212.邦奈良の現状 王宮会議 2

 角のお披露目が終わったら再び会議室に移動する。

 なお、角はいったん俺が預かるということになった。

 雨ざらしにもできないし、あの場におきっぱなしでは兵の訓練もできないためだ。

 王宮工房に専用のスペースを設けるのでそれまで預かることとなる。


「ハーミットホーンの角は見せてもらった。あれは有意義に使わせてもらおう」


 内務卿がハーミットホーンの角についての言葉を発し、次の話に移る。


「まずは学校対抗戦の話であるが、これは先ほども述べた通り王前試合とすることが正式に決まった」


 うん、これならばあからさまな不正はないだろう。

 競技内容も決めてくれるそうだし、問題ないな。


「また、当日は一般市民の観客も入れてのイベントとする。精進するように」


「一般観客も……で、ございますか?」


「不正を防ぐための目は多い方がよかろう。よもや負けることもなかろうし」


「はい、承知いたしました」


 うん、学校対抗戦も大丈夫かな。

 スケールは大きくなりそうだが、問題はないだろう。


「……すまぬが、エドアルド。お主はここまでだ。申し訳ないがここからはユーリウスと赤の明星たちのみと話をする」


「かしこまりました。それでは退室いたします。学校対抗戦、よろしくお願いします」


 内務卿の命に従い、エドアルドさんが退室する。

 そして、そこから室内の空気が一変した。

 緊張感の増した会議室で内務卿が話し始める。


「ここから先の話は軍事的にも大事な話だ。漏らさぬよう注意していただきたい」


「誓約紙は使わないのですか?」


「そこまで縛る必要もないのでな。計画がばれるのはまずいのだが、必要な人員が欠ける方がもっとまずい」


「かしこまりました。今回の話は内密にいたします」


「くれぐれも頼む。赤の明星たちも構わないかな?」


「はい、構いません」


「よろしい。……例のものをここへ」


 内務卿が命じ持ってこさせたのは……世界地図、それも那由他周辺の拡大図だった。

 あれ、これって軍事機密扱いじゃ?


「ふむ。不思議そうな顔をしているという事は、世界地図が軍事機密扱いなのは知っているということか」


「はい。簡単に見せてよかったんですか?」


「これからの説明に必要になるのでな。それにこの程度の地図は軍事機密とは言えん。機密扱いなのは山河が描かれたような詳細地図である」


 あー、確かにそれは軍事機密だわ。

 どこからどう攻めればいいか、どこを守ればいいか一発でわかるもんな。


「さて世界地図を持ち出してきたのには理由がある。赤の明星たちには説明せねばいかんが、ここが那由他の国だ」


 内務卿が指し示したのは左端……地図に書かれた記号を信じるなら西の端にある島国、これが那由他らしい。


「那由他の国はさほど広くはない。だが自然環境と人が住める土地にはそこそこ恵まれた地域だ。総じて、住みやすい国だと自負している」


「そうですね。かなり住みやすい国だと思います。大陸側の国々に比べると多少物価は高めですが、賃金も相応に高いです」


 ユーリウスさんが補足を入れてくれて、那由他の現状が概ね理解できた。

 国としては景気がいいと言うことだろう。


「話を続けよう。那由他にも同盟国は存在する。海を挟んで大陸側に位置する……この国とこの国。この二国が同盟関係を結んでいる国だ」


「二カ国だけなんですか?」


「赤の明星からすると少ないのだろうな。……ほかの国々は法神国、つまりは教会勢力だな。彼らの配下か中立国かのどちらかなのだよ」


「大陸地図の赤く塗られている国が法神国ってところ?」


「そうだ。現在の仮想敵国となる」


「……那由他の同盟国が裏切る可能性は?」


「その芽を潰すために力を貸していただきたいのだ。……あまり、好ましくないとわかってはいるのだが」


 ふむふむ、つまりは俺たちがいることで那由他の強さを知らしめろと。

 でもそれっていいのかな?


