273.三カ国軍事同盟締結

「なるほど、それで獣神国と手を結んだと」


 飛行艇を使い再びルアルディ王国に戻ってきた那由他国一行。

 それに従うようにしてやってきた獣神国一行には、ルアルディ王国の面々も驚きを隠しきれなかったようだ。

 ルアルディ王国と獣神国は国境線を接しており、今回の法神国による宣戦布告で一触即発のムードだったからだ。

 もっともそれは獣神国の王によりさっさと解除され、通常の国境警備業務に戻ったのだが。


「ああ、そうなる。でだ、獣神国とも国交を結びたいんだが、爺さんどうだ?」


「それは願ってもないことじゃな。獣神国の脅威がなくなれば法神国との戦争だけに力を注げる」


「そいつは悪かったよ。だが、お互い国としての面子がある。国民も守らなくちゃいけねぇ。そういう意味では申し訳ないが必要なことだったからな」


「わかっておるよ。儂らとて派手なクーデター騒ぎを法神国の手のものに起こされたんじゃからな」


「さて、それでは正式文章に調印と行こうか」


「だな。だけどよ、エイナル王。俺としては那由他に対する支払いに問題はねぇ。だが、ルアルディ王国に対しては……」


「ふむ、高すぎたか?」


「ちげえ。安すぎるんじゃないのか? 街を見させてもらったが、いろいろと復興作業中なんだろう? 金は入り用じゃないのか?」


「うむ、必要じゃな。だが、この場で賠償金としていただくのはこの額が妥当じゃ。お主らの国とは小競り合い程度しかしておらんからのう」


「……じゃあこの条件で受けさせてもらうぜ。那由他もあの後天性魔法覚醒施設つったか、あれをこの金額で売って大丈夫なのか?」


「これでもルアルディ王国に比べればふっかけている方だぞ?」


「マジかよ……技術の安売りじゃねぇか」


「今回の法神国との戦争、我々も本気だという現れだ。直接的な兵力の供給が難しい代わりに技術で支援させていただく」


「……わあった。その覚悟、受け取ったぜ!」


「ならば問題ないな。では調印といこうか。これからいくところは話の通じない相手だからな」


「ヴィンス公国か……本当にあの国は頭が痛い」


「うん? なんかあったのか、爺さん」


「我が国がクーデターで疲弊しているのをいいことに、勝手に食糧支援という名目で日持ちのしない野菜などを送りつけてきたのだよ。それも非常に高額でな」


「やりそうなことだな」


「で、どうしたんだ?」


「無論、追い返した。正式に食糧支援を要請したわけでもなく、あちらが勝手に海路で運んできただけだからな」


「それで大人しくするような連中じゃねえだろう?」


「大使殿が城まで乗り込んできたよ、アポも取らずにな。今回の食糧支援は我が国からの依頼に基づくものだと言って、書類も押しつけてきた」


「ほう、その書類は偽造書類か?」


「知らぬ。調べもせんかった。なにせ、クーデターを起こした第一王女派貴族のサインだったからな。クーデター首謀者の片棒を担ぐのか、と脅したらすごすご帰っていったよ」


「アホだな。偽造にはあまりにもお粗末、本物ではあまりにも情勢が読めていない」


「彼の国だからな。実際に運んでくれば喜んで飛びつくだろうとでも考えていたのだろう」


「ルアルディは豊かな穀倉地域があるんじゃなかったのか?」


「うむ。クーデター騒ぎがあったのは首都だけで穀倉地帯には何の問題もない。また、食料庫にも被害はなかったので民には備蓄を使い施している」


「本気のアホだな、あいつら」


「先王の時代は優秀な国だったのだがな……一代でこうも腐るとは」


「獣人族の寿命は人間の倍近いが……人間でも20年でここまで変わるのか?」


「普通はないな」


「ありえんぞ?」


「元々の国民性が悪かったんじゃねぇか?」


「その可能性も否定できんな。先王は融和政策を施し人間至上主義を撤廃しようとしていたが、現国王はそれを先鋭化させておるからな」


「領土的にも国力的にもルアルディに劣るってのになに考えてるんだか」


「知らん。最近は武力増強に余念がなく、民の暮らしは二の次三の次のようじゃ。おかげで大都市には大規模スラムが多く、農村も貧しいと聞く」


「本当に聞いてて気持ちのよい国ではないな」


「まったくだぜ。で、エイナル王。あの国では虎の子の赤の明星やフローリカ王女は飛行艇から降ろさないんだな?」


「無論だ。あの国においてはなにをしでかすかわからん。フートにもフローリカの身を守れるような魔導具を開発するように協力依頼をしてある」


「あいつ魔導具も作れるのかよ」


「そこまでの腕ではない、と本人は言っているがな」


「ともかく、今日の調印式はこれにて終了じゃな。状況が状況だけにあまり豪華なものは用意できなかったが、食事の準備をさせてある。晩餐会といこうではないか」


「わかった。いただくぜ」


「ふむ。フローリカも呼んだほうがよいか?」


「身内だけの簡単な式じゃ。この場に集まっている大臣だけで十分じゃよ」


「わかった。それじゃ、あいつらは呼ばないことにしておくぜ」


**********


「ミーシャさん、ナイフの使い方が違います。……ああ、あまり音を立てるのもマナー違反です」


「ふえぇぇん! 食事も授業だなんて聞いてないよー!」


「ミキ様がせっかく作ってくれた料理です。マナーに則り、おいしくいただきましょう?」


「うわぁぁん! このお姫様、可愛い顔して父上より厳しい!」


 今日もまた獣神国の王女だったミーシャの泣き声が『鳴神』に木魂する。

 最初の頃は何事かと思っていた使用人たちも言葉の内容を聞いてから判断するようになってきていた。


「それにしても、ミキってコース料理も作れるようになったのね?」


「シェフやコックの皆さんがお手すきのときに教えていただきました」


「にゃ。この腕前なら十分通用するにゃ」


「ああ、おいしいよ。ミキ」


「はい!」


「うぁぁん!」


「はいはい、泣き言を言っていてもお料理が冷めるだけですよ、ミーシャさん」


 実際には俺が遊びで作ったマジックアイテムの効果により、皿の上の料理は保温されているが教えない方がいいな。

 日中のマナーレッスンに引き続き夕食のマナーレッスンでも泣き言が入ったミーシャは心身ともに疲れ果てた様子だった。

 うん、平和だ。

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