260.救出戦
「あーもう! うざったい! ゼファー、まだ先なの!?」
『もうしばらくお待ちを。匂いはこの壁の向こうに続いております故』
「ミキ、一発ドカーンといけないの?」
「そんな危ない真似はできません」
俺たちがこの遺跡に突入し始めてからすでに30分は経過している。
途中で出会う騎士……おそらくは神殿の神官騎士どもは一様に驚いた顔をして俺たちと戦おうとしてきたわけで。
なので、俺たちが侵入していることはまだ末端までは知られていないと確信が持てる。
「あ、入り口が見えました!」
『あそこから中に続いているようですね』
「よっし、入るわよ!」
走りながら陣形を変更。
いままでは、ゼファー(俺)、ミキ、アヤネで駆け抜けてきた。
それをアヤネ、ミキ、ゼファーの順に切り替える。
そして、部屋の中に飛び込むと……探していた人物が全員揃っていた。
「これはこれは、那由他の赤の明星様方、ご機嫌麗しゅう」
「こっちのご機嫌はちっともよくありませんね」
「オルゾーラ王女、並びにイサルコ、アルフレート。お前たちにはルアルディ国王から捕縛命令が出ている。すまないけど俺たちと一緒に来てもらうよ」
「まぁまぁ。そんな野蛮なことをおっしゃらずに。それにあなた方では無理ですわ?」
「なに?」
「イサルコ、アルフレート。例のものをお使いなさいな」
「そうですな。赤の明星といえど、我々にはかないますまい」
「単身乗り込んできた愚、その死で思い知るといい!」
それだけ言い放つと、イサルコとアルフレートのふたりは真っ黒なポーション……ポーションか?
とにかく、真っ黒な液体を取り出し飲み干す。
すると、目の前で信じられない事象が起こった。
「ぐぉぉぉぉ!」
「がぁぁぁぁ!!」
「フート!? これって!?」
「焦るな。……どうやらモンスター化したようだな」
「モンスター化、ですか」
「そんなことできるの?」
「できるからやってるんだろう?」
「いや……それもそうか」
アヤネは俺の言葉に納得してくれたようである。
俺も目の前の事象は信じられないけど。
『どうした、小僧ども。恐れをなしたか?』
『我々はレベル100のモンスターの魔玉石を使い、モンスター化したのだ。恐れをなして当然だろう』
「……それで、レベル100しかなかったんですね」
「しかし、困ったな。魔玉石にこんな使い道があるとは」
「この国の国庫からもらえるって話。流れないかしら」
俺たちにとってレベル100のモンスターなど、たいした脅威ではない。
問題はその口から語られた『魔玉石でモンスター化した』という内容だろう。
これは帰ったら両陛下を交えて相談だな。
……頭が痛い。
『何をごちゃごちゃ喋っている!』
「悪い悪い。いま、この先のことを考えていたんだ。頭が痛くなってきたけど」
『おのれ、なめくさりおって!』
「舐めてるんじゃなくて、歴然とした戦力差があるんですけどね……」
「これ以上話すのも無駄か。とりあえずアルフレートをやるぞ」
「そうね。こいつならこの場で殺しても問題はなさそうだし」
『おのれごちゃごちゃと……まあ、よい。貴様らなぞひねり潰して……』
「悪いけど前口上は聞かない主義なんだ」
俺はアルフレートの意識が別のところにいった隙にマキナ・アンガーを発射準備態勢へと整える。
本能的なもので察知したのだろう。
アルフレートは逃げ腰になっていた。
『なんだ……なんだ、その魔法は! そんな魔法、報告書にはなかったぞ!?』
「それは報告書が古いか調査不足だな。どちらにしてもお前は終わりだ。……輝きを立ち塞ぐすべての愚かなるものに鉄槌を!! マキナ・アンガー!!」
俺から放たれた白光の雷閃はアルフレートを飲み込み、その姿を消し去った。
……と思ったら、モンスター化していたアルフレートの足元に人間状態のアルフレートと魔玉石が転がっている。
なるほど、倒すとああなるのか。
『アルフレート殿!? 馬鹿な! いまのお前たちにそのような魔法は使えないはず!』
「敗因は他人を見た目で判断したことだな。……輝きを立ち塞ぐすべての愚かなるものに鉄槌を!! マキナ・アンガー!!」
『グァァァァ……』
こちらもまたマキナ・アンガーに焼かれてその姿を消し、元の人間と魔玉石に姿を変える。
ちなみに魔玉石と人間状態に戻ったふたりはゼファーがさっさと回収、アヤネが魔玉石をアイテムボックスにしまう。
「な、なんなのよ……あんたら一体……」
おうおう、オルゾーラ王女の目には困惑と恐怖の色が浮かんでるな。
それも当然か。
目の前で自称レベル100のモンスターが一瞬で倒されたんだから。
「さて、オルゾーラ王女。できれば手荒なまねはしたくありません。いまならパンチ一発で我慢してあげます。降伏しませんか?」
