304.国防都市逆戟到着

 さて、逆戟についたわけだが、俺は逆戟へと入る前に捕虜にした襲撃者たちを尋問することになった。

 騎士の尋問では、それぞれ別の貴族派の名前を挙げるばかりでらちがあかないと判断されたのだ。

 そのため、さくっと樹魔法を使って尋問したのだが……。


「ああん? ビエルデ伯爵?」


「ああ、俺の魔法で尋問したら全員そう答えたよ」


「ビエルデ伯爵がなぜだ?」


「ビエルデ伯爵って?」


「フートは知らねぇよな。ビエルデ伯爵は『王族派』の貴族だ。はっきり言って、襲撃してくる意味がわからん」


「それを俺に聞かれてもなあ……」


「ビエルデ伯爵を問い詰めてもしらを切られるでしょうな」


「だな。とりあえず、今回の件は軍務卿からそれとなく聞いておいてくれ」


「御意に」


「それじゃ、国防都市に入るとするか。街壁の前で止まってて変に思われているだろうからな」


 俺も自分の車に戻り、再度隊列が動き出す。

 街壁に取り付けられた重厚な鉄門が開かれ、俺たちは街壁内部へと招き入れられる。

 だが、街壁内部は街並みが広がっているわけではなく、まるで演習場のようだった。


「驚いたかにゃ? 国防都市逆戟は街壁も海壁も二重になっているのにゃ」


「ああ、驚いたよ。それで、国王陛下たちはなにをしているんだ?」


「おそらくは捕虜の引き渡しについてだと思うにゃ。第一壁と第二壁の間は砦の役割も担っていますにゃ。なので、捕虜はここで引き渡すことになると思いますにゃ」


「なるほどね。まあ、俺たちは情報を引き出せたわけだし問題ないか」


「ですにゃあ」


 国王陛下の乗っている車とこの街の兵士との間で行われていたのは、やはり捕虜の引き渡しについての話し合いだったようだ。

 それも無事にまとまったようで、トラックの荷台から捕虜たちが次々と降ろされていく。

 それが終わったら、改めて車列が進みだし、第二壁の門も開けられて晴れて街の中に入ることができた。


「街並みは……邦奈良の都を縮小したような感じか?」


「ですにゃ。出入りの監視が厳しいので、冒険者も規律正しい行動を取っていたと聞きますにゃ。そういう意味では、治安のいい街ですにゃ」


「そうですね。逆戟は邦奈良の都よりも治安がいいかもしれません。ただ、少し暮らしにくい面もあると思いますが」


「治安を維持しようとすると、どうしても息苦しくなりそうですね。この世界では」


「剣や魔法がある以上、治安を守る側もそれを使えなくちゃいけないものね」


「はい。どうやらこのまま、迎賓館の方に向かうようですね。そこで旅装をといて正装をしてから、領主と打ち合わせでしょうか」


「堅苦しい服装は苦手なんだけどね」


「アヤネ様やフート様たちは、そのままの服装で許されると思います。名目上は護衛も兼ねていますので」


「それは助かるわ。ちなみに、領主ってどういう人なの?」


「ええと……私も会ったことがないのです。ただ、武人であるという話しか聞いておりません」


「武人、か。話し合いがうまくまとまるといいけど」


「そこはうまく軍務卿と宮廷魔術師長がやってくれるはずですにゃ。吾輩たちは後ろで護衛していればいいだけですにゃ。多分、きっと」


「不安になるからやめて、ネコ」


「にゃはは。迎賓館に着いたようですにゃ」


 迎賓館に着くと、全員が慌ただしく準備して行くこととなる。

 今回は車での移動なので、特に泥や埃を落とす必要はないので俺たちの湯浴みなどは不要。

 だが、正式に王女として立ち会うフローリカや宮廷魔術師長の娘として紹介されるミリアはそうもいかず、メイドや侍女によって連れて行かれたのだった。


「平和だな、俺たちは」


「まあにゃ。落とす汚れもないですし、そのままでよいとお許しが出ましたからにゃ」


「女性陣はギリギリだったんじゃないか?」


「ギリギリでしたね。女性なんだから湯浴みをして磨き上げるべき、と言われましたから」


「私たちは護衛だから、そこまでしなくてもいいって言って逃げたけどね」


 そんな中、フローリカとミリアの部屋を守っている俺たちのところに、一人の男性がやってきた。

 体格も大きくがっしりとしていて、まさに武人といった風貌の男だ。


「失礼。『白夜の一角狼』の4人であっているかな?」


「ええ、そうですが、あなたは?」


「おっと、名乗るのが遅れたな。私はフィル = シュラム。この逆戟の領主だよ」


 なんで領主様がここに、と言うか俺たちのところにきてるんだ?

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