310.逆戟での魔法理論講義

『……このように、元素魔法もまた精霊の力を借りて魔法を使っているものである。そのために、海上や海の近くなどでは火属性の元素魔法および精霊魔法は使用しにくい。また、出生時に火の精霊の影響をほぼ受けないため、火属性を持って生まれる子供が少ないと推測される』


 今なにをやっているかというと、魔法理論の講義である。

 今回の『商談』の中にはこれも含まれていたので特に問題はないのだが……生徒である逆戟の魔術師や上級騎士の圧がすごい。

 逆戟では魔法技術が遅れており、それが大問題となっていたようだ。

 そこに降ってわいた『邦奈良式の魔法理論』であるため、申込者が殺到する。

 結果として、現場で魔術を使う魔術師とその指揮官になる騎士長クラス、および上級騎士が受けることになったわけだ。


「フート殿。海上戦において火魔法は有効な戦術のひとつだ。そのようなときはどうすればよい?」


『よほどの遠洋に出ていない限り、時間をかけて力を集めれば問題ありません。遠洋では……かがり火のようなものでもない限り、有効性のあるチャージ時間は難しいでしょうね』


「ふむ、かがり火か。確かに、火の精霊は火に宿る。普通はいないのなら、いる環境を作ってやるのも手なのだな。ありがとう、参考になった」


『いえ、ほかになにかありませんか?』


「では私から。かがり火を用意することで火属性魔法を扱うことができるとのことですが、それは後天性魔法覚醒施設でも言えることでしょうか? やはり、火属性魔法を取得できるものがあまりにも少ないので……」


 今度はヤナさんからの質問だ。

 確かに切実な問題だろうな。

 第一防壁の中に第六号後天性魔法覚醒施設を設置し、順次覚醒を行っているようだ。

 でも、回復魔法には目覚めても、火属性魔法に目覚めるものはほとんどいないらしい。

 さて、この問題、どう答えるべきか。


『まず最初に、この逆戟の地は海が近いために火の精霊力が弱い地域です。そのため、火属性の覚醒率が減少していると考えられます。それを、かがり火のような火に関するものを用意して補おうとお考えなのでしょうがおすすめしません。人が人為的に精霊力を増減させるような方法は、邦奈良でもまだ研究段階です。かがり火までいってしまうと、火属性が強くなりすぎるので覚醒そのものができなくなると推察できます』


「むむ……そんなに甘くはないのですね。では、火属性魔法を急ぎで覚えたい場合、どうするのが正解でしょう?」


『あまりよい回答ではないと思いますが……邦奈良まできて数日滞在してみるのが早いかと。水、風、雷、回復の4属性が揃っているのでしたら、残りの2属性もわりと早めに覚えられる、はずとしか」


「わかりました。自然相手というのは甘くはないのですね……」


『自然環境を操るのは人の領域を逸脱していますからね。川や堤防を作る程度ならできますが、火山や氷河を永久に作るのは無理ですからね』


「確かにその通りです。逆戟の街以外にも後天性魔法覚醒施設は広める予定です。そちらでよい結果が得られれば、そこで覚醒をするといたします」


『それがよろしいと考えます。では、ほかの質問は……』


 その後もいくつかの質問が出ることになり、授業は次のフェーズへと移っていく。


『魔法を使う場合、必要になってくるのはイメージです。【どのような結果をもたらしたいか】だけではなく、【どのような形のものを使ってどのような結果をもたらしたいか】をイメージすることを忘れないでください』


「昨日のミリア嬢のようにですか?」


『あれはかなり特殊な例ですが……あれもまた確固たるイメージを精霊に伝えた結果、それを受け取った精霊が自律的に行動した結果になります』


 うん、昨日はいつもの魔法的あてをやったんだよ。

 そこで、ミリアはお構いなしの魔法を使ったわけで……逆戟の関係者全員の度肝を抜いている。


『あそこまでのことをすることは俺にもできません。ただ、例えば『ファイアショット』の場合、ただ漫然と火の弾丸が飛んでいくことをイメージするより、円錐型になった弾丸が回転しながら飛んでいくことをイメージした方が速く威力も高いです』


「なるほど。それは、ほかの属性でも同じことですかな?」


『属性によって変わります。水と風は同じイメージで構いません。土と雷は矢のようなものが飛んでいくイメージの方が適しています』


「その理由は?」


『土はそれ自体が重く重量のある属性です。弾丸を石つぶてのようにぶつけるか、矢じりのように突き刺すかの差になります。雷は、それそのものが刺すように飛んでいくものです。そのイメージの方が速くなるでしょう』


「なるほど……勉強になる。だが、それが最善とも限らないわけですな?」


『はい。状況によって使い分けるべきです。必要なときに具体的なイメージができること、それが重要であると考えています』


「よくわかりました。感謝する」


『いえ。ほかに質問のある方は? ……いないようですので、次の説明に移ります』


 その後も、元素魔法と精霊魔法の発動法の違いやイメージによる効果の変化など、授業を一式終えることとなった。

 最初から熱気が違ったけど、本当に熱心な生徒たちだったよ。

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