242.フートの魔法理論講義(対騎士版)

『……以上のような結果をもたらすために元素魔法であろうと精霊魔法であろうとイメージを明確にするというのは大事である』


 フローリカ王女の魔法指導が終わって2日後、俺がなにをやっているかというと……近衛騎士や一般騎士の中で魔法を扱えるもの向けの講習会である。

 これについては有志のみの参加でよい、ということになっていたのだが近衛騎士はほとんど参加しているようだ。

 近場にいた近衛騎士の人に話を聞いたが『訓練や非番になっているもののほとんどは参加している』といわれた。

 さらに『公務にあたっており参加できない仲間からは必ずノートを貸すようにお願いされている』とも。


 逆に一般騎士の出席率は少なめ。

 これについては仕方がないなと思う。

 近衛騎士の出席率の高さは前にフローリカ王女が披露した魔法の実践結果を見ているためなんだから。


『イメージは確固たるものが必要です。特に精霊魔法。こちらの場合、精霊に望む結果を伝えなければいけないのであやふやなイメージでは意味がありません』


 元々は小会議室で行う予定だったこの講習会も人が集まりすぎたということでアルマが大急ぎで大会議室を押さえてくれた。

 許可をだしてくれたのは軍務卿らしく『近衛騎士のやる気が出るなら安いもの』だということ。

 実際、近衛騎士から伝わってくる熱量はすごいものがある。

 一般騎士もそれにあてられて必死にノートを取っているな。


『元素魔法は精霊から力を受け取り自力で魔法として撃ち出すものです。ですが、ここでもイメージがしっかりしていれば本来の魔法とは形が異なる魔法を撃つことが可能です』


 形が異なる、という部分がピンとこなかったのか質問が出る。


「形が異なるとはどの程度まで変わるものなのか。例えばフレイムランスが巨大化してフレアジャベリン程度まで昇華するなどか?」


『いい質問です。結論から言うとそれも可能です。あとから説明する予定ですのでいったんその回答は保留といたしますが、どの程度変化するかについては実践してみましょう』


 実践する、といったところで全員の目つきがさらに鋭くなる。

 一切見逃さない、そういう目つきだ。

 うむ、よきかなよきかな。


『まず、俺が普通に使った場合のサンダーハンドがこう』


 俺はいつも通りサンダーハンドの魔法を使い、第3の腕として使えるようにする。

 腕の太さは普通の成人男性のそれと変わらない。


『サンダーハンドが射出しなければ第3の腕や自信の腕に纏って使えることは説明を省きます。そして『自分の左腕に』『巨大な腕を装着する』イメージで使った場合はこうなります』


 俺はなにもないことを確認してから左腕を伸ばし、サンダーハンドの魔法を使う。

 すると、先ほどとは比べものにならないような巨大な腕が左腕を起点に出現した。

 さすがに危険なので魔法はすぐに霧散させて、説明に戻る。


『いまのがイメージありとなしの差です。ちなみに込めた魔力量は後者の方が多かったですが、それは腕が大きかった分の消耗と思ってください』


「あ、いえ、ありがとうございます」


『こちらこそいい質問をありがとうございます。さていまの質問で出たフレイムランスがフレアジャベリンになるかという話ですが、結論から申しますとそれは不可能です。ただし、レベル4と同程度の魔力集中を行いかつイメージがしっかりしているならレベル4に準じるレベル3魔法を放つことができます』


「レベル4に準じるとは?」


『まずは長所を説明いたします。長所は消費魔力が今回の例ではレベル3魔法と大差ないことです。短所は魔力集中に時間がかかること、本来のレベル4魔法の威力にはどうあがいても届かないことです』


「なるほど……つまり、使い分けができれば目くらましや追撃手段に有効と」


『そうなります。ですが、先に述べたとおりイメージが固まっていないとどっちつかずな魔法が飛び出して終わりです。使い分けをできるようになるには、双方の魔法をしっかりイメージできるようになる必要があります』


「ふむ、長所短所使いどころがはっきりしているか。戦術的に組み込めるな。ありがとう助かった」


『いえ。ほかに質問は?』


 いまの人は分隊長とかそういうレベルの人かな?

 そのあとも『精霊魔術と元素魔術の違いを埋めるにはどうするのが効果的か?』『精霊魔術のレベルを上げるにはやはり実戦が一番か?』『回復魔法士と攻撃魔法士、わけておくべきか?』などさまざまな質問が飛びだした。

 可能な限り答えたが……俺は軍人じゃないから戦略とか戦術的な話はわからんぞ?

 そして次の質問者に移ったが、今度は獣人の近衛兵だな。


「俺は見たとおり獣人だ。後天性魔法覚醒施設で攻撃魔法も授かった。だがはっきり言って使い物になる威力ではない。それでも鍛える意味はあるのだろうか?」


 おおう、ハードだね。

 これは俺が実際目の当たりにした実例から挙げさせてもらおう。


『結論から言わせてもらいます。殺傷能力は低くても構いませんがある程度までは鍛えた方がよろしいと考えます』


「その理由は?」


『俺の先輩にリザードマンの方がいました。その人も魔法を使えるようになっていましたが、攻撃能力は極端に低かったです。ですが、魔法を使い相手の逃げ道を限定したり牽制したりすることで攻撃に幅が広がっていました』


「逃げ道を塞ぐか……その発想はなかった。参考になったよ。ありがとう」


『いえ、今日の役割は講師ですのでお構いなく。ほかに質問のある方はいらっしゃいますか?』


 いまの質問で大方の質問が出尽くしたらしく、いったんここで休憩を挟むこととなった。

 休憩後は『精霊魔法と精霊の共感による魔法効果の変化』の内容へと話を発展させる予定である。

 ついてこられるかどうかだけが不安だが……テキストも用意したしなんとか頑張ってもらおう。


 休憩が明け、さあ講習の再開だと思っていたところにサプライズゲストがやってきた。

 国王陛下である。

 全員が狭い中臣下の礼をとろうとするが、先だって礼を止めさせた。


「うむ、皆のもの。今日は大義である。特に近衛騎士、お前たちは非番のものたちも参加していると聞く。その向上心、我も高く評価するぞ」


 まさかの国王陛下乱入でパニック状態の受講生たち。

 俺がなにか言って止めるべきなんだろうが……このまま言いたいことを言わせて帰ってもらった方が得策な気もする。


「急遽の開催となった本日の講習だが、この盛況ぶりを考えればこのまま何回か行うこともできるな。『白夜の一角狼』フートよ、其方の予定は空いておるか?」


「はい。幸い、午前中は魔導具作成の時間に割り当てているだけですのでテキストと受講生がいるのであれば開催可能です」


 言外に『めんどくさいけど!』と言い足したが、この王様は『もう少し我慢しろい!』と視線だけで訴えかけてくる。

 一緒に来ていた軍務卿もため息をこぼすあたりいまの発言は予定になかったことなんだろうな。


「よろしい。近衛騎士たちはほとんどが受講しているようだ。受講していないものは今日が当番のもののようである。それにあわせて講義の日程を組ませよう」


「かしこまりました。ただ、あまり多く詰め込まれますと王女殿下の授業に差し障りますが?」


 さすがにこの発言には国王陛下も困り顔だな。

 愛娘の授業が遅れるかも、と言われれば天秤がどちらに傾くかはいうまでもない。


「……む。わかった、次の講義は早くても4日後。最初の目的国までの間に行う回数はあと2回を限度としよう」


「承知いたしました。その予定で準備いたしましょう」


「頼んだぞ。それでは皆のもの、今後の講習も頑張るがよい」


 国王陛下が出て行ったあとの講習は熱が入っていたなんてものじゃなかったね。

 精霊魔法についての具体的な質問も多かったし、元素魔法の場合どうすれば同様の効果が得られるかという質問もあった。

 精霊魔法は専門だけど、元素魔法は門外漢だからな!

 それを踏まえてもらった上でアドバイスはさせてもらったけど、果たしてうまくいくかどうか。

 あーあ、『精霊魔法と精霊の共感による魔法効果の変化』の元素魔法版、誰か書いてくれないかな……。

 そうすれば俺ももっと理解できるのに。


 ともあれ、講習会は午前中だけで無事終了。

 午後はいつも通りフローリカ王女の授業になった。

 だが『騎士の皆さんだけ半日魔法理論はずるいです!』というなんともかわいらしいわがままでその日は一日魔法理論の講義となる。

 魔法理論が苦手なアキームとバルトは必死に食らいつこうとしていたが……頑張れ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る