261.奇跡のレインボーフラワー

「なんだあの光の柱は!?」


 吾輩たちがいる場所よりはるか離れた場所で光の柱が突き立ったのにゃ。

 ああ、これは……。


「リオン。いまのはフートのマキナ・アンガーで間違いないか?」


「ですにゃあ。どうやらあちらも片付いたようですにゃ」


「マキナ・アンガー? 一体何を?」


「落ち着けマルティン王。あれはフートの魔法だ。それをおそらく地下から脱出するために使ったんだろうよ。……遺跡に穴が開いちまったが」


「む……まあ、あそこはモンスターの巣になってしまったからな。そもそも古いというだけで大した学術価値もない。……しかし、大地に穴を開けるほどの魔法とは……」


「まあ、数百匹の飛行型魔物を数発で倒しちまう魔法だからな……それより、リオン。フートたちはまだ戻らねぇのか?」


「もうすぐ戻ってくるはずにゃ。念のため人目に付きにくい場所を選んでいるはずにゃ」


「ああ、よかった。フートさんたちは無事なんですね」


「無事ですにゃ。一般兵が束になってかかってもフート殿にすら勝てないにゃ」


「……その表現、誇張抜きだからこえぇ」


「にゃはは。……おや、お帰りのようですにゃ」


 くさびが光り出してその上に門ができましたにゃ。

 そして門が開かれると最初にフート殿が通り抜け、そのあとを王子王女を連れた奥方様たち出てきますにゃ

 最後に……ゼファーの背中にくくりつけられているのは敵捕虜ですかにゃ?


「おう。戻ったようだな、フート」


「少し遅くなりましたけどね。少なくとも王子王女をことには成功しました」


? ではなくか?」


「いろいろと問題がありまして……ともかく、マルティン王に状況を説明しなければなりません」


「わかった俺も行こう」


 うーむ、どうやらフート殿でも間に合ったとは言い切れないようですにゃ。

 ともなればを頼ることになるのでしょうが……。

 微妙な心境だにゃ。


「っと、その前に」


 フート殿が魔法を使ってくさびを焼き払いましたにゃ。

 これで対になっている向こうのくさびも灰になっているはずですにゃ。


「フート?」


「念のためゲートを破壊しました。行きましょう」


**********


「おお、ミキ殿、アヤネ殿! 子供たちを無事に連れ帰ってくれたのですね!」


「……それが無事とは言えないんです」


「とりあえず降ろすわね。いつまでも担いでいるわけにもいかないし」


「はい。……これは?」


「詳しい状況はよくわからないのです。詳しい話はうちのフートから……」


「ああ、俺が説明いたしましょう」


 ミキではこ症状の説明はできないだろう。

 さすがに毒や病気、呪いの類いならともかく魂の欠損だからな……。


「フート殿。それで、子供たちの容態は?」


「先に助けたときの状況を説明いたします。俺たちが向かった遺跡の最深部……に近いと思われる場所。そこで怪しげな術士数名から3人は詳細不明の術をかけられていました。その術を受けることによって魂の一部を欠損した状態にあります」


