299.フローリカのアクセサリー試着会
国王陛下に内務卿、軍務卿といったお歴々との会合を終え、俺たちはフローリカの離宮までやってきた。
離宮では警備の騎士たちやメイド以外にも、今日の日のために鑑定師が呼ばれているらしい。
「申し訳ありません。フート様方を信用していないわけではないのですが……」
「構いませんよ、フローリカちゃん。王女が直接身につけるアクセサリーですもの。呪いがかかっていては大変ですからね」
「そうだな。その程度で目くじらを立てるつもりはないさ。俺たちも安心できるし」
「ありがとうございます。それでは、応接室へどうぞ」
フローリカやその侍女に案内され、応接間へと入る。
あとから遅れてやってきたのは、鑑定師のようだ。
「お待たせいたしました。本日の鑑定を務めさせていただきます、王宮鑑定師のヤーモスといいます」
「ご苦労様です。フート様、アクセサリーを出していただけますか?」
「はい。宝石箱を開けずに出した方がいいですよね?」
後から付け足した確認は、フローリカ相手ではなくヤーモスさんへの確認だ。
こういう場合の礼儀作法はまったく知らないからな。
「宝石箱を開けないようにお願いいたします。場合によっては、宝石箱を開けたときに毒や爆発などをすることもありますので」
「そんなこともあるのね……」
「ええ。そういった危険から王族の皆様を守るために私どもがいるのです」
「では、これが宝石箱です。鑑定をお願いします」
「失礼して……ふむ、これは」
「ヤーモス、なにかあったのですか?」
「いえ、宝石箱自体も魔導具になっております。効果は認証者以外の解錠禁止、中身の自動洗浄および時間停止です」
「ニネットはなにも言ってなかったですにゃ」
「サービスにしては気前がよすぎますよね? フートさん?」
「いや、保存に役立つ魔導具化ができるなら宝石箱も魔導具化してくれとは頼んだ。まさか、ここまでのものができるとは考えてもみなかったけど」
「ニネットを舐め過ぎにゃ。アイツは本気になると、徹底的に高性能なものを仕上げてくるのにゃ」
「はあ、困りました。主人の宝石を管理するのも侍女の仕事ですのに」
「まあまあ。真珠は管理の難しい宝飾品ですし、よかったではありませんか」
「それも侍女の知識や役目のひとつなのです。……今回ばかりは、姫様が婚約者から初めて贈られた婚約の証ということで大目にみましょう」
「なんだか、お仕事を奪ってしまい申し訳ない……」
うーむ、王族への贈り物って難しいな。
というか、ニネットさんはそのあたりも知っていて作った気がする。
「とりあえず、宝石箱にそれ以上の仕掛けはございません。宝石箱を開けて中もあらためさせていただきます」
「よろしくお願いします」
「……ふむ、中身はミスリルのチェーンネックレスと真珠のペンダントトップに指輪、バレッタ、ブレスレットですね。箱にもうひとつブレスレットを収められそうな隙間がありますが、これは?」
「即死毒を防ぐ魔導具のブレスレットを用意してもらう手はずになっているのです。さすがに即死毒を防ぐ魔宝石はすぐに用意できないそうなので、一カ月後になりましたが」
「では、この隙間はもうひとつのブレスレット用ですね。納得いたしました。まずペンダントトップですが、呪い反射、体力回復増進、精神安定、自動復元です。危険な効果はありません。呪い反射の効果が付いておりますので、すぐにでも身につけていただきたいと考えます。チェーンネックレスには破損防止と浄化の機能が付いています」
「はい、わかりました。あの、フート様。ネックレスとペンダントトップを付けていただけますか?」
「わかった。ヤーモスさん、よろしいですか?」
「ええ、鑑定も終わりましたのでどうぞ」
ネックレスに百合の花をかたどったペンダントトップを通し、長さ調節をしてフローリカの首にネックレスをかける。
うん、よく似合ってるな。
「似合いますか、フート様?」
「ああ。よく似合ってるよ、フローリカ」
「確かによく似合ってますよ、フローリカちゃん」
フローリカは俺たちの言葉を受け、満足そうに微笑んだ。
そして、侍女から手鏡を受け取ると自分の姿を映して嬉しそうにしている。
贈ってよかったな。
「指輪ですが、ペンダントトップと同じ効果ですね。サイズ自動調整も付いております。バレッタは、ペンダントトップや指輪の効果に加えて結界発動効果があります。これは魔力を通すことで発生するようですね。ブレスレットは、通常毒、麻痺毒、魅了毒、石化毒の無効効果と自動洗浄が付いております」
「毒の無効も注文通りだにゃ。さすがはニネットにゃ」
「ですが、毒の無効となると試さねばなりません。毒薬と毒消しを用意して護衛に試させましょう」
試すということで、各種毒とそれに対する解毒薬、それから毒を飲む毒味役が用意される。
結果は全部の毒が完全に無効化されていたということで、早速フローリカの腕に装着されることになった。
バレッタも侍女につけてもらい、満面の笑みを浮かべている。
「よかったですわね、フローリカ殿下。これで正式な婚約道具が揃いました」
「はい! ありがとうございます、フート様!」
「うん、よかったよ。これで大丈夫かな?」
「そうですね、フートさん。それでは、フローリカちゃんはお着替えの時間ですよ?」
「はい!」
「着替え?」
「今日のために何着かドレスを用意してもらいました。フローリカちゃんに似合いそうなAラインドレスですよ?」
「それでは着替えて参ります。少々お待ちください」
フローリカが一度退室して再びやってくる。
彼女が着てきたのはミキの言っていたとおりAラインドレス。
フローリカの体をふんわり包んでくれるデザインだ。
色は爽やかな若草色、優しげな雰囲気に仕上がっている。
「どうですか、皆様。このドレスは初めて披露しますが、似合いますか?」
「よく似合ってるよ。着ていて苦しいとかはないかな?」
「はい、コルセットできつく締め付けなくても大丈夫なのでとても楽です! 今までは多少とはいえコルセットで締め付けていましたので」
「そうか。ならよかった」
「着付けも楽ですし助かります。殿下のドレスは今後このデザインにしたいと思います」
「それがいいですね。エレーナ様のドレスデザインも変えてはいかがでしょう?」
「そうですね。あちらの離宮のものとも相談してみます」
若草色をしたドレスのお披露目が終わったら、薄い桃色、薄い水色などさまざまなドレスを着てみせてくれた。
フローリカには淡い色のドレスがよく似合っているな。
彼女のドレスのお披露目が終わったら、彼女は名残惜しそうな顔をしていたがブレスレット以外のアクセサリーを侍女に渡す。
侍女はそのアクセサリーを綺麗に拭き取って、宝石箱に戻した。
そのあとは、フローリカと遊びに来たエレーナと一緒にお茶会をして帰ることに。
フローリカもとても喜んでいたし、贈った甲斐があったな。
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