「……オルゾーラ王女でしたっけ? ミキのパンチは人間なんて軽く吹き飛ぶレベルですからね? 早く降伏したほうがいいですよ?」
「アヤネさん。相手は王族ですよ? 脅されたところでそう易々とは……」
「まって、降伏する! 降伏するから命だけは見逃してちょうだい!」
「……だとさ、ミキ」
「仕方がありません。オルゾーラ王女、残り3人の王子王女はどこにいますか? ああ、嘘をついてもすぐにわかることなのでお覚悟を。もしかすると指を間違えて踏み潰すかも知れません」
「ミキ……」
「……あの子たちはこの更に下にいるわ。まだ生きているかは怪しいけど」
「ゼファー?」
『魂の残り香はまだ続いています。ですが、大分弱々しくなっていますね』
「ちっ。俺は先に行く。お前たちは……」
「こいつらの見張り兼追っ手がきた場合の足止めね」
「無理しないでくださいね。ゼファー、フートさんが無理しそうになったときは止めるんですよ?」
『承知しています。それでは我が主。お乗りください』
「じゃあ行ってくる。3人とも拘束していくがくれぐれも無理はしないで」
「はい。いってらっしゃい」
「必ず無事で戻ってくるのよ」
俺はオルゾーラ王女を初めとする3名を茨のツタで拘束する。
トゲが食い込んでその痛みにオルゾーラ王女が絶叫していたが、無視無視。
その間にもゼファーは長いらせん階段を飛び降り、一直線にさらわれた王子王女の元へと急ぐ。
そして、古代遺跡の最奥部で行われていたこと、それはなんとも怪しげな儀式だった。
「なんだ! ここまで侵入者だと!?」
「上の連中は何をやっている!」
「そんなのどうでもいいだろう? とりあえず眠れ。スリープフラワー」
あらかじめ用意してあった種を発芽させ、花を咲かせると水色の花粉が周囲を覆う。
その花粉を吸い込んだ儀式をしていた男ども……仮に呪術師とでも呼ぶか……そいつらは昏倒し床に崩れ落ちる。
そして、こいつらも茨のツタで拘束し、王子王女の容態をみることに。
だが、これは……。
「ゼファー、これを癒やせるか?」
『不可能です。どのような術式を使っていたかはわかりません。ただ、魂そのものに傷を与え、そこから何かを抽出しています』
「魂か……天龍王か冥龍王の管轄だよな」
『基本その認識でよろしいかと。ですが、まだ、修復可能では?』
「どちらにしてもこの場では治療不可能だ。上で待っているふたりのところまで戻るぞ」
『かしこまりました』
ミキとアヤネのふたりがいる位置まで戻ってくる。
するとそこでは入り口付近でアヤネが押し寄せてくる兵士を押し返していた。
「ミキ、上にいた連中が追いついてきたのか?」
「そのようです。ずいぶん早いですよね?」
「魔物除けの何かを持っているのかもな」
「……それで、そちらの3名は?」
「治療が必要だ。具体的にはあの花を使ったな」
「……困りましたね。あの花を作るには神聖結界の中じゃないとだめですし、そうなるとほかの方々にもみられてしまいます」
「仕方がないと思って割り切ろう。アヤネ! 入り口を封鎖するから敵兵を吹き飛ばしてくれ!」
「了解!」
アヤネがシールドバッシュの上位技で敵の最前線を一気に押し戻す。
そこに俺の魔法で木々を生やし、バリゲートを構築するのだ。
よし、完璧だな!
「それで、フート。どこにくさびを立てるの? この遺跡内じゃ無理でしょう?」
「ああ、だから地上まで穴を開けようと思う」
「また、無茶を……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか。崩れそうにないですし」
「っとその前に」
まだ起きていたオルゾーラ王女にスリープフラワーの花粉を吸い込ませて昏倒させる。
これで準備は完了だな。
「じゃあ、行きますか」
「はい」
「おっけー」
『ご随意に』
「〈我が意に集え雷精たちよ。真なる力の一部を開放せよ。それを統べるは我の意思、輝き放つは精霊の力。放たれたるは人知を超えた真なる閃光。ゆけ! 輝きを立ち塞ぐすべての愚かなるものに鉄槌を!! マキナ・アンガー!!〉」
斜め上方向に発射されたマキナ・アンガーは遺跡の壁を地表ごと溶かし、大地を突き破って地上への一本道を作る。
……うん、都合がいいことに遺跡の裏手に出たな。
俺たちはそれぞれの方法で地上までの穴を通り抜け、念のため魔法を使い穴を埋め立てておく。
「それじゃあ、帰るとしますか」
「派手にやりましたからね。皆さん帰りを待っていると思いますよ」
「急ぎましょう」
周囲に俺たち以外の気配がないことを確認すると、俺はフェアリー・ゲートのくさびを刺して再び妖精の門をつなげる。
うん、無事に迎賓館までの通路はつながっているみたいだ。
さて凱旋だな。
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