「……魂の欠損」


「わかりやすくいえば、生命をつなぎ止めている器が壊れている状態です。このままではあまり長く保たずに死ぬことになるでしょう」


「そんな……せっかく助かったというのに!」


「おい、フート。お前なら救う方法、あるんじゃねぇか?」


 ここで口を挟んできたのはエイナル王、那由他の国王陛下だ。

 さすが、勘がいいな。


「不可能ではないです。ただ、その方法は秘術中の秘術。できれば他人に知られたくないんですよ」


「じゃあ、俺たちは席を外すが?」


「莫大な魔力波でだいたいの状況を察せられると思います。それに『席を外す』といっても、この森から出てもらうことは敵襲の恐れがある以上得策ではありません」


「ちっ、まったくもってその通りだからかわいげがねえな!」


「そのためここであったことは内密にしてもらうしか助ける方法はないですね」


「……わかった。今日ここでどんな治療が行われたかは口にしない。誓約紙は必要か?」


「誓約紙じゃこの契約はできないんですよ。誓約紙にもランクがあるように、この魔法のランクに耐えうる誓約紙は存在していません」


「口約束だけか……お前らのパーティは当然知ってるんだよな?」


「はい。知っていますよ」


「って、なると俺たち那由他とルアルディ王国の面々が口をつぐむかどうかだな。お前ら、その覚悟はあるか?」


「無論です」


「当然ですな」


「はい、国王陛下」


「……那由他の腹は固まったぜ。ルアルディはどうなんだ?」


「儂らにはすがるよりほかない。絶対に約束は守る」


「……だってよ」


「それでは始めましょうか。リオン結界を二重にして俺たちの周りだけを囲ってくれ」


「はいにゃ~」


 リオンが気の抜けた声で返事をするが……しっかりと俺の注文通り俺たちだけを守る木々の結界が展開される。

 これがないと次段階へ進めないからな、


「オッケーですにゃ」


「わかってる。それじゃ、始めようか。〈我望むは至高の庭園。妖精が舞い、精霊が踊る。草よ花よ、その願いを聞き届けたまえ。フェアリーズ・サンクチュアリ〉」


 俺は詠唱を終えると若木の杖を大地に深く突き刺す。

 するとそこから草花が芽吹き始め、結界内を覆ってしまった。


「……ふぅ。やっぱりこの魔法もかなりのMPを持って行かれる」


「次の魔法が本番ですよ、フートさん。魔力が回復するまで休んでくださいね」


「ああ、わかってる。この調子だとあと1分くらいか?」


 ゆっくりと集中し、魔力回復を行う。

 こうしている間にも王子王女の容態は悪化しているんだ。

 失敗するわけにはいかないからな。


「ミキ殿。この花畑は一体……?」


「これから作る薬花を作るために必要な聖域です。できれば黙ってみていてください」


「……すまぬ。そうさせてもらおう」


 ミキがマルティン王に説明している間に魔力回復は終わった。

 ここからが本番である。

 俺は地面に突き立てられている若木の杖を包み込むように両手をかざすと。ゆっくり魔力を通していく。

 さあ、ここからが勝負だ。


「〈母なる大樹の偉大な息吹よ。この世界の命をつかさどる母なる樹よ。その奇跡、我が力によっていまこそ目覚めよ。レインボー・フラワー〉」


 俺の呪文詠唱にあわせて若木の枝の先端が伸び、らせんを描くように絡まっていく。

 やがてそのらせんの頂点に一輪の輝くバラが咲き誇る。

 ……どうやら成功したようだな。


 魔力が枯渇寸前になり、後ろに崩れ落ちるのを支えてくれたのは……またしてもアヤネだった。


「たびたびすまないな。アヤネ」


「気にしないで。私はあなたを守る盾なんだから」


「大丈夫なのかフートよ?」


「すみません、魔力枯渇をおこしかけているので自分の足で立つことすら難しいです」


「お前の魔力をして魔力枯渇かよ。……で、その杖の先端に咲いている花が……」


「はい。万病に効く薬花、レインボーフラワーです。その花びらを一枚飲ませればどんな傷も呪いも一瞬で癒やしてくれます」


「……つまり、これ以上の治療法はないんだな?」


「これでだめなら諦めてもらうしか」


「ってわけだ爺さん。治療を急ぐぞ」


「……まて、エイナル王よ。その花が毒でないと保証されたわけではない」


「あーそれもそうか。フート、これって健康な人間が食べても問題ないか?」


「問題ありませんよ。よかったら毒味をしますか?」


「いや、お前にさせても意味がねぇ。ってわけで、一枚もらうぜ」


 エイナル王は俺の言葉も待たずに花びらを一枚つまむと口の中に入れて食べてしまう。

 すると、少しの間体が淡い光に包まれそれが落ち着きを取り戻す頃、エイナル王は幾分元気になったように見える。


「……いや、こいつはすげえな。体の怠さが吹き飛んだわ。つーかうめぇ。もう一枚食っていいか?」


「だめです。これは治療用ですので。必要ならこれと同じ味のエディブルフラワーを用意しますから今日は我慢してください」


「わかったよ。……つーわけで爺さん。少なくとも俺には無害だ」


「わかった。アイーダ、エティル。3人に食べさせるんだ」


「はい。お父様」


「かしこまりました」


 アイーダ王太女殿下とエティル殿下が3人の口にレインボーフラワーの花びらを入れる。

 すると、先ほどエイナル王を包んだときとは比べものにならないほどの輝きが3人を包む。


「これは!?」


「やはり、魂の修復になると天龍王か冥龍王の分野か……どこまで回復してくれるか」


「それでは?」


「光の強さは回復力の強さです。いま、レインボーフラワーがその全力で3人を回復させています。……それでも完全回復とはいかないようですが」


「2枚目を食べさせることは?」


「エイナル王程度の軽い症状だった人が2枚目を食べても問題ありませんが、あれだけの治癒を行っています。2枚目を食べると、それによって体力がすべて奪われるかも知れません」


「ままならぬものだな……」


「少なくとも魂の器さえ修復されれば、時間をかけて体力を戻すことが可能です」


「そうか……む、光が消えたな」


「そのようです。様子を見てみましょう」


 俺とマルティン王は3人の様子を見に行く。

 すると3人とも目を覚まし、おきようとしているのだが……体がうまく動かせずにいる状態だった。


「フート殿、これは一体?」


 3人の様子を間近で見ていたアイーダ王太女殿下が心配そうに声をかけてくる。

 確かに心配にもなるだろうな。


「ゼファー?」


『魂の器は完全に修復されております。ただ、これまで漏れ出した魂の力……とでもいいましょうか。それまで回復することはできません。しばらくは思い通りに体が動かせない日々が続くかと』


「……だそうです」


「……そうか。命の心配はないのだな」


「それはありません。もちろん、体に優しい食事などを用意する必要はありますが」


「ふう、それは我々の役目だ。我々にもなにかさせてもらわねばな」


「おそらく、2日もあれば立って歩くぐらいは問題ないかと。そこから先は……本人の頑張り次第です」


「それがわかれば十分だ。ありがとう、赤の明星よ」


「いえ、教会からの人助けは樹龍王から頼まれている依頼でもありますから」


 実際、今回は樹魔法がなければ治療することはできなかった。

 これを見越して魔法を渡されたんじゃなかろうか……。

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