219.学校対抗戦選考会
従魔との交流会が終わった翌日以降、テイマーギルドから獣魔士が派遣されてきてテイマーとしてのいろはを教えてくれている。
最初はよくわからなかった生徒たちも段々コツを飲み込んでいき、数日で従魔の扱い方をマスターしたらしい。
そのあとは従魔ごとの種類に分かれて得意なことの講習や連携練習始めたようだが、こちらの飲み込みもよかったと聞いている。
……そんなことを聞いているのは、俺たちがいま学校対抗戦の会議に出席しているからだ。
「いやはや、ライドホースのような大型の従魔以外は夜も生徒たちと一緒にすごしていますが静かなものですな」
「危険が迫らない限り大人しいものだよ。従魔のほとんどは人間並みに賢いらしいからね」
「なるほど。……さて、それでは前振りはここまでにして本題に移りましょうか」
つい先ほどまで穏やかだった会議室のムードが、がらりと変わる。
出席している教師陣はめんどくさい、という空気を隠そうともしない。
「学校対抗戦か……王命じゃなきゃ断ってるところだぜ」
「まったくです。今更あの学校と戦っても意義があるのかどうか」
「まあまあ、意義があるかどうかは子供たち次第だ。それで、各競技の代表者を決めるんだったな」
「はい。……と、言いましても武術戦と魔法戦についてはチームを組んでの代表決定トーナメントをいま実施中です。明日の午後には結果が出るかと」
……ああ、学校に来たときに見えた激しい戦闘訓練は代表を決める戦いだったのか。
もう少し手を抜いてくれてもいいんだぞ?
「そうか。ほかの競技は?」
「魔法的当てについてはミリアに出場してもらうこととなりました」
「ミリアさん、ですか?」
「はい。フート理事長はご覧になったのではないでしょうか、レッサーフェンリルを2匹従えた少女を」
「ああ、そういえばそんな生徒もいたな」
「彼女がミリアです。今年で9歳ですが魔法の才能だけで言えば学校随一の能力を持っています。実戦形式の魔法戦には危険なので出せませんが、的当てでしたら問題ありません」
「あの生徒、年少組だったのか……」
「ミリアは背が高めですからね。よく勘違いされます」
あの少女のことは印象に残っているが……まさか年少組だったとはな。
ちなみに、この学校では10歳までを年少組と呼ぶことにしている。
「ほかに決まっている競技ってないの?」
「そのほかですと、馬術競技は確定していますな。馬上剣術はスコット、馬上弓術はリンが出場します」
「その理由は?」
「どちらもライドホースと契約し、現在騎乗訓練中です。訓練の方もかなりスムーズに進んでおり、あと3日もあれば仕上がるでしょう」
ああ、国王陛下の懸念が的中しそうだ。
本当に仕上がったら負ける要素がなくなってしまうなぁ……。
「本当にうちの生徒は優秀だ。あと……魔法演舞は?」
魔法演舞とは、魔法を使ってどれだけ美しいパフォーマンスができるかの競技。
この競技には美的センスも問われるらしいから、うちの生徒は不利なんだけど……どうなることか。
「そちらはレイとシルバのふたりが担当いたします。どちらも年少組ですが魔力の扱いに長け、魔力量も豊富です。レイは五色シャーマン、シルバは四色シャーマンです」
「年少組、四色とか五色が多くない?」
「体力訓練が少ない代わりに魔法訓練が多いのと精霊が懐きやすいのが理由だ、と魔法学長は話してましたな」
「体力が必要な競技は年長組が引き受け、体力を必要としない競技を年少組が魔法でカバーする、か」
「そういう形になってしまいましたな」
「年少組は大丈夫なんでしょうか? プレッシャーとか」
「むしろ喜んでましたよ。学校の役に立てるとはりきって練習にいそしんでます」
「……それはそれで頭が痛いわね」
「子供の成長を喜べばいいのか、もう少しゆっくり育ってくれと願えばいいのか……」
学校長がため息をつくが、俺たちも内心同じ気持ちである。
もっとゆっくり大人になってほしいのだけど……本当にたくましいな。
「あとは理事長の許可がいただければ出場者の登録は完了いたします」
「わかった。いま行われているトーナメントも含めて了承しよう。……ちなみに、トーナメントには年少組は出てないよな?」
「出たがっている生徒もいましたが……それは学校長判断で禁止といたしました」
「よろしい。さすがに年少組には危険すぎるからな」
「はい。これで会議は終了ですが、理事長たちはいかがなさいますか?」
「そうだな……邪魔じゃなければ練習風景を見てみたいな」
「では校内から見て回りましょうか。まずは、馬術訓練をしているふたりからですね」
学校長に案内されて校庭が見える廊下までやってくる。
校庭ではライドホースにまたがり剣術訓練をしている生徒と、同じくライドホースに乗りながら弓矢で的を射貫く生徒の姿があった。
あった、のだが……。
「なあ、学園長。あれってもう仕上がってないか?」
少なくとも俺の目線で言えば、あのふたりは十分に一人前の動きができていた。
剣術を行っている生徒……確かスコットは訓練をつけている教官と互角に渡り合っているし、弓術を行っている生徒、リンも10個の的のうち8個から9個の的に矢を当てている。
これ以上を望むのはかなり無理がある気がするのだけど……。
「本人たちがあと3日ほしいと申告してきたのです。幸い、学校対抗戦はそれよりも先なので許可しましたが……どこまで行くつもりなのか」
「あれ、どこまでも行くつもりなんじゃないのかしら?」
「私もそう思います。ほどほどに休憩を取るように指導してあげてください」
「かしこまりました。では次ですね。ミリアのところに参りましょうか」
第一魔法訓練場にいるというミリアの練習を見学に行くが……なんだろうね、これは?
的が多段層になっていて的の影に的があったりと、ものすごく複雑な構成になっている。
だがミリアはそんなことは関係ないとばかりに、五属性のバレット魔法を同時に構築し的へと放つ。
そしてそれらは的をひとつ残らず捉えていった。
「学園長。魔法的当てってこんなハードだったっけ?」
「いえ、これはミリアが自主練習としてやっているだけでして……」
「本番が楽しみね」
「そうですね……体調だけが心配です」
俺たちがそんなことを話している間にも、再度的当てを行うミリア。
集中力も半端なものじゃないな。
「それでは最後、魔法演舞を行うふたりのところへ向かいましょう。第四魔法訓練場にいるはずです」
「わかった。行くとしよう」
魔法演舞の練習を確認するために第四魔法訓練場に移動したが……そこには指導教官と思われる人物しかいない。
指導教官に話を聞いてみると、代表のふたりは学校対抗戦の魔法戦選考会を見学に行ったらしい。
なんでも、新しい魔法の使い方を何か見つけられないか確認するためだとか……。
「本当に向上心が高いわね、うちの生徒」
「ですなぁ。トーナメントもご覧になりますか?」
「いや、そっちは帰り道で少し見学するだけにするよ。案内ありがとう、学園長」
「いえ、学校対抗戦はもうすぐです。何事も起こらなければよいのですが」
「そのための防犯設備だろう。……やり過ぎな気がするけど」
「でしたな。……それではお見送りさせていただきます」
先ほどの言葉通り、少しトーナメントの状況を見学してから帰路についた。
学校長が近場にいた生徒から話を聞く限り、明日いっぱいまでトーナメントは終わりそうにないらしい。
その言葉に少々困った顔になりながらも、俺たちは次の打ち合わせへと向かうのであった。
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