「赤の明星の力を軍事的脅威に見せかけるなんて那由他のすることじゃないにゃ」


 案の定、リオンが反発する。

 それに反論するのは軍務卿だった。


「その通りだ。だがそうでもしないと那由他のおかれている状況は非常に苦しいものになってしまう。リオン殿、申し訳ないのだがここは折れてほしい」


「むむむ……どうするにゃ、フート殿、ミキ殿、アヤネ殿」


「……俺としては消極的賛成だな。あまり力で同盟関係を維持するのは好ましくないと思うが」


「私は反対です。そんなことで成り立つ同盟なら戦争になった途端裏切られる可能性があると思います」


「あー、わたしはパス。どちらかというと反対だけど、さすがに荷が重いわ」


「……ということですにゃ、内務卿殿、軍務卿殿」


 俺たちの意見を聞き会議室がかすかにざわめく。

 簡単に賛成するとでも思っていたのだろうか、大臣たちは。

 そんな会議室の空気を一変させたのは国王陛下の一言である。


「静まれ、皆の衆。赤の明星が反対することなどわかりきっていたことではないか」


「しかし国王陛下、赤の明星の協力を取り付けられなければ……」


「そこな娘が言っていたであろう。力で成り立つ同盟関係など力で覆ると」


「それは……確かにそうですが」


「我々は戦争となれば自国の防衛はできても同盟国の援護まではできぬ。それ故の根回しを行うのだ」


「申し訳ございません」


 どうやら俺たちは試されていたらしい。

 この王様も食えない人だ。


「さて赤の明星、そして指導役リオンよ。お主たちの今後の予定を聞かせてもらいたい」


「はい、それでは吾輩が代表してお答えいたしますにゃ。まず赤の明星の3名はこの先、奥方様たちの『病気』のため4月頃までは身動きが制限されますにゃ。近場での狩りならばともかく、遠出は難しいですにゃ」


「……承知した。お主はどうするのだ?」


「吾輩はその期間の間に里帰りをさせていただく予定ですにゃ。モンスター素材などが大量に手に入りました故、それを使い装備をグレードアップして参りますにゃ。必要とあらばこの国に残りますがにゃ」


「よかろう。帰郷してもらっても問題ない。まともに動けるのは4月過ぎとなるのだな」


「はいですにゃ。その頃には吾輩も戻っており、奥方様たちも落ち着いているはずですにゃ」


「あいわかった。内務卿、あとは任せる」


「はっ。それでは赤の明星パーティおよびハンターギルドに依頼する。4月より我々は同盟国を巡り後天性魔法覚醒施設を始めとする技術供与を行う。その護衛件相談役として同行を願いたい」


「かしこまりました。フート君たちも構いませんね?」


「貴族の領地にも後天性魔法覚醒施設を広めに行くという話はどうなったんでしょう?」


「そちらについては後回しと言うことになった。いまは同盟各国との関係強化を優先するのが最善という判断だ」


「戻ってこられるのは何月頃になるんですか?」


「アグニの件か。王国の所持する飛行艇を使うので遅くとも6月中には戻る予定である。アグニと戦う前にどこかで修行の予定があったのかな?」


「いえ、その予定はございませんにゃ。吾輩たち、十分に強くなったためにこれ以上の強さを求めるには魔黒の大森林に入らなければいけませんにゃ。なので遠征には時間が足りないためできることは最終調整のみ。今回の依頼を受けても問題ありませんにゃ」


「礫岩の荒野に生息していたすべてのモンスターと対峙したと報告は受けていたが……そこまでか。受けてもらえるのであればよいのだが」


「問題ありませんにゃ。この依頼、引き受けますにゃ」


 ふむ、護衛件相談役か……。

 となるともう少し説得材料がほしいところだな。


「フート殿、いかがなされた?」


「いえ、相談役としていくのであればもう少し説得材料になるような事例がほしいなと」


「我々の軍から後天性魔法覚醒施設で魔法を覚えたものを同行させるがそれでは足りぬと?」


「それだと軍人だから覚えられた、で終わる可能性もあるでしょう? しばらくの間は軍事機密になるとしても、技術供与した結果がどこまで行けるかをわかりやすい事例で示したい」


「ふむ……一理あるな。心当たりがあると?」


「フェンリル学校の生徒で五色シャーマンに覚醒した生徒が何名かいるらしいです。その生徒たちに協力を依頼できればあるいは」


「なるほど。だが、我々からは協力を願うことはできないな。我々からだと出頭命令になってしまう」


「俺たちから学校長を通して協力してもらえるか聞いてもらいましょう。どこまで話すかは考えなくちゃですが」


「そうであるな。そこの裁量はあの学園長ならば問題ないだろう。どちらにしても、まずは学校対抗戦で力を示してもらわねばならないが」


「承知しました。最善を……多分、なにも言わなくても尽くすと思います」


「そうか。国王陛下、ほかにお話はあるでしょうか?」


「我がいま話すことはない。皆のもの大義であった」


「承知いたしました。それでは会議はこれにて終了とする」


 内務卿の合図で大臣たちは退室していく。

 すべての大臣が退室し終わったあと、俺たちも退室しようとしたがそこで待ったがかかった。


「赤の明星3名と指導役リオンはそのまま残るように。我の家族を紹介したい」


 ……王様の家族って王族だろう?

 礼儀とか俺は知らないぞ