284.リヴァ帝国、到着

 コスタ国との会談で着陸した平原にて『鳴神』の修理も行うこととなった。

 深い損傷はないので航行に支障はないが、修復できるときに修復することしたようだ。

 そうなると、この場に数日間停泊することになったのだが、その間に別の飛行艇も合流する。

 獣神国三番艦『ハウンドドック』とリヴァ帝国の旗艦『シーサペント』だ。


「そなたが那由他の赤の明星か。娘たちが世話になった」


「いえ、自分も依頼を受けた側ですし、法神国のやり方には賛同できませんから」


「……わかった。では、そういうことにしておこう。借りは那由他国に返すとしよう」


 リヴァ帝国のジェオ皇帝は、俺に一言お礼を言うときびすを返して立ち去った。

 ミーシャによると、あの皇帝はせっかちな性格らしく、薄情に見えてしまうことがあるらしい。

 先ほどの態度も俺たちに対するあいさつを軽んじたわけではなく、このあとに控えているエイナル国王陛下との会談を優先させたのだろうという話だ。

 実際、エイナル国王陛下との会談が終わったあと、またジェオ皇帝がやってきて子供たちが再び会えてどのような様子だったか、ほかに人質を取られていた家族はどうだったかを教えてくれた。

 最終的にエイナル国王陛下との会食準備が整うまで俺たちと話をしていたあたり、人情味にあふれた人なんだろう。


「いや、すごい方でしたにゃ」


「はい。でも、人質に取られていた方々が元気になってくれたようでなによりです」


「そうね。問題はこのあと同盟を組んでくれるかだけど……」


「そこは国同士の問題だ。俺たちが口を挟める問題じゃない」


「そうだにゃ。大丈夫だとは思いますが様子をみますにゃ」


 だが、俺たちの心配は杞憂でしかなかったようだ。

 翌日には九号施設でテストを受け、その場で同盟締結となる。

 いや、早かったな。


「こういうのは即断即決が肝なんだそうだぞ」


「それは頼りになりますね。でも、大丈夫なんでしょうか?」


「国内についてはすでにとりまとめてきたそうだ。俺たちに断られることは考えてなかったんだろうな」


「断る理由もないですしね」


「違いない。ここからが大仕事になるがな」


 エイナル国王陛下が言うとおり、そこからは連日四カ国で話し合いをしていたようだ。

 不可侵条約と軍事同盟はすぐにまとまるが、通商条約については簡単じゃない。

 その国によって特産品も違うし、ほしいものも違う。

 国によって価値も違えば、各国で自国の産業も守らなければいけない。

 いやはや、大変だ。


「お父様たちは本当に大変そうですわ」


「俺たちには口の挟める分野じゃないですからね」


「はい。……フート先生、ここはこれであっていますか?」


「どれどれ……うん、あっています」


「よかったです。中級問題もようやく慣れてきました」


「すごいですわ、フローリカ姫。これだけの問題を7歳で解けるだなんて」


「そうですわね。私たちなんて、まだ中級の入り口でつまずいていますのに」


 今俺たちが行っているのは、いつものドリルを使った計算問題である。

 リコたち3人はアヤネとリオンが連れて行った。

 外で厳しい訓練をつけているのだろう。

 と言うわけで、『鳴神』のテラスで計算問題を行っているのは、教師役の俺とミキ、ミリア、フローリカ、ミーシャ、それにコスタ国のハルネリア第三王女とリヴァ帝国のマリカ第二皇女である。


「ハルネリア様もマリカ様も最初からそれだけできれば十分ですわ。私も最初はもっと簡単なところから始めましたし、ミーシャ様は……」


「言わないでください! 獣神国ではあまり習ってこなかったんです!」


「はぁ、先が思いやられます。……ところで、ハルネリア様とマリカ様。おふたりが那由他にお越しくださるのは本当ですの?」


「はい。そうなると考えております」


「少なくとも父はそういう考えでございます。……悪い言い方を言えば人質です」


「そういうやり方は那由他は嫌いです」


「フローリカ姫。外交とはきれいごとだけではすまないのですよ?」


「そうです。それに、今回は私たちも納得して那由他に渡るのです。法神国に無理矢理連れ去られるときとはわけがわけが違います」


「そうですか……? 私にはあまり変わらない気がいたします。せっかく再会できたご家族とまた離ればなれだなんて……」


「法神国に連れ去られては二度と会えなかった可能性もあります。ひとたび会えただけでも十分です」


「それに人質と言いましても、名目は友好国との親善という形です。そう悪い待遇にはならないはずですよ?」


「もちろん、酷い扱いにならないようにお父様に掛け合いますわ!」


「フローリカ、大丈夫ですよ。エイナル国王陛下ならわかっているでしょう」


「そうでしょうか。……そうですわね、お父様ならわかってくれますわよね」


「……そういえば、フート様はフローリカ姫に敬称をおつけにならないのですね?」


「ミキ様もフローリカ姫との距離感がとても近いですわ」


「フート様は私の婚約者になる方ですわ。ミキ様はそのフート様の第一奥方。親しくしていただいて当然ですの」


 その発言を聞いた姫君ふたりは揃って黄色い声をあげる。

 やっぱり女性って恋バナが好きなんだなぁ……。

 ミキはニコニコ見つめているし、ミーシャは問題が解けなくて突っ伏しているし……どうしたものかね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る