252.会談2日目

「さて、昨日は我が国内の問題でゴタゴタしてしまい申し訳ない。本来の議題に移ろう」


 日が開けて2日目。

 本日は午前が会談、午後が交流会、夜は晩餐会……らしい。

 晩餐会には俺たちは出席しないので関係ないのだが。


「まずは昨日預かった魔術書3冊だが注意深く読み込ませてもらった。これは本当なのであろうか、ランダル殿」


「ええ、もちろんですとも。那由他の魔術師ギルド、宮廷魔術師団、王宮魔術師団それぞれで検証しすべてで同じ結果が出ております」


「ううむ……わずか数年で那由他との間に研究成果の差が生まれるとは」


「軍務大臣、報告せよ」


「はっ。最初に『精霊魔法と元素魔法についての考察』ですが、それぞれの魔法の違いについて書かれている書物でした。具体的な報告は後ほど書面にまとめますが、精霊魔法は使するものではなくして魔法を使用、元素魔法は我が国で信じられていられた説……世界を駆け巡る龍王の力を使うものではなく発動するものとのことです」


「馬鹿な! そのような説を真に受けるのか、アドリアーノ!」


 アドリアーノ……軍務大臣の発言に対し大声で食ってかかるものがいる。

 昨日はいなかったルアルディ王国の人間だが……誰だろう?


「……ルアルディ王国の宮廷魔術師長、イサルコ殿だ。彼は熱心なだからな」


 ランダルさんが小声でそっと補足してくれる。

 あれがルアルディ王国の宮廷魔術師長ねぇ……。


「イサルコ、ここに書いてあることがすべて真実であるかは我々も検証する必要がある。だが、私の実体験で言えばこれは真であるといえる」


「なにを根拠に言うか!」


「単純だ。火山地帯で魔物と交戦する際、水属性魔法の行使のための詠唱時間が長くなり威力も劣るからだ。火山地帯で水精霊が少ないのは我が国でもよく知られていること。龍王の力を行使するのであればどんな条件であろうと同じ威力のはずであろう?」


「ぐっ……それは……」


「やめい。儂は軍務大臣に昨日譲り受けた魔術書の内容を聞いているのだ。その内容の真偽を問いただしたければ会談のあとにでもするがよい」


「……はっ、申し訳ありませぬ」


「うむ。軍務大臣、続きを」


「はい。さらにこの魔術書に書かれていたことですが『イメージを明確化して魔法を発現させる』とありました。私が実際に試してみたところ、魔法の威力が上がったことを確認しています」


「……ほかには」


「魔法詠唱の必要性にも言及されていました。『確固たるイメージと世界に干渉できるだけの実力があれば短縮詠唱でも問題ない』と書かれております。こちらも確認しましたが、確かに短縮詠唱でも魔法が発現いたしました」


「あと2冊も確認したのか?」


「はい。長くなりますので要点だけかいつまんで説明いたします。『精霊魔法と精霊の共感による魔法効果の変化』は精霊魔法を使うときにどれだけ精霊と相性が良いかによって効果が変わるかを記したものにございます。『回復魔法と精霊についての考察』は回復魔法の原理と精霊の関係性を考察、より上位の回復魔法を効率的に覚えるための練習法が書かれていました」


「ふぅ……儂が病に伏していた間、那由他の魔法研究ははるか彼方に前進したのだな」


「恐れながら、私もそう考えます」


「なにをおっしゃいますか、国王陛下! 我々の国は最強の元素魔法使いが集まる国家! 精霊魔法の使い手が集まったところで……」


「忘れたのか、宮廷魔術師長。軍務大臣も使だぞ? 那由他の研究は精霊魔法が主軸のようだが元素魔法にも応用できると言うことだ」


「……」


「さて、エイナル王よ。よい贈り物をいただき感謝する」


「気にするほどのものではない。あれらは那由他であれば魔術関連の書籍を取り扱っている店の大半で売っているものだ」


「……つまり市井にも広がっていると」


「著者の意向でな。秘匿する気がなく高い金を取るつもりもない。おかげで我が国の魔法技術は跳ね上がってしまったよ」


「笑えん話だ。それであの魔術書はどのように扱えばよい?」


「ルアルディ王国の好きにしてくれて構わない。破棄するもよし、市井に広めるもよしだ」


「わかった。慎重に検討させてもらう」


「よし、議題のひとつ目は終わりだな」


「うむ。次の議題だが……すまぬ、また国内問題の話になるがオルゾーラの処分についてだ」


「オルゾーラ王女か……那由他としては口を挟むつもりはないが?」


「オルゾーラは教会と結託し儂を謀殺せんとした。また、一緒にいたアルフレートという男から教会がエイナル王とフローリカ王女を暗殺しようとしたことを聞き出した。那由他にも関係する話となってしまったのだ」


「……ふむ。アルフレートとかいう男は?」


「すでに処刑が決定している。問題はオルゾーラだ。あやつの罪も同罪。儂としてはしてもらう意向だが異論はあるか?」


 病死……つまり秘密裏に処刑するわけか。

 王族っていうのはいろいろ大変だ。


「異論はない。生きながらえさせるとなれば話は別だ。そうではないのであれば口を挟む意思はない」


「配慮感謝する。……次が本題だな」


「ああ、そうなる。我が国の魔法技術『後天性魔法覚醒施設』を有償で技術供与する」


「先に条件を聞いておこう」


「外務卿、説明を」


「ははっ。まず今回提供する技術は『第六号後天性魔法覚醒施設』である。これは持ち運びが可能であり、展開および収納を一時間ほどで行える。開発方法については供与しない。また第六号後天性魔法覚醒施設はその仕組みを調べようとすると中核部分が自壊する仕組みとなっており、破損したものについての補填は行わない。また、ルアルディ王国にはこの技術を他国へ供与しないことを確約してもらう」


「なんだと、技術供与と言いながら中核技術は秘匿するか!」


「当然だ。那由他の敵国は法神国である。そことのつながりが切れていない以上、中核技術の供与はできない。また、法神国の間者がどこに潜んでいるかわからないため、これが我が国の譲れる限界点である」


「おのれ、足元を見おって……!!」


「やめんか、宮廷魔術師長。どちらにせよこの技術は我々にとっても必要となる」


「国王陛下、なにをおっしゃいますか?」


「儂は教会勢力……法神国と手を切る考えだ。国王の暗殺を企てた以上、断交する以外ほかない」


「それは……ですが、回復術士はどうなさるおつもりですか? 回復術士はすべて法神国の手のものです」


「その解決策がこの後天性魔法覚醒施設だ。儂も昨日の夜に効果を確認させてもらった。その結果、を習得できたものがふたりいる。この技術があれば国軍全体に回復術士を行き渡らせることも不可能ではない」


「お言葉ですが、陛下。たったふたりでなにができます。我が軍は……」


「3人試してふたりだ。軍も同じ効率というわけにはいかないだろう。だが那由他では軍関係者の8割が回復魔法を覚えていると聞いた。強弱の差こそあれ同じことが我が軍でもできるのであればこれ以上好ましいものはない」


「……その施設、信用できるのですかな、エイナル王?」


「心配ならば午後に試してみるとよかろう。ひとつ設置させる。10名までなら試してもらって構わない」


「わかりました。宮廷魔術師団から10名選抜させていただきましょう」


「頼んだぞ宮廷魔術師長。それで、外務卿殿。第六号後天性魔法覚醒施設だがいかほどの値段で譲ってもらえるのだろうか?」


「ひとつミスリル貨4枚、最大50個ミスリル貨200枚になります」


「そんな額!?」


「ふむ。想定よりも安いな」


「国王陛下!?」


「儂はひとつミスリル貨10枚程度が妥当だと思っていたのだが……エイナル王、今後のことを考えての値引きか?」


「そんなことはない。適正な価格である」


 原価ベースだとひとつ金貨20枚程度だって聞いてるけどね。

 研究費用を上乗せするとそうなるのかな。


「実際に購入するかどうかは午後の交流会の結果を見てから決めてもらって構わないぞ、マルティン王よ」


「ではそうさせてもらおう。……そういえば、午後の魔法的当ての試技。那由他の代表が15歳の少女と9歳の少女になっていると聞いたが?」


「あっている。15歳の娘は三色だが回復魔法も含め使える魔法はすべてレベル4、9歳の娘については五色シャーマン全属性レベル3、回復魔法レベル4だ」


 エイナル王の言葉に会議室がざわめきだす。

 リコはリオンが鍛えすぎた結果だがミリアもかなりすごかったんだな。

 魔法レベルまでは聞いたことがなかった。


「……五色シャーマンの娘をどうやって見つけてきたのだ?」


「うん? 見つけたわけではないぞ? 後天性魔法覚醒施設で回復魔法も含めた6属性すべてに目覚めた結果だ」


 この答えにルアルディ王国側のざわめきは一気に広がりを増す。

 元素魔法第一主義だかなんだか知らないが五色使いが後天性魔法覚醒施設で生み出されるというのは画期的なんだろう。


「それは元素魔法でも同じ結果が導き出せるのか?」


「フート、説明を」


「はい。後天性魔法覚醒施設で優先的に取得されるのは精霊魔法です。ただし、取得者がすでに何らかの元素魔法を覚えている場合は精霊魔法が取得できませんので元素魔法を代わりに取得します」


「……精霊魔法が優先か」


「精霊の遊び場ですからね。ともに遊べる精霊魔法と力を貸すだけの元素魔法。どちらを精霊が優先するかはおわかりいただけるかと」


「フートと言ったか。元素魔法では取得することが難しくなるということはないのか?」


「そのような事例は特に聞いていません。そちらについてはランダル宮廷魔術師長の方が詳しいかと」


 俺がランダルさんに話を振るとしっかり続きを話してくれる。


「我が国の軍部において精霊魔法および元素魔法の取得率に目に見える差はありませんでした。ただし、覚えやすいものと覚えにくいものの差ははっきりしていましたが」


「その差は何だ?」


「まずは気性の荒いもの。これは精霊が怖がって近づかないと推察されています。次に精神状態が不安定なもの。こちらも精霊が力を貸そうとしてもなかなか渡せないのではないかと考えております」


「そこまでわかっているなら十分である。午後の交流会、期待しておるぞ」


「では次の議題に参りましょう。次は……」


 そのあとも会談は無事進行し午前の日程を終える。

 本来であれば昼食会の予定だったらしいが昨日の両国王暗殺騒ぎを受け中止になったようだ。

 なので俺たち那由他一行は迎賓館まで戻り昼食を食べる。


 さて、午後は交流会……と言う名の合同軍事演習だ。

 リコとミリアも魔法的当てだけは参加させることになっている。

 今回ぐらいは何事もなく無事終わればいいのだけど。

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