307.逆戟の防衛部隊と模擬戦
「うぉぉ! 危ねぇ! 全然近づけやしないぞ!」
「近づいたところで、あの茨の防壁をどうにかしないとどうにかしないと! 魔術師部隊、なにをやっている!」
「こっちも必死です! ですが、集中を妨げるタイミングでこちらにも魔法が飛んできます! それに、こちらの魔法はあの茨には通用しません!」
「おいおい、打ち手なしかよ!」
「ツーハンドアクスならあるいはいけるかもしれん!」
「よし、道を確保しろ!」
はい、フートです。
今なにをやっているかというと、逆戟の第一防壁防衛隊との戦闘訓練である。
俺は樹魔法で、茨の防壁を何重かに形成しただけなのだけど……あちらさんは上を下への大騒ぎのようだな。
なにせ、茨は物理攻撃程度じゃびくともしない。
魔法攻撃でも思わしい攻撃はできない、ついでにいえば魔法攻撃には俺の妨害が入るわけで。
なんて言うか、精霊を集めるときに使っている手段が旧式なんだよなあ。
俺の書いた『精霊魔法と元素魔法についての考察』と『精霊魔法と精霊の共感による魔法効果の変化』について、読んでもらえていないのだろうか?
もし読んでいたならあんな隙だらけの魔力集中を晒すはずないんだけど……。
「いくぞ! そいやぁ!」
そんな物思いにふけっていると、ツーハンドアクスを抱えていた兵士が到着して、茨に一撃を加えるところだった。
ああ、それはやめた方がいいのに……。
だが、止める間もなく振り落とされた斧は、茨の茎に深々と突き刺さる。
……それと同時に茨の防衛反応が始まるわけだが。
「な、なんじゃこりゃ!」
茨の防衛反応、つまり攻撃してきた武器を取り囲むように細かい茨で取り囲むというものだ。
ちなみに、この茨、細い見ために反して普通の茨よりも頑丈だったりする。
「くぅ……これではアクスが使えん。魔術師隊! なんとかできんか!」
「今試してみます! フレアジャベリン!」
フレアジャベリンか……これは魔術師隊の意識改革も必要になるだろうな。
あれを焼き切ろうとしたら白光の翼くらいは必要だもの、彼女の魔力じゃ。
そして、アクスにあたったフレアジャベリンは予想通り、茨を焼くことなく霧散する。
「おのれ、今の魔法でもダメか……」
「すみません、私の力不足で」
「いや、力不足だとは思わん。我ら城壁守護の精鋭50人相手に、魔術師がひとりで挑んできたのはこういう意味であったか」
「……そういえば、攻撃らしい攻撃はまだされていないんですよね」
「攻撃なしでこの結果だ。力量差など推して知るべしだろうよ」
どうやら、攻撃が無駄だと悟ったのか攻撃の手が止まってしまった。
砦を守護する防衛部隊がそれじゃあ、いけないなぁ。
仕方がないことかも知れないけど、最後は派手な魔法で締めさせてもらおうか。
「……おい、あれはなんだ?」
「水の最下級魔法。アクアショットだと思いますが……」
「そんなことを聞いてるんじゃねえ。あの数だ!」
「知りませんよ! 私たちに同時制御できる数なんてせいぜい5発がいいところで、あんな100発近いアクアショットなんて制御したことはないんですから!」
「おーい、そろそろアクアショットを発射するぞー。一発一発の威力はかなり下げたが、大量だからな。体を持っていかれないように、しっかりさばけよ」
その言葉を受けて、はっとする表情を浮かべる防衛隊員。
戦場でその隙は命取りだぞー。
「いけ、アクアショット」
今回はわざと特殊な細工をしていないアクアショットを200発程度用意させてもらった。
結果は……うん、全滅だな。
うーん、指導者がしっかりしていればもっと伸びると思うんだけど。
「模擬戦それまで! 防衛隊よ、不甲斐ないぞ! 那由他最強クラスの一角を担うハンターが相手とはいえ、一矢すら報いることができないとは!」
「返す言葉もございません」
シュラム侯爵の言葉に応対しているのは、この第一防壁の隊長さんである。
彼がこの50人の選抜チームを編成し、その結果として返り討ちにあったのだから、全責任は彼にあるだろう
「『白夜の一角狼』フート殿、貴殿の目から見て気になることはあったか?」
「魔法の練り型が旧式ですね。邦奈良などで使われている、最新型の集中方法なら同じ時間で白光の翼程度を作り上げることができます」
「やはり魔術師としてはそこが気になるか。ほかの方々はいかがかな?」
「私としては、全体的に覇気が足りないと思います。防衛隊であるなら、いざというとき、強大な魔物やモンスターと対峙することもあるでしょう。それが、今日のように及び腰になっていては勝てる勝負も勝てません」
「吾輩としては、連携がとれてないことですかにゃ? 攻撃役同士、もっと自分の役割に沿った行動を心がけるべきですにゃ」
「私は、盾役がひとりもいなかったことが気がかりかしら。基本的に反撃しないとはいえ、反撃することはあるのよ。それに最後の魔法だって、盾役がしっかりガードできていれば何名かは立っていられたかも知れないしね」
「くっくっく、だそうだぞ。防衛隊として、覇気が足りないのは大問題。連携がとれていないのは、実戦で大きな影響が出る。盾役がいないなど言語道断だ」
「はっ、面目次第もございません」
「かまわんさ。今日はそれに気付いてもらうための模擬戦だったからな。ちなみに、フート殿。お主がひとりでこの防壁を破ろうとすればどれくらい時間がかかる?」
「正攻法でいくなら30分から1時間。大技を使って一気に穴を開けるなら20分程度かな?」
「というわけだ。世の中にはこういう化け物もおる。日々精進を重ねることだ」
これで第一防壁側の模擬戦は終了、次に第二防壁側の模擬戦も行い、俺たちの2日目は終了した。
なお、国王陛下たちはシュラム侯爵抜きで後天性魔法覚醒施設の打ち合わせをしていたとか。
シュラム侯爵いわく、自分がいるよりもはかどるらしいよ?
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