昔ー⑤

 結唯が悩んでいたのは、夏の大会でやってしまったミスが原因みたいだ。夏の大会で結唯はミスをおかしてしまった。

 中学からやっていたとしても誰しも、大きな大会や人前じゃあ緊張はする。

 大会でフルート全員が大きなソロがあった。フルートの見せ場だ。しかし、当時の結唯は、音を外してしまった。それが原因とは、言えないと思うが、結唯は大会の結果を聞いて泣いてしまった。周りの先輩達も結唯のせいではないよと言っていたけど、しばらくは、落ち込んでいた。

 回復するのもそれなり時間がかかった。回復するまでにスランプになったりとか、いろいろ。また、夏の季節がきて、思い出してしまったのかと俺は思った。

 「思い出したのか?」

 「うん。……あんな思いをしたくないから」

 「だから、がむしゃらに練習してんのか?」

 「……うん」

 「なぁ、結唯。それって楽しいか?」

 「えっ」

 「だから楽しいのかって聞いているんだ」

 「か、関係ないよ、そんな事……」

 「じゃあまた、失敗するなぁ」

 「……っ。ひどい、なんでそんな事を言うの達也!」

 「お前がバカな事をしているからだ」

 「練習するのがバカなこと!」

 「いいや、練習しないと上手くなれない。けど、がむしゃらにやるよりは、楽しくやりながら成長していけよって言っているの」

 「……」

 「お前、前の部長の言葉、忘れたのか」

 「!」

 『時には辛い事もあります。けど、楽しく演奏すれば、楽しいと思う事が私達部員、全員の成長へ繋がると私は思っています』

 「どうなんだ?」

 ちょっとキツイ言い方だけど、結唯には楽しく練習して、過去の自分をつらぬく強さを掴んでほしいと思って、俺はあえて同情ではなく、キツイ言葉を選んだ。

 「……そ、そうだね。大切な事を忘れていた。いくら一人でがむしゃらに練習したって、いい演奏はできない。仲間を信じて自分も楽しまないと、前の部長が言っていた事を忘れるなんて……あたし」

 「今、気付いたからいいだろう。明日から変わっていけば。大会まで、まだ日がある」

 「うん、ありがとう達也」

 「いつもの結唯に戻ったな」

 結唯はどこかスッキリとした笑顔を見せた。

 「結唯。あとで四宮さんにも一言、声掛けておけよ」

 「えっ?」

 「すごく心配していたぞ」

 「あっ……うん、そーする」

 俺の心の中では、ほっとした。いつもの結唯になってくれた事に。

 「ねぇ、達也」

 「ん?」

 「一つ、聞いてもいい?」

 「なんだ? 答えられる事なら」

 「……」

 なぜ、黙る。まだ、他に悩み事でもあるのか?他に何があるんだ?

 「結唯。他に悩み事、あるいは気になっている事でもあるのか? 急に黙ると心配なんだが」

 「あっ、ごめんね、達也」

 「別にいいよ。それでどうした?」

 「あっ……あるのは、あるよ。気になっている事が……」

 「なんだ。さっきも言ったけど、答えられる事なら答える。……もし、俺には相談しずらいなら、四宮さんに聞いてもらう手もあるぞ?」

 「……ううん、達也でいい……」

 「だったら?」

 急に黙ってしまった結唯。他にも何かあるみたいで、俺じゃあ相談しずらいなら友達の四宮さんに相談したらと持ち掛けたが、結唯本人は俺でいいって……。

 「……っ、達也!」

 「なっ、なに!」

結唯が急に立ち上がるから、俺もつられて立ち上がってしまった。

 夕日をバックにしているから結唯の顔色が分からないが、目線だけは、俺の事をらしている。

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