国防都市の領主
298.那由他国内の後天性魔法覚醒施設建設
フローリカのアクセサリーを注文してちょうど一週間後、ニネットさんから注文の品が完成したと連絡を受ける。
代金は支払い済みなので実物を受け取り、王宮へ向かうとフローリカの離宮に行く前に内務卿と会うことになった。
「内務卿さん、一体どんなご用事でしょう?」
「面倒な話でなければいいんだがな」
「海外から戻ってまだ二週間経ってませんにゃ。それに、アグニの件も考えると無茶ぶりはないはずですにゃ」
「そうよね。でも、そうなると予想できないわね」
兵士に案内されて、内務卿の執務室へと入る。
するとそこには、軍務卿、フローリカ、さらには国王陛下までいた。
「そうそうたる顔ぶれですね」
「まあな。俺の執務室でなく、内務卿の執務室なのは許してくれや」
「大丈夫ですよ。それで、一体どんなご用事でしょうか?」
「とりあえず、席に着いてくだされ。話はそれからです」
席に着いてからか、短い話にはならないようだ。
俺たち4人が座ったことを確認すると、内務卿が話を始める。
内容は後天性魔法覚醒施設の普及についてらしい。
「今回、フート殿たちの活躍により、ルアルディ王国、獣神国、コスタ国、リヴァ帝国へと後天性魔法覚醒施設を売り込むことができました。これによって、法神国に対する包囲網を構築できたと考えます」
「そうだな。ヴィンス公国を切ることになったのはある程度想定内だったが、獣神国にコスタ国、リヴァ帝国をこちら側に引き込めたのはとてつもなく大きい」
「そうですな。これについては、フート殿たち『白夜の一角狼』と樹龍王様に感謝せねば」
「今回の出来事で法神国が暴発しなければいいのですが」
「そこは大丈夫だろう。少なくとも、アグニの件が片付くまでは様子見に徹するはずだ。大陸の四カ国にちょっかいをかけるかも知れないが、そこについてはどの国も折り込み済みだとよ」
「本当に頼もしい国と国交を結べました。貿易も盛んにできればなおよかったのですが……まずは、アグニと法神国に集中しなければなりません」
「そうだな。で、ここからが本題だ」
本題、ね。
ここまでは確かに状況確認でしかないものな。
さて、どんな話になるのやら。
「はい。フート殿、この国の貴族はどう思いましたか?」
「先日のパーティでのことか? なんて言うか、想像してたお貴族様らしいというか……欲深くめざとい感じだったかな」
「左様。この国も貴族に関しては頭を悩ませている。子息も礼節をわきまえていなければ、親も親だな」
「まったくだ。おかげで、国内に後天性魔法覚醒施設を広める足がかりがつかめないでいた」
「つかめないでいた、ですかにゃ?」
「お、さすがリオン。その通り、最初の第一歩を刻むにふさわしい相手をようやく見つけたぜ」
「そのお相手は?」
「国防都市一帯を治める侯爵、シュラム侯爵のところだ」
「シュラム侯爵ですか?」
「ああ。アイツは邦奈良の都から一番近い国防都市、つまりは港湾都市を治めているだけあっていい治政を行っている。査察が頻繁に入るから当然と言えば当然だかな」
「政治力だけではなく武力の面でも優れている。本人も優れた武人であり、抱えている騎士団も優秀。国防都市以外にもいくつかの街や宿場町、村などを治めているが魔物の被害も毎年軽微だ」
「それに先日のパーティでの態度もよろしかったですな。内務卿である私のところにきて、後天性魔法覚醒施設の国内配備計画を尋ねたあとは要人とはあいさつ回りだけしかしていないようです。無駄におべっかや要求をしてこない態度、素晴らしいですぞ」
「……実際、俺んところまできて後天性魔法覚醒施設を寄越せっていう貴族どももいたからな」
「国王陛下に直接ですか?」
「ああ。少々舐められてきてるが、かと言って厳しく取り締まる案件もねぇ。痛し痒しだぜ」
「内偵はしていますが、その結果が返ってくるのはまだ先ですからな」
「内偵結果次第ではいくつかの貴族を取り潰すことになるだろう。本来なら、アグニと法神国の件が片付くまで大きく動きたくはねぇんだが」
「そううまくいかないのが治政というものです。……そろそろ、『白夜の一角狼』の皆様にきていただいた理由を説明しましょう」
「そうだな。済まねぇが、今回のシュラム侯爵家行きに『白夜の一角狼』も一緒に来てほしい。今回は二週間かからずに帰ってくる予定だ。長引きそうならお前たちだけで帰っても構わん」
「にゃ。今回の同行理由はなんですかにゃ?」
「前回と同じ、後天性魔法覚醒施設の担当者だ。まあ、本音は忙しくなる前にフローリカを甘やかしてやってほしいってところなんだが」
「お父様! 私そこまで子供じゃありません!」
「その割には、頼んでいたアクセサリーが完成するのを心待ちにしているって聞いたぞ?」
「それは……それです!」
「フローリカをからかっても仕方がねぇ。どちらにしても、フローリカも一緒にあいさつさせる予定だ。ランダルの養子になったミリアも連れて行く予定だし、気になるだろう?」
うーん、確かにそのふたりを連れて行くとなると気になってしまう。
国内だしそんな危険なことはないとわかっていても、なんとなくなにかありそうと考えてしまうんだよな。
「フートさん。二週間で戻っていいのでしたら、悪くはないのでしょうか?」
「そうね。その国防都市までの距離も気になるところだけど」
「朝方に車で出発すれば日が落ちる前に着きますにゃ。そういう意味でも、後天性魔法覚醒施設の説明がてら行くのはありですにゃ」
「そういうことなら断る理由もないか。わかりました、今回の依頼も引き受けましょう」
「助かりますぞ、フ-ト殿。実演はミリアがいればいいと軍務卿やランダル、国王陛下より伺っておりますが、説明となるとランダルに任せるしかないと考えておりましたので……」
「そこのところはお任せください。それで、今回、えーと、シュラム侯爵に提示するのは四号施設ですか? それとも六号施設ですか?」
「とりあえずは六号だ。そのあと、用地が確保できたら四号の建設を行う」
「了解です。出発はいつになりますか?」
「急で済まんが明後日だ。必要なものは着替えくらいで十分だが、行く場所は港に面した場所。場合によっては、教会の刺客とやり合う可能性も考慮してくれ」
「にゃ。わかりましたにゃ」
「それじゃ、今日の打ち合わせは終了だ。フローリカに会いに来たところを捕まえて悪かったな」
「気にしていませんよ。それでは、フローリカ。離宮に行ってアクセサリーを付けてみましょうか?」
「はい!」
うん、嬉しそうな顔をしている。
こっちまで嬉しくなってしまうな。
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