アグニとの戦い、再び
314.最初の一矢
『ほう、早い到着だな。感心感心』
「あれだけの殺気を放たれていちゃいろいろ迷惑なんだけどね」
『なるほど。だが、来年の予行演習とでも思って大目に見てもらおう』
元ゴブリンの砦跡地、そこに今年もアグニはやってきていた。
周りには魔石が散乱しているし、この周囲にいたゴブリンは先に全滅させたということか。
残っていたとしても、この殺気の中に出てくる奴はいないだろうがな。
『さて、この一年、どれだけの研鑽を積んできた? 雰囲気だけでもかなり違うことは見て取れるが』
「やっぱりわかりますかにゃ?」
『うむ。吾相手とあっては龍たちも力を貸してきたか。吾もイリーガルには墜ちないよう、十二分に気を遣っているのだが』
「やっぱりイリーガルモンスターについて知っているのですね?」
『懐かしい記憶だ。仲間とともに国々を越えて冒険を続けた日々。今では仲間の名前すら思い出せぬが、間違いなく吾の宝物だった。そんな中、吾等の神器を持ってしても傷をつけられないモンスターに遭遇した。それがイリーガルモンスターだと知ったのは、ホムラがモンスターを灰にした後だったがな』
「龍王たちとの記憶もあるのね……」
『そうだな。もっと大切だったはずの仲間の記憶は消えているのに、龍王たちの記憶は消えておらぬ。これも、吾に課せられた呪いか』
「呪い、ねぇ」
『相応の覚悟をもって挑んだのだがな。今では、なにをした罪でモンスターと成り果てたのかもわからぬ。禁忌に触れたのは間違いないのだが……お主らはこうなるなよ?』
禁忌に触れた、か。
いったいなにが原因なのかわからないと、答えようがないのだが……。
それを確認する方法は、龍王様たちに聞いてみるほかなさそうだ。
「……鑑定結果レベル226、去年聞いたとおりですにゃ」
『吾を鑑定できる程度の力はつけたか』
「吾輩のレベルも240まで到達しましたからにゃ」
『ほう、吾のレベルを超えたか。だが、しかし……』
「わかっていますにゃ。モンスターのレベルは生物や魔物のレベルと比較してはいけないことを」
『ならばよし。ここから先は激戦だ。後ろの者たちは帰ってもらった方がいいのではないか?』
アグニの言葉が理解できずに後ろの気配を探ると、それなりの人数が来ていることがわかった。
那由他の国でこれだけの強者を揃えられる部隊はひとつしかない。
黒旗隊だ。
「軍務卿。失礼ですが、アグニとの戦いは俺たちでも一切の手加減ができない激戦です。様子を探るにしてももっと後ろの方から探っていただけますか?」
「む……フートよ、それほどか?」
「今の俺たちの攻撃、特に俺の攻撃魔法がはじかれれば、周囲への被害が甚大です。流れ弾がここまで届く可能性は十分にあります」
「そうか……だが、我々黒旗隊も国の守護を司るものとして、この戦いを見極めなければならぬ」
「もう少し下がり、遠見のかなにかで観測してください。そちらの事情もわかりますが、この戦いに巻き込んでしまうのは心苦しいです」
「む……わかった。フートたちも無茶をせんようにな」
「この戦いは無茶のしどころなのでそういうわけにもいかないですね」
「それもそうか。では、気をつけて」
「お互い様に」
黒旗隊がある程度下がったことを確認すると、改めてアグニと対峙する。
殺気は抑えているはずなのに、近づいただけで空気が重くなってくるんだよな……。
『話はすんだか、聖法を携えし者、フートよ』
「待たせたようですまないな。さあ、始めようか」
『そう逸るな。今年もお主の力を確認させてもらいたい。もし、それで吾を倒せれば御の字であろう?』
「まあ、それはそうだが」
「その顔は十分耐えきれるという自信の表れでもありますにゃあ」
『さてな。この一年の研鑽がどれほどまでに登ったか、吾にはわからぬ。その隙を突けば倒せるかも知れぬぞ?』
「……どうしますにゃ、フート殿?」
「一撃、先制させてくれるというならやらせてもらおう。実際の戦闘中には決められないような、大がかりな仕掛けも試せるだろうからな」
「ですにゃあ。ではやりますかにゃ。……黒旗隊に切り札をみせるというのが少し不安ではありますがにゃ」
「今更だよ。お互い争う意思はないんだし、いいじゃないか」
「って言うか、フートのあれを見て敵に回したいと思えるのかしらね?」
「普通の魔法や弓矢が届かない距離から攻撃できますものね」
「……それもそうですにゃ。では、始めるとしますかにゃ」
俺の集中を邪魔しないように3人が距離を取り、第一段階の準備が始まる。
まずは精霊力の集中だ。
『ほほう……これは』
アグニも周囲にいる雷精霊の密度と活力、双方が上がって行っているのがわかるのだろう。
俺の魔力を放出して特定の精霊を呼び寄せ、更に活性化させる。
〝精霊賦活法〟とでも名付けようかな?
今度時間があったら、学校の教師陣に教えて研究してもらおう
先にランダルさんが喜んで研究しそうな気がしないでもないが。
『我が指輪に宿りし雷精の力よ。その力、我が意をもって解放せよ』
今度はニネットさんが作ってくれた指輪のリミッターを解除する。
これをやってしまうと、今後一時間は指輪の補助を受けられなくなるが、それを行うに見合うだけの価値があるからな。
「にゃ、空間に雷精が凝縮されて集まって参りましたにゃ」
「空間が紫色を帯び始めましたね」
「紫って雷精霊の象徴色だったわよね。これ、本当にフートが操りきれるの?」
外野の声がかなり遠くに聞こえるが、雷精たちは俺の意思に従っているので何の問題もない。
さて、そろそろ仕上げだな。
俺は左腕を突き出し、右腕を引くことで構えを取る。
さあ、最後は呪文、すなわち聖句だ!
〈雷精たちよその力を解放せよ。その真性は破壊。それを統べるは機械の意思。目覚めよ破壊の力に。そして集いて一本の矢とならん。それは閃光。それは破滅。さあ、征くがよい!! その破壊に祝福を!! マキナ・トリガー!!〉
「なんだ、これは!」
『ほほう! 第三階位の聖法か!!』
今まで『白夜の一角狼』の前以外では使ってこなかった『マキナ・トリガー』の初お披露目。
俺の右腕と左腕の間には、淡く紫色に光る雷光のラインが形成されている。
その魔法に込められた桁外れの魔力に軍務卿は驚き、アグニは楽しそうに笑う。
……つまり、アグニにとってはこれも脅威ではないってことか。
ならば、もう一段階上乗せしよう!
〈雷精たちよその力を解放せよ。その真性は破壊。それを統べるは機械の意思。目覚めよ破壊の力に。そして集いて一本の矢とならん。それは閃光。それは破滅。さあ、征くがよい!! その破壊に祝福を!! マキナ・トリガー!!〉
『む! 聖法の二重掛けだと!?』
「初めて驚いてくれたな、アグニ!」
これも苦労したんだよな、同じ魔法を二重にすること。
安定したのは、ここ最近だよ!
「征け! マキナ・トリガー!!」
左腕に溜められていた魔力が一度右腕に移り、その右腕をアグニに向かって突き出す。
すると、マキナ・トリガーは文字通り雷光の弾丸となりアグニに突き刺さった!
『むぅ!』
「ちっ、ぎりぎりで左腕の装備を使いガードしたか」
ガードされたマキナ・トリガーだが、そのまま左腕の防具をじわじわと破壊していく。
そして、最終的には……!
『ぬうっ!』
「やったにゃ! アグニの左腕を吹き飛ばしたにゃ!」
「これで、アグニに攻撃が効くことが証明されたわね!」
「なんとも心臓に悪い時間です。フートさんもあんなに無茶をして」
リオンやアヤネの反応通り、マキナ・トリガーは左腕の防具だけではなく、左腕全体を破壊することに成功していた。
更に胴防具にも少しヒビが入っているあたり、威力はすさまじかったのだろう。
反面、俺もまともに動くのがきつくなっているのだけどな。
『いや、見事であった。これが第二階位聖法であれば吾を倒すことができたであろう』
「第二階位聖法? なによそれ?」
『お主たちの言葉で言えばレベル9魔法のことだ。だが、あまりおすすめはできない。しかし、今の魔法にも耐えることができる吾の肉体を滅ぼすには必須か……』
「なにを自己完結しているのよ?」
『いや、すまないな。高位魔法については龍が教えてくれるだろう。さあ、実戦の始まりだ。準備はよいな?』
先ほどまでは抑えられていた殺気がまた膨れ上がる。
腕一本程度はたいした問題じゃないってことか。
俺たちも、修行の成果をみせてやろうじゃないか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます