戦い明けて

322.王城での報告

「フート殿、動けるようになったかにゃ?」


「まあ、なんとか」


 アグニとの激戦から一週間、俺たちはようやく、本当にようやく日常生活及び軽めの戦闘訓練に支障がないレベルまで回復した。

 一日目と二日目は全員泥のように眠り、三日目からはなんとか起き出し、それ以降は体を慣らし……と言った感じだ。

 まったく、我ながら無理をしすぎだな。


「フート、アンタが一番消耗が激しかったんだからね?」


「そうですよ。最後の……マキナ・ハンマーでしたっけ? あれの反動がものすごかったみたいなんですから。二日間ふたりでマッサージしてようやく動けるとか前代未聞です」


「いやはや、申し訳ないんだが……この先も使って慣らしていかないと」


「そうですにゃ……厳しいですが、慣れるしかありませんにゃ」


「ですね……」


「だわね……」


 俺たちの間に気まずい沈黙が流れる。

 まあ、そうだろうな。

 あんな無理をこれから何度も繰り返さないといけないんだから。


「それで、王城への報告ってどうするの?」


「もう連絡したにゃ。明日の午前中、王様と内務卿、軍務卿の三人相手だけに行いますにゃ」


「あの三人だけなら少しは気が楽か……」


「ですね。ほかの貴族どもが相手だと気が滅入ります」


「そこも考えての人選だにゃ。……まあ、あまり面白い話はできないのですがにゃ」


 そりゃそうだ。

 全力を出して、ようやく鎧兜をすべて破壊するのがやっとでした。

 なんて面白い話になるわけがない。


「ともかく、明日は報告会ですにゃ。気合いは……入れなくてもいいですにゃ。迎えにはアレックス殿が来てくれるそうにゃ」


「俺たちから出向かなくてもいいと?」


「少しでも目立たなくするため、らしいにゃ。ありがたい気遣いですにゃ」


「その結果が、あの報告なのがちょっと苦しいけどね……」


「もう少し、せめて手傷のひとつくらい負わせられればよかったのですが」


「無理を望んでも仕方がないですにゃ。まさか相手も龍王の力、欠片とはいえそれを持っているなど想定外も甚だしいですにゃ」


「だわなあ……」


「ともかく、今日は明日に備えて早めに寝ますにゃ。面白くなかろうと説明の義務はありますにゃ」


「ですね……」


「自分たちの不甲斐なさを話すのってこれほどの苦痛だとは……」


「仕方がないか……」


「吾輩だっていやですにゃ……」


 その日は本当に早めに寝て翌朝迎えに来てくれたアレックスさんの車に乗り、一路王城へと向かう。

 ……本当に気が重いな。


「皆さん、顔色が悪いですが……大丈夫ですか?」


「あまり大丈夫じゃないな」


「はいですにゃ」


「自分の不甲斐なさを語るのはちょっとね……」


「まったくです。かなわないかなわない、とは知りつつもあそこまで絶望的な差があったとは……」


「それならばご心配なく。皆様のは黒旗隊より国王陛下に伝わっていますので」


「あれをか……」


「それはそれでいやですにゃ……」


「まったくね……」


「はい……」


「……まあ、お気を楽に」


 アレックスさんに慰めながらも、国王陛下の執務室へ。

 そこでは国王陛下を始め、内務卿と軍務卿も待ち構えていた。


「来たか。いや、もう来てくれたか。体の調子は大丈夫なのか?」


「ご心配をおかけしました、軍務卿。戦闘訓練ならこなせる程度には回復しました」


「それはよかった。実は、フローリカ王女もお前たちのことを心配していてな。……離宮の見張りたちが飛び出して行かないか対応するだけでも苦慮するほどだ」


「……申し訳ありません。内務卿」


「まあ、娘のことはおいておこう。でだ、フートたちから見てアグニって化け物はどれくらいの化け物だった?」


「底が見えませんでした」


「はい。まだまだ、そんな感覚でした」


「全力で対応していたのって最後にフートが使った魔法だけよね?」


「はいですにゃ。あとは吾輩たちが少しでも油断すれば死ぬ、その見極めで攻撃されていた感覚ですにゃ」


 その言葉を聞いた三人は……さすがに想像以上だったのだろう、顔を青くしていた。

 そしてわずかばかりの沈黙のあと、口を開いたのは国王陛下だ。


「それで、来年には勝てそうか?」


「勝ちますよ」


「勝ちます」


「勝つわ」


「勝つにゃ」


「……心は折れていないようだな」


「あの程度で折れるほどやわじゃありませんから」


「安心した。で、今後の具体的な活動内容は?」


「それは吾輩から。今後は体調が本調子に戻り次第、魔黒の大森林に向かいますにゃ。そこで、モンスター達を片っ端からハントして力を蓄えますにゃ」


「魔黒の大森林でかよ……」


「やはり、それくらいしないと勝てない相手ですにゃ。それに、アグニの使ってきた魔法は全属性。最低でもすべての属性を一回は無効化できないとお話になりませんにゃ」


「その語りぶりだとあてはあるんだな」


「ありますにゃ。もちろん、ハント実績はありませんが……」


「あてがあるなら十分だ。だが、報告では黒い影のような魔法を使ってきたとも聞いたぜ? あれはどうする?」


「耐えしのぐしかありませんにゃ。あれは影龍王の力の欠片。無効化するには吾輩たちにも影龍王の力が必要ですにゃが……おそらく、吾輩たちではもう既に龍王の力を受け入れきれませんにゃ」


「なるほどな。力のってところがせめてもの救いか」


「はいですにゃ。本当の力でしたら、吾輩たちは既にこの世にいませんにゃ」


「わかった。報告は十分だ。最後に、フートが最後に使ったって言うでかい雷のハンマーは?」


「〈マキナ・ハンマー〉らしいですよ?」


 国王陛下、軍務卿、内務卿。

 三人揃って首をかしげる。


「その魔法は?」


「発動中、常に魔力を吸い上げながら相手を魔法です。威力は……伺ってますよね?」


「ああ。アグニの鎧を完全破壊したって聞いた」


「それだけの威力はあります。もちろん、代償も激しかったですが」


「今日まで報告ができなかったのはフート殿の回復待ちでしたにゃ。それ以外の皆は、二日前には回復していたにゃ」


「絶対、絶対にフローリカ王女が心配するからってミキがね」


「当然です。半端に回復した姿を見せれば、また泣かせます」


「いい判断だ。このあと済まないがフローリカの離宮に顔を出していってくれ」


「わかりました。報告はこれで大丈夫ですか?」


「ああ。化け物だってことはわかってるからな。当事者たちから見てどの程度のバケモンだったのか、それだけが聞きたかった」


「お役に立てず申し訳ありません」


「いや、十分だ。あとは、娘を安心させてくれ」


「……そっちの方が難問のような気がします」


「恋する乙女の心配は厳しいぜ?」


 俺以外はクツクツと笑っているが……本気で笑い事じゃないからな?

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