最後の国へ
274.ヴィンス公国に向けて
なんだかんだ、調停式は2日間で終わった。
戻ってきた国王陛下の話によれば同盟の締結はすぐに終わったらしい。
そのあと次の目的地ヴィンス公国でどう動くかを必死に考えていたそうな。
でも結局。いい案は出ずに相手の出方にあわせるということにするようだ。
「それでだ、予定通りフローリカは今回飛行艇から出さん。訪問客もすべて拒否させる。これはすべての近衛騎士、黒旗隊、メイド、近侍たちに伝えられている」
「国王陛下、そこまで警戒しなきゃだめな国なの? ヴィンス公国って?」
「ああ、やつらは自分たちの権力があればどんなことでもできると思い込んでいるからな」
「正直、15年前……先王がまだ在位だった頃はそこまで悪い国ではなかったのです。先王は人間至上主義を撤廃も進めていましたからな」
「それが蓋を開ければどうだ。いまの王は人間至上主義を撤廃どころか先鋭化してやがるし大臣どももそれをいさめねえ。とことん腐った国に成り果てちまったよ」
「我が国に在留している大使は……表面ばかり取り繕っていたのでしょうな」
「あの国に影を放つのは非常に危険だからと思って放置しちまってたが、これほどとは恐れ入るぜ」
どうやらよくわからんが非常に危険な国であることは間違いないらしい。
それもはた迷惑極まりないタイプの。
「それでルアルディ王国の王様も来てくださるんですね」
「ああ。ルアルディの一番艦『ゼウス』を出してくれたからな。王太女もいるし本気度を見せつけてくれるだろう」
「問題はそれを相手が理解できるかですかにゃ?」
「……さすがにここまでされて国力差を実感できないようならそんな国滅ぼしちまえばいい。統治をどうするかが問題だがな」
「ああ。教育問題」
「あの国の人種差別は魂にまで削り込まれてるんじゃねぇか? ってくらいのひどさだ。あれを統治したいと思う国はないと思うぜ?」
「明らかな貧乏くじだものな」
「ああ。土地もそんなに手が加わってないから痩せ細っているし、疫病の類いも頻繁に発生していると聞く」
「それって食料は大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないって聞いてるぞ? 聞いた話だと、民からほとんどの食料を税として取り上げ貴族は豪遊三昧をしていると聞く。あとは器量よしの娘がいる場合、その家に重税をふっかけて税金のカタに娘を奪っていったりな」
「……そんなことがまかり通る国なの?」
「なわけねぇだろ。どれも違法だ違法。15年前の時点ではどれも違法だった。いまはどうなってるかわからんがな」
「そういうわけです。彼の国には確か15,6歳の公王子がいたはずですが……かのものがフローリカ第一王女殿下との婚姻を強く望んでいるとか」
うわー、絶対関わりたくないやつだ。
外務卿のセリフで全員の顔が曇ったりしかめっ面になったりしたのが証拠だな。
「ちなみにどこ情報だ、おい」
「ヴィンス公国の在邦奈良大使よりです。出航一日前のタイミングでこの文章を持ってまいりました」
「忙しい時期を狙ってきやがったってことか……あちらさんの中ではもうフローリカとの結婚が決まっているんだろうよ?」
「めちゃくちゃだな」
「おう、めちゃくちゃだぞ。人の理屈なんて通用しない連中だ。これでますますフローリカを降ろすわけにはいかなくなったな」
「乗り込んできた場合、どうするにゃ?」
「飛行艇内は治外法権……『鳴神』の場合は那由他の領土として扱われる。領土侵犯の現行犯として捕縛して構わない」
「了解にゃー」
「っていうか、ここでそんな話が出るってことは……」
「確実に乗り込んで来るってことだよ。名目は……『未来の公王子の妃を助け出す』とかなんとかだな」
「めちゃくちゃね。婚約しているわけでもない。こっちが無理に捕らえているわけでもない。それなのに乗り込んでくるとか」
「それがあの国のやべぇところなんだよ。『自分たちの正義は絶対たる世界の正義』だって言うことを譲らない」
「そんなのを体現している国があるとはな……」
「まったくだ。これじゃ国民がかわいそう……でもないか。積極的に人間以外の種族を蔑み違法奴隷としてさらったりしてるって噂もあるからな」
「……やっぱり、その国、滅ぼしませんか?」
「俺も滅ぼしたいが、統治者がいない。まったく、困ったもんだ」
「本当に面倒ですね……ん」
俺はかすかな違和感に気付き、艦の周囲に魔力のシールドを張る。
すると、下方から突き上げるような爆音が響いてきた。
「何事か!?」
「はっ! ……ヴィンス公国の旗を掲げたと思われる自走砲部隊がこちらを攻撃しております」
「『ゼウス』と『ケルベロス』は無事か?」
「二艦とも攻撃範囲から外れています!」
「……ヴィンス公国め本当にめんどくさいことをしてくれる」
「なあ、そのヴィンス公国の旗ってしっかり確認できるのか?」
「は? いえ、この高度では確認しきれません。また、途中に雲もありそれが目くらましになっています」
「……フート?」
「やっちゃいますか」
「はぁ。お前は本当に仲間を守るときの沸点が低いぞ。大賛成だが」
「じゃあ、ちゃちゃっと片付けてきますね」
「わかった。総員に連絡! 『白夜の一角狼』フートが『国籍不明の部隊を壊滅させる』!」
「復唱!『白夜の一角狼』フートが『国籍不明の部隊を壊滅させる』」
「よし、あとは成果が出るのを待つだけだな」
というわけで、やってきました展望ブリッジ。
ここからならあの攻撃部隊も……見えた。
伝令兵も残さず始末したいようねぇ……。
『マキナ・ハンズ』じゃ届かないし、仕方がないか。
「炎魔法:レベル3:灼熱炎」
俺が使った炎魔法により、敵性部隊の中央から炎の渦が広がっていく。
それは逃げる間もなく勢いをまし、炎の半球となって内部のものをすべて焼き尽くす。
数分後、魔法の効果が消えたときには魔法の残滓も残っておらずただ焼け焦げた大地があるだけだった。
「うん、炎魔法はやっぱり加減が難しい」
念のため、あの周囲にサンダーレインを数十発撃ち込んで伝令兵がいないか……というかいても巻き込んで始末できるようにしてから艦内へと戻る。
同盟国に先制攻撃を仕掛けてくる国とか、どういう神経をしているんだろうな
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いつもお読みいただきありがとうございます。
ヴィンス公国ですが特定の国や団体、宗教などをモチーフに書いているわけではありません。
それらを指摘するコメントが複数回きているので注意喚起させていただきます。
あまりしつこいようでしたらブロックも視野に入れますのでご容赦を。
それでは。
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