267.獣神国からの救出依頼
俺は周囲を森の結界に包んでからカルロス王を引き連れて鳴神へと戻る。
なお、さすがに宿り木の花は除去していまは普通の草で縛っているだけだ。
「うむ、大義であったな、『白夜の一角狼』フートよ」
「まったくです。さすがの俺も何度か死にかけましたよ」
「本当か? 余裕がありそうだったぜ?」
「テラとゼファーがいたからですよ、カルロス王。自分に足りない素早さを補ってくれますので」
「うらやましいぜ、神獣フェンリル様が2匹も守護についているんだからな」
「……さて、フートよ。見てのとおりこの場にはいつものメンバーしかおらん。内緒話をするには最適だと思うが?」
「ですね。カルロス王、詳しく教えてもらえますか? 俺もまだ概要しか聞いていないので」
「そうだな。2週間ほど前だったか、俺たちの宮殿にいきなり法神国の神殿騎士どもが殴り込んできたのは」
「ちっ、本当にあいつらはろくなことをしやしねぇ」
「2週間前と言えば俺たちがルアルディのマルティン王を救出した頃ですね」
「ルアルディを乗っ取れなくなって強硬手段に打って出たか?」
「ルアルディ王国の現状など俺たちにはどうでもいい。神殿騎士団どもは我が末娘を含め有力氏族の子女をさらっていったのだ」
「氏族?」
「うん? ああ、人間には聞き覚えのない言葉か。我々はいくつかの部族が集まって国をなしている。それぞれを『氏族』と呼び、国政にも関わっているわけだ」
なるほど、一種の共和制か。
王様がこれだから脳筋一直線かと思ったがそうでもないらしい。
「話を続けさせてもらう。さらった子女を無事帰してほしければ那由他を襲い、鳴神を討ち滅ぼせということだった。……もちろん反対する氏族もいたが大半の氏族は賛成した。自分たちの子供や孫がさらわれたのだからな」
「ほんっとうにやつらのやり方はきったねぇな! 自分たちの手は汚さずに他人の手を汚させるなんてよ!」
「那由他王。怒りはわかる。だが俺としても娘をさらわれたのだ。その命を人質に取られては簡単に拒否できるものではない。娘だけならともかく、十数名の氏族の子供たちが一緒ならなおさらな」
「……フート」
「もう少し詳しい話がほしいです。その子供たちはまだ獣神国に?」
「いや、もうすでに法神国への護送が始まっているはずだ。時間を考えればまだ法神国へはたどりついていないはずだが……」
「今回のミッションは結構ハードですね。どこにいるかわからない子供たちを助けなくちゃいけない。それも人質に手を出されないように迅速に」
「迅速制圧はお手の物だろう?」
「ええまあ。ですが、どこにいるかわからない子供たちを見つけるのは容易じゃない」
「ちっ! やはり影に見張らせておけば……」
本当に手詰まり感がある。
さすがのテラやゼファーも追うべき対象が数百㎞先、しかも元の匂いがわからないとなれば追いかけようがないのだ。
果たしてどうしたものか……。
「お困りのようですね~」
「なっ! お前は!?」
いきなり艦内、それも王族用の一室に現れた人物、それは……。
「はーい、イツキと申します~。以後お見知りおきを~」
「おい、フ-ト。イツキってお前の話に出てきた……」
「はい、樹龍王です」
「そうですね~。ただ、今回は分体の分体レベルですのでかなーり弱いのですが」
「龍王基準の弱いって当てになるのかしら?」
「うふふ~。さて、あまり時間もないので手短に。獣神国、コスタ国、リヴァ帝国、ガンド共和国、ヘイムダル国。この五国から同じ方法で人質が法神国へ送られようとしているのですよ~」
「なんだと! あいつら、俺たちの国だけじゃなくほかの国でも……!」
「はいはい。怒るのはあとにしましょうね~。それで特別依頼です。フートさんたちはこれらの五カ国の捕虜たちを助けていただきたいのですよ~」
「いや、イツキ。助けるのは俺もそうしたいが、移動手段が……」
「移動手段は特別にこちらで用意させていただきました~。もうすぐフェアリーゲートが開門しますよー」
「用意が早いな」
「もちろんですよ~。フートさんたちならこの依頼を断ることはないと判断いたしましたので~」
「見透かされているのもあまり気分がよくないが……事実だから仕方がないか」
「そうですね。フートさんが子供に甘いのは今に始まったことではありません」
「そうよ。それにそう言ったところも含めてフートでしょ?」
「ですにゃ。吾輩も大暴れできそうでうずうずしてきましたにゃ!」
「リオン。はりきっているところ悪いが基本はサンダーハンズ一発で終わりだぞ?」
「……人命優先だにゃ」
「よし、お前らは捕虜の救出作戦を受けるんだな?」
「もちろん。できる限りのことはしますよ」
「獣王、今回連れて行かれた子供のほかに人質にされている連中はいるか?」
「いや、いない。いても、自分から望んで法神国に渡った連中のみだ」
「フート、そいつらまでは助けらんねぇよな?」
「さすがに準備不足です」
「だわなぁ。とりあえず、今回の捕虜だけでも助けるか」
「いいのか、那由他王。国の戦力をそんな簡単に使ってしまって」
「あー、フートたち『白夜の一角狼』は正確には国の戦力じゃねーんだわ。だから、やると決めたら止めらんねぇ。サポートに徹する方が国としても利益が大きい」
「……わかった。もし人質たちを救出してくれたら獣神国は那由他の軍門に降ろう」
「それはそれで困る。その辺はうまくいったときの話し合いだ。フート、すぐに出るんだろう?」
「ええ、そのつもりです」
「しくじるんじゃねぇぞ?」
「もちろんですよ」
飛行艇を降りるとご丁寧に行き先まで書かれたフェアリーゲートが5つ設置されていた。
至れり尽くせりだね、あの龍王様。
「まずは獣神国からですね」
「だな。準備は?」
「いつでも!」
「どこでも!」
「完璧だにゃ!」
「よし、突撃だ!」
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