227.リオンの帰還
「それでは『白夜の一角狼』は6月まで開店休業状態ですね」
「すまないな、ゲーテ」
昨日決まった方針を伝えにハンターギルドにきている。
ギルドマスターたちは不在ということでゲーテに伝言を頼んでおく。
「いえ、もとより忙しいだろうことは見当がついていましたから。強力なモンスターの発生報告もありませんし、パーティとして活動してもらう必要もあまりないでしょう」
「本当にごめんね。活動再開したばかりなのに」
「気にしないでください。そもそもあなたたちに頼まなくちゃいけないようなモンスターが人間の生活圏に発生したら国難クラスですからね」
「それもそうですね。ところでゲーテさん、リオンさんですがまだ帰ってきてないんですか?」
「え? 帰還の報告に行ってないんですか?」
俺たち4人は全員困惑の表情を浮かべる。
どうにも認識があっていない。
「ゲーテ、あのネコ帰ってきているのね?」
「はい。ただ、フートさんたちがまだ復帰していないことを伝えると……」
「ただいまにゃー」
ゲーテから話を聞いていると後ろから元気な声が聞こえてくる。
この声は間違いなくリオンだな。
「あ、リオンさん。いままでどこに行っていたんですか?」
「にゃ、お三方もギルドに用事だったのかにゃ?」
「ネコ、こっちの質問に答えなさいよ」
「にゃはは。答えるのはいいのにゃが先に帰還と買い取りの申請が先だにゃ」
「帰還と買い取り?」
「あ、フート先輩」
「リコ。アキームたちも一緒か」
「はい。ミキ先輩とアヤネ先輩はお久しぶりです」
「ネコ、どうしてこの3人と一緒なわけ?」
「にゃはは。わけはあとにゃ。ゲーテ、『新緑の白牙』の帰還と素材買い取りを頼むにゃ」
「わかりました。リコさんたちはこちらに。リオンさんはその間に事情を説明しておいてくださいね」
「わかったにゃー」
「それでは先輩、またあとで」
ゲーテがリコたちの手続きを始めたので俺たちは受付カウンターから食事スペースへ移動して話を聞くことに。
本当にいつの間に帰っていたのやら。
「それでネコはいつ帰ってきてたのよ?」
「にゃはは。2週間ほど前だにゃ。そのときはまだ『白夜の一角狼』は休止状態だったのにゃ。なので、訓練場にいたリコたちを捕まえて遠征に行ってきたのにゃ」
「行ってきたのにゃ、じゃありません。帰ってきていたのなら一言くらいあってもいいじゃないですか」
「いやー、吾輩でも新婚さんの家にお邪魔するのは気が引けますにゃ。フート殿とミキ殿は相変わらずでしょうがアヤネ殿は他人には見せられないようなデレデレ状態でしょうからにゃ」
「……どうしてそれを知っているのよネコ」
「やっぱりですかにゃ。犬獣人族の女性特有の症状ですからそうなんじゃないかと思ってましたにゃ。お三方はずっと張り詰めた生活を送っていたのでたまには気を抜いた生活を送ってほしかったのにゃ」
「……ネコのくせに気遣いができるなんて生意気」
「にゃはは。やっぱり性格も丸くなっていますにゃ。あまりリコたちの前では油断しないようにですにゃ」
「わかっているわよ。それで3人は強くなったんでしょうね?」
「レベル40後半までは鍛えてきましたにゃ。アキームの剣術はレベル4、バルトの盾術もレベル4、リコの魔法もすべてレベル4になっていますにゃ」
「……かなりハードなスケジュールだったんじゃないか?」
「なので3人がきたらほめてあげてくださいにゃ。吾輩、少々鍛えすぎましたにゃ」
「だろうな。で、ランクは上げられるのか?」
「それが無理なんですにゃ。Eランクへの昇級条件に『師匠に弟子入りして6カ月以上が経ち昇級試験に合格すること』というのがありますにゃ」
「それがどうしたのでしょうか?」
「その条件が昇格できない理由ですにゃ。あの子たちは吾輩たちに弟子入りしたのも最近ですし、そもそもつきっきりで教えられているわけではありませんにゃ」
「なるほど。俺たちみたいに飛び級をしないと時間がかかるのか」
「ですにゃ。ギルドとしても成長著しいあの子たちを昇級させたいのですが、規定でできずに困っていますのにゃ」
「規定があるんじゃどうしようもないわね」
「そういうことにゃ。なのでギルドはあの子たちをフェンリル学校へ入学させ、その間ハンター資格の失効を免除する予定のようですにゃ」
「……思いっきり裏技だな」
「それだけ師匠不足が深刻だということですにゃ。ほかにも有望な子たちはフェンリル学校へ送り込む予定のようですにゃ」
「ハンターギルドは推薦制か。冒険者ギルドは希望者の中から抽選としているようだが」
「冒険者は人数が多いですからにゃあ」
ああ、確かに。
推薦制なんてやってられないよな。
「お待たせしました。そして改めて、お久しぶりです、ミキ先輩、アヤネ先輩」
「「お久しぶりです」」
「久しぶりね3人とも」
「いまリオンさんから話は聞きましたよ。かなり頑張ったようですね」
「……正直、非常にきつかったです」
「リコだけじゃなくて俺たちまで回復魔法のレベルが上がったからなぁ」
「僕もよく生き残れたと思う」
「……ネコ、やり過ぎ」
「いやぁ、ついお三方を鍛えるのと同じ調子でやってしまいましたにゃ」
うむ、それは間違いなくやり過ぎである。
俺たちは赤の明星の上にソウルパーチャスまであるんだからな。
「……ともかくご苦労さん。食べたいものがあったらおごるよ」
「それじゃあミキ先輩のご飯が食べたいのですが……ここじゃ無理ですよね」
「だな。じゃあうちに行くか。3人も帰ったばかりならお風呂とか入りたいだろう?」
「いいんですか? クリーンは毎日かけてましたけど結構汚れていると思います」
「気にしなくてもいいわよ。多少の汚れならフートのクリーンで元に戻るから」
「その前に家精霊さんたちが喜んでお掃除しちゃいますけどね」
「それもそうね。換金はすんだ?」
「換金は明日になるそうです。フート先輩に貸していただいているマジックバッグのおかげでたくさん持ち帰ることができましたから」
そう、リコたちはマジックバッグを持っている。
俺が休止期間中、時間つぶしとして覚えたスキルで前にもらった破損状態のマジックバッグを修理したものをリコたちにプレゼントしたのだ。
さすがにいまの俺では時間停止までは付与出来なかったが経過時間14分の1まではなんとかいけた。
ギルド奥の解体場でこっそり渡そうとしたそれをリコたちはかたくなに受け取り拒否。
結局、貸し出しということで渡すことには成功したわけだが。
あと余談ではあるのだが、このやりとりを見ていたおっちゃんが同じように破損したマジックバッグを持ってきて修理できないか依頼してきたので可能なものを選び修理してギルド備品にしてもらっている。
「なら問題ないか。俺たちの家に行こう」
車を出すほどの距離でもないので徒歩で家まで戻りリコたちをお風呂に入れる。
その間に料理を出してしまえば慰労会の準備は完了だ。
「うーん、やっぱりミキ先輩のご飯が一番おいしいです!」
「本当だね。僕たちもマジックバッグに食料を入れて行ったけどここまでおいしいものは作れないもの」
「それにようやくゆっくり眠れる環境っていうのもありがたいぜ。修行期間はずっとテント生活だったからな」
「だめにゃよ、この程度で音を上げていては。上位のハンターになれば半年以上テント生活も当たり前にゃ」
「……うす、気をつけます」
「まあまあ、リオンさん。今日はいいじゃないですか」
「そうよ、ネコ。少しは休ませてあげなさい」
「……まあ、低ランクの間は大目に見るにゃ。本格的に指導できるようになったらもっとビシバシいくにゃよ」
「望むところです!」
「はは。リコたちは今後フェンリル学校に入学すると聞いているがそこでなにを学ぶんだ?」
「俺は剣以外の武器の扱い方と鍛冶を少し学ぶ予定です。剣だけでやっていけるとは限らないので」
「僕はもっと盾術を極めていきたいと思います。それから野外でできる料理も学びたいです」
「私は……やっぱり魔法ですね。今回の遠征で使える魔法はすべてレベル4になりましたがそれだけじゃだめな気がします。もっと的確に使えるようにならなくちゃです」
「よろしい。目標が定まっているなら問題ないな。俺からいうことはあまりない。フェンリル学校でも頑張ってくれ」
「「「はい!」」」
慰労会は夜まで続き、リオンは3人を宿まで送り届けたら適当なところに泊まってくるらしい。
いわく『夫婦水入らずの最後の夜にゃ』とのこと。
余計な気遣いをしてくれる……。
予想通りポンコツ化したアヤネを抱きしめてリビングで落ち着かせ、休むことにした。
次のイベントは……ハンターと冒険者の入学かな。
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