魔黒の大森林へ

324.最後の補給

 関係各所にあいさつを済ませ予定通り半月後、俺たちは半月後天陀へと向かった。


「天陀へと前に言ったのはリコたちをピックアップしたときですかにゃ。懐かしいですにゃ」


「そういえばそうね。あの時の目的地は礫岩の荒野だったけど今回は違うわけだし」


「ああ。いよいよ本命、魔黒の大森林に突入だ」


「そうですね。それにしてもリオンさん。最後の補給って具体的になにを買うんですか? 大抵のものはフートさんのハウスで手に入る気がするんですが」


「それは俺も気になっている。具体的になにを『補給』するんだ?」


「ああ、それは皆さんの『英気』ですにゃ」


「「「英気?」」」


「これから一年近く魔黒の大森林の中、人の手の及ばぬ地域で四人暮らしなのですにゃ。その前の最後くらい人の活気に触れておくべきですにゃ」


「ああ、なるほどね。気が利くじゃない、ネコ」


「私たち四人だけだと気が滅入る可能性だってありますからね……」


「そこまで考えていなかったな」


 確かに俺たちだけだといずれは限界が来る、か。

 昔、三人だけで行動していたときは生き残るのが精一杯だったから気にしていなかったが、いまはそうでもないからな。

 各街で様々なつながりができてしまっている以上、少しは顔見せをしておかないと不義理だし心残りにもなる。


「と言うわけで天陀に着いたらあいさつ回りにゃ。その上で集まれる人がいたらぱーっと宴会でも開きましょうかにゃ」


「悪くはないんじゃないでしょうか」


「だな」


「いい提案ね、ネコ」


「三人はお酒禁止にゃよ」


「言われなくてもわかっています」


「さすがにそこまで体調が回復しているとも思えないしな」


「それでなくても……ねえ」


 そんな感じで話をしながら車で移動すること数日間、遂に天陀の街へと到着した。

 さて、ここが本当の意味で最後の補給か。

 まずは……どうするべきか。


「フート殿。最初は普通に食材などの購入ですにゃ」


「ああ。そうするか。ふたりも構わないよな?」


「もちろんです。料理番の腕がなります」


「……魔物料理になるんでしょ? 結局は」


「そっちの方が美味しいじゃないですか」


「そうだけど……腑に落ちない」


 仲のいい女性ふたりを連れて市場を見て回り食材をあれこれ購入して回る。

 ハウスで購入できる品とできない品があるので、今回はできない品がメインだな。

 それだけでもかなり大量だし、マジックボックス持ちの俺たちじゃなければ持ち運べないが。


「食材の購入はいいですかにゃ?」


「十分です!」


「ずいぶん買ったしねえ……」


「まあ、大丈夫だろうな」


「それではあいさつ回りに出発ですにゃ!」


 まずはあいさつ回りということでやってきたのはハンターギルド。

 最初、天陀に訪れた時からお世話になっているところだし顔を見せておかないとな。


「いらっしゃいませ……って、フート様にリオン様!? 一体どうしたのですか!?」


「ああ、吾輩たちこれから魔黒の大森林に挑むことにしたにゃ。そのごあいさつにきたのにゃ」


「魔黒の大森林って……生還者がほぼいない場所ですよ? どこまで進むつもりですか?」


「いけるところまで行くつもりだ。できれば深層部まで行きたいんだが……」


「魔黒の大森林の深層部……ハンターギルドでもそんな場所の記録はないはずです。とにかくシーブ様を呼んで参ります」


 テルジアンさんは大急ぎでシーブさんを呼びに行ってしまい……申し訳ないことをしたな。

 まあ、時間がないので助かったといえば助かったのだが。

 そのままギルドマスタールームに招かれた俺たちは、シーブさんにも同じ説明を行った。

 彼女も頭を抱えていたが……邦奈良の報告は受けているんだろう。

 それしか道はないことも了承済みらしい。


「あなたたち、決意は固いね」


「もちろん。来年が最後のチャンスなんだ。負けてやるつもりはない」


「はいですにゃ。絶対にアグニを倒し、四人で生き残って見せますにゃ」


「四人で生き残るのは当然ですよ。ひとりでも欠けたら勝ったとしてもフローリカちゃんを泣かせますから」


「それもそうね。四人全員五体満足で勝つ。これが絶対条件よ」


「……はあ、これは止まりそうにない。あなたたちを止めても勝手に魔黒の大森林に向かうだろうし……好きにしなさいな。それで、私のところにきたのはそれを告げるだけ?」


「それもひとつの理由ですにゃ。吾輩たち、今日の夜にどこかで宴をやるつもりですにゃよ。それに参加していただければと」


「宴ねえ。あなたたちの噂を聞いているとモンスター肉とか魔物肉とかとんでも食材が大量に出てきそうだが」


「むしろそちらがメインですよ?」


「味は保証するにゃよ。普通のお肉よりも遙かにおいしいのにゃ」


「それじゃ、ご相伴にあずかろうかしら。テルジアンも連れて行っていいの?」


「そうしてもらえるとありがたいな。天陀って知り合いが少なすぎるから」


「あなた方にとって天陀なんて中継地点だもの、仕方がないでしょう? ともかく了解したわ」


 これで参加者はふたり確保、あとは……もうひとり誘わなくちゃな。

 いるかどうかが不安なのがなんとも言えないんだが。


「あー! フートさんたち! 天陀にご用でしたか!?」


「グラニエ先輩、うるさいです」


「あ、ごめん。それよりもフートさんたち、天陀にどんなご用件で?」


「ああ、俺たちこれから魔黒の大森林にハントに向かう予定だからそのあいさつにな」


「魔黒の大森林。遂にですか」


「おや、グラニテは驚かないんだな?」


「初めて会ったときからいずれはそこにたどり着く予感はしていました。死にませんよね? 必ず四人で戻ってきますよね?」


「当然ですにゃ。そうしないとアグニを倒せなくなるのにゃ」


「はい。私たちのいまの目標はアグニ討伐です」


「あれをどうにかしないと邦奈良がなくなるからね」


「……というわけだ。誰ひとり死ぬつもりもないし欠けることもない。魔黒の大森林程度で躓くこともないさ」


「それを聞いて安心しました。あ、テラとゼファーに触ってもいいですか?」


「俺はお前さんの平常運転ぶりに安心したよ」


 その後、グラニテも誘って宴の参加者は全員集合。

 三人だけではあるが移動中継地点だしこんなものだろう。

 会場はハンターギルド一階のスペースを借り切ることになったが、その際にうまそうな匂いに釣られて飛び込み参加してきたハンターも多数いた。

 俺たちも拒まなかったし、思いのほか楽しめたしよかったんじゃないかな?

 さて、明日からは本格的に魔黒の大森林、気を抜いている暇なんてないぞ。

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