266.獣神国国王カルロス = ガルム

 鳴神とケルベロスは指定された平野部へと飛行艇を降ろす。

 そして、そこからひとりの獣人が飛び降りてきた。

 なるほど、彼が……。


「俺が獣神国国王カルロス = ガルムだ! お前らの相手は誰だ!」


 相手を呼ばれたのなら出て行かないわけにもいかない。

 グロウアップ・サークルで成長させたテラとゼファーを引き連れ、俺も甲板から飛び降りる。

 さすがにそのまま着地することはできないので、飛行を使い勢いを殺してからの着地だが。


「……ほう、俺相手に魔術師とは舐められたものだな?」


「舐められたかどうかは実際に試してみればわかるのでは?」


「……言うねぇ。確かにそうだ。勝負条件の確認だが従魔も含めた一対一の勝負、戦闘終了はどちらかがギブアップするか戦闘不能になったとき、これは死亡も含まれる」


「国王を殺しても問題だと思うんですが?」


「そこは言いくるめてあるから平気だ。むしろ遠慮なく殺す気でこい。俺もそうさせてもらう」


 うへぇ、ハードだな。

 エイナル国王陛下からはなるべく殺さずに生け捕りにしてほしいとお願いがあったのだが。


「事前説明は以上だが……俺からひとつ聞いてもいいか?」


「ええ、構いませんよ」


「お前の後方に控えている従魔ってフェンリルじゃねえのか?」


「はい。フェンリルです。那由他だとフェンリルの進化条件が段々明らかになり始めてますよ」


「く~~っ!! うらやましい! 俺たちの国ではフェンリル様は神獣のひとつとして祀られているほどなんだぞ!」


「それはそれは……でも、この子たちも渡しませんよ?」


「わかってるさ。さて、始めるとするか」


「ええ。始まりの合図は?」


「初手は譲ってやる。ドーンときな」


 初手は好きな技を使えるのか。

 派手なのいくかな。


「では、〈雷精たちよその力を解放せよ。その真性は破壊。それを統べるは機械の意思。目覚めよ目覚めよ破壊の力に。そして集いて一本の矢とならん。それは閃光。それは破滅。さあ、征くがよい!! その破壊に祝福を!! マキナ・トリガー!!〉」


「んな!?」


 一本の真白い雷閃に対し獣王はぎりぎりのところで避けてくる。

 それでも足を焦がすことに成功したから、多少のダメージは入ったはずだ。


「……こいつは初手を譲るんじゃなかったなかな」


「隙がなければぶちかませない大魔法ですから」


「だが、俺も負けられねぇ理由はある! 一気にいかせてもらうぜ!」


 獣王は雷に焼かれた足をまったく気にせず、一直線に近づいてきた。

 さすがに早い!

 テラが間一髪ブロックに入ってくれるが、かなり鈍い音が響く。

 そして獣王の攻撃はまだ続くところだが、横やりを入れさせてもらおう。


「ソーン・バインド」


「んな!? 茨のツタだと!?」


 今のうちにゼファーの癒やしの力で回復したテラとともに間合いを開ける。

 そして、獣王を縛っている戒めが解けないうちに次の行動だ。


「炎魔法:レベル2:炎上」


 俺の意思に従い、獣王の足元から天まで吹き上がる青い炎の柱が吹き上がる。

 これには獣神国側からも悲鳴が上がるが……俺としては大したダメージを与えられた気分ではない。

 実際、炎の中から出てきた獣王はやけどこそすれ重症とは呼べず、ますます闘志に火が付いた感じだね。


「……すまねぇな。俺はお前を最初にみたとき軟弱なひよっこ魔術師だと高をくくってた。いまは俺と渡り合える絶対強者として認めてるぞ」


「それは……喜べばいいんでしょうかね?」


「喜びな。俺が認めた戦士はここ数十年いなかったんだからよ」


「あはは。認められる前に戦闘不能にできていればよかったんですが」


「まったくだぜ。こっから先は完全に命の奪い合いになっちまう。そうなると両国間戦争の引き金になって、余計な死人を出しちまうからな」


「獣神国王?」


「悪いな。戦いたい気分はある。それ以前に、お前を倒さなくちゃいけない理由が俺にはあるんだわ。すまないが、に死んでくれ」


 か。

 この人も立派な国王のような気がする。

 その人が自分のためにというあたり、なにか作為的なものを感じるな。


「さっきも言ったが、こっからは命の奪い合いだ。容赦なく、全力で、俺を殺しに来い」


 そう告げると獣神国王の体から湯気が出始め、やがてそれは青い炎となって全身を包み込んだ。


「どうだ、かっこいいだろう? 自分の生命力と引き換えに魂の力を引き出す秘術だ。……そういうわけだから遊んでいる時間はねぇ。全力でいかせてもらう!」


 その瞬間、獣神国王の姿がかき消えた。

 違う、素早さが高すぎて俺の目では反応できなくなったのだ。

 実際、俺の右手側では守りに入ったテラと獣神国王のせめぎ合いが続いている。


「ソーン・バインド!」


 再び茨のツタで獣神国王を捕らえようとするも、その体から拭きだしている炎ですべて焼かれてしまう。

 これは抜本的な対策が必要なようである。


「おらおら! お前らの実力はそんなものか!」


 テラとのせめぎ合いも終わり、獣神国王はいったん間合いを離す。

 この距離ではどんな攻撃でもあまり意味をなさないだろう。

 さて、次に切るカードはどれにするか……。


「さっきからずいぶんと受け身だな! 自分から責めてくる気概はないのか!」


「速すぎて当たりませんよ!」


「……ああ、なるほど。すまん、その可能性は考えてなかった」


 さて、この会話の間も必死に考えを巡らせて……出た結論はあれか。

 またテラに頑張ってもらって動きを封じよう。


「じゃあ、また俺からいかせてもらうぜ! 獣神の牙!」


「!! スキル攻撃!?」


 獣神国王は炎でできた獅子の姿となり俺たちに襲いかかってくる。

 それを迎撃するのは同じく、雷を身にまとったテラだ。

 両者は俺の前方で激しくせめぎ合うが……テラの方が不利か。


「そうはさせないよ! フロストツリー・バインド!」


 俺は特殊な加工を施した種を蒔き、魔力を流す。

 すると、が生えてきて獣神国王を拘束する。


「んな! 氷属性の束縛魔法か? いや、これは、ただの束縛魔法じゃねぇ!」


 さすがは一国の主、魔法への造詣も深い。

 氷の樹木は数十秒で獣神国王のまとっていた炎をかき消すことに成功する

 さて、今のうちに、次の行動に移らないと。


「宿り木の花!」


 今度はクルミサイズの種子をいくつか獣神国王にぶつける。

 あてられた獣神国王はよく意味が理解できてなかったようだが、種子は体にぴったりとひっつき発芽を始める。


「こいつ! ヤドリギ草の魔物!」


「魔物じゃなくて魔法なんだけどね……?」


 どちらにしても拘束されて身動きの取れない獣神国王に絡みついていく宿り木の花は、そのツタをしっかり固定させると獣神国王の魔力と体力を養分に一気に開花する。

 それが……七株か。

 常人なら死んでるところだが、獣神国王はまだ意識があるな。

 しかし、かろうじて意識を繋いでいるだけで、もうこれ以上の反撃はできそうにない。

 というか、早いところ宿り木の花をなんとかしないと殺してしまう。


「獣神国王、負けを認めてくれないか? このままだと、あなたの命はあと数分だ」


「……それは俺がよくわかっている、だが俺も引けないのだ!」


 その目の奥にはなにか強い決意の色が感じ取られた。

 これはもしや……。

 俺はそっと獣神国王の耳元に口を持っていき小声でささやく。


(法神国によって誰かを人質にとられたか?)


(……!?)


(図星か。俺たちに協力してくれるなら救い出すチャンスを与える……というか、俺たちはあの国に捕まっている人質救出依頼をとある方から頼まれている。このままお前が殺されても人質は帰ってこないんだろう? 俺の話に乗らないか?)


(……悪魔が)


 うん、最後のつぶやきは聞かなかったことにしよう。

 そして、獣神国王はこう宣言する。


「俺の負けだ! 獣神国は那由他に降伏する!」

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