241.フローリカ王女の魔法実習

 近衛騎士の訓練場だがさすがに先触れが走っていたらしく騎士全員が臣下の礼をとって待っていた。

 国王陛下は礼をとらせるのを止めさせて今日の訪問理由を告げる。

 するとかすかだが周囲から困惑の様子がうかがえた。


「申し訳ありません。私の魔法力が低いのは有名なのです」


「そうなのだ。フートよ。なんとかならぬか?」


「一時的なものではごまかしにしかならないでしょう。コツはお教えいたします。そこから先は王女殿下に頑張ってもらうよりほかありません」


「うむ、それならば問題ない。やれるな、フローリカ」


「はい。大丈夫です」


 俺たちは魔法訓練場にある的の前まで移動する。

 まずはフローリカ王女が普段どのように魔法を使っているか見せてもらったのだが……うん、魔力集中もいまいちだし精霊もあまり集まってないな。

 弱々しいアクアショットはなんとか的までたどりつき、的に当たってはじけ飛んだ。

 最初はこんなものだろうな、と俺が思っていると周囲からはどよめきの声が聞こえる。

 ついでに国王陛下は小声で俺になにかしたかを尋ね始めるし。


「……じゃあ、魔法理論の基礎中の基礎を教えただけだってのか?」


「まだその段階ですよ? それで、このどよめきは?」


「フローリカの魔法が的まで届いたことへの驚愕だよ。いままでのフローリカだとこの距離じゃ3分の1飛べばいい方だったからな」


「……じゃあもっと驚いてもらわないとですね」


「頼んだぜ」


 自分の魔法が届いたことに半ば呆然としていたフローリカ王女に優しく話しかける。

 この程度で満足されちゃ困るんだよな。


「よくできました、王女殿下。国王陛下から聞きましたが、この距離を飛ばすことも難しかったようですね」


「はい。自分でもこの距離を意識せずに飛ばせたことに驚いています」


「わかりました。ですが、この程度は序の口ですよ?」


「え?」


「まずは魔力集中と精霊の集め方から学びましょう。よく見ていてください」


 俺はわざとゆっくり魔力集中および精霊との交感を始める。

 フローリカ王女でも俺の伸ばした腕の先が青く光り始め、その周囲を青い光の粒が舞い始めるのがわかっただろう。

 さすがに俺が魔法を発動すると的を破壊してしまうので、発動せずに魔力を拡散させる。


「いまの様子でおわかりいただけたでしょうか?」


「はい。青く腕が光ったのが魔力集中。その腕に集まってきた青い光の粒が精霊ですね?」


「正解です。さすがに精霊を呼べるかは未知数ですので、今日は魔力集中から試してみましょう」


「わかりました。……こんな感じ……ああ、でもちょっと違う……こう?」


 フローリカ王女は試行錯誤しながら、でも確実に魔力集中ができるようになっていく。

 腕が淡くではあるが青く光り始め、ぽつりぽつり青い粒も舞い始めた。

 俺が集めた精霊がまだ残っていたのかな?


「初めてにしてはうまくいっていますよ、王女殿下。あとはそれを手のひらに押し出して魔法を発動させるんです」


「なるほど……つまり、こう。アクアショット!」


 青い光と粒が交わるように水の弾丸となり飛んでいき、的を大きく揺らす。

 周囲からはさらに大きなどよめきが聞こえてきた。


「お見事です。初めてでここまでできるのはなかなか難しいと思います」


「……はい。想像していた以上に難しいですね」


「最後はこれに自分のイメージを載せるやり方ですが……今日はもうおやめになりますか?」


「いえ、最後までやりとうございます」


 国王陛下の方を向くが、うなずいてくるのでかまわないということだろう。

 早速、イメージを載せるやり方を伝授することに。


「イメージを載せるやり方ですが、方法自体は至ってシンプルです。自分が魔法を使うときにどういう『結果』を求めているかを『明確に』イメージして魔法を使うだけですから」


「言葉だけ聞くとすごく簡単そうですね……」


「はい。実践するのは難しいです。実例をお目にかけましょう。自分がアクアショットに『回転をかけ的を貫く』イメージを載せて使うとこうなります」


 先ほど同様ゆっくりと魔力集中を行いわかりやすく見せる。

 そして、今度は魔法の発動まで見せてみた。

 宣言どおり、アクアショットは回転して楕円形になり的へと向かって飛んでいく。

 さすがに的を破壊するのはもったいないので途中で消させてもらったが。


「すごい……イメージすることを極めるとこんなこともできるのですね」


「そうなります。魔法の規模や発動する形なども変えられますよ」


「いまのイメージ、真似させていただいてもよろしいですか?」


「どうぞ。あまり無理はなさいませぬよう」


 再びフローリカ王女が魔力集中を始める。

 ただ、今回は片手ではなく両手で魔力集中を行っているな。

 片手だけでは難しいという判断か。

 判断力も優れているようで結構。

 じっくり1分ほどかけて集められた魔力と精霊たちに対し、フローリカ王女はつぶやくようにイメージを伝える。

 この癖がついてしまうといけないのだが、最初のうちは仕方がないだろう。


 やがてイメージも固まったようすでアクアショットがフローリカ王女から撃ち出される。

 それは不格好ながらも確かに回転がかかっており、まっすぐ的に向かって飛んでいった。

 そして的に当たると数秒回転したまま的に当たり続け、的にヒビを入れることに成功する。

 それにより本日最大のどよめきが訓練場内に響き渡った。


「うむ、見事である。フローリカの魔法については我もよく知っていた。たった一日でこれだけの成果を出すとは、さすが赤の明星と言うべきか?」


「そのお言葉は王女殿下に。自分が教えたのはまだ基礎中の基礎ですから」


「それだけでこの成果だ。やはり魔法使いには座学も重要と証明されたな」


 ああ、国王陛下の狙いはこれか。

 近衛騎士団でも座学は軽視されてるんだろうな。


「さて、フローリカよ。今日一日の成果、とくと見せてもらったぞ。よく頑張ったな」


「ありがとうございます、国王陛下。ですがまだまだ非才の身。これからも精進いたします」


「うむ。旅の間の授業、任せたぞ。赤の明星フートよ」


「はい、承りました。自分としても向学心のある生徒は大歓迎です」


「そうかそうか! この旅の間にフローリカがどれだけのか楽しみだ!」


 このようにしてフローリカ王女の実践訓練は終了。

 あとからアルマに聞いたのだが、フローリカ王女は自力で自室まで戻ったのだがそこでダウン。

 侍女たちにベッドまで運ばれたそうだ。

 ただ、その顔には満足感がにじみ出ていたとも。


 翌日の朝、国王陛下に呼び出されフローリカ王女の件について話をしたが、あれはフローリカ王女の自制ができなかったことが問題ということで俺の授業については昨日と同じようにやってほしいと告げられた。

 ただ、訓練場の使用許可をだすのは数日に一度だけにするからやんわりと釘を刺してほしいとも。

 フローリカ王女も向上心が高いからどうなることやら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る