湯の温度やサウナの蒸気を安定化させるとなれば、調整に時間がかかる。仮拠点ではサウナを諦めて、ひとまず大浴場を完成させるか」


 付与魔法だけで風呂が作れるとわかったので、誰かに見られないように、先に建物の外観を建設。木材で床や壁を作り、仮拠点からテラスを通じて入れるように、ブロックを設置していく。


 敷地内とはいえ、誰か不審な人間が入ってきても困るし、閉鎖的な感じにしておきたい。近くに木を生やして、入り口からは建物が目視できないようにしておくか。覗き防止にも繋がれば、リズもノビノビと入浴できるだろう。


 大浴場を楽しみにしてる俺より、冷え性のリズの方が利用回数は多くなると思うから。


「内側から鍵がかけられるようにして、大浴場周辺には落とし穴も掘るか。覗き対策にも泥棒対策にもなるし、一石二鳥だろ」


 仕事は増えるけど、油断しやすい拠点内では妥協しない。護衛依頼で家を空けることも考えたら、簡単な罠くらいは設置しておいた方がいいと思う。


「先に風呂作りを優先するけどな。ブロックから水が染み出ることを考えれば、風呂に湯を張るのは時間がかかる。今日は入れないかもしれないし、明日は入れるように作っておこう」


 日本の広々とした露天風呂を思い出し、石ブロックを設置して、【ハンドクラフト】で形を調整していく。


 床を土ブロックに変えて緑を植えると、外の雰囲気を演出できるかもしれないな。大きめの石もそのまま置けば、自然な雰囲気が出る。石にコケを付着させることで、リアルさを追求するのもどうだろうか。


 街中なのにも関わらず、本物っぽい露天風呂が自宅で楽しめたら最高だな。領主様の屋敷より豪華になるけど、風呂に入られない限りはバレることもない。


 日本人の風呂大好き文化を、異世界で見せつけてやるとするか。見せつける人間が限られてて寂しいけど。


「露天風呂を意識すると、ジェットバスが雰囲気に合わないよなー。奥の方だけ気泡が発生する機能を付けて、パッと見ただけではわからないようにするか。その前に湯の温度調整をして、カビ防止の付与魔術をかけてっと……」


 付与魔法で微細なコントロールを続け、俺は何度も沸き出る湯温を確認しながら、露天風呂の風景を作り続けた。外観は数十分で終わったのに、細部の装飾を【ハンドクラフト】でこだわり、内観を整えるだけで日が暮れていくのであった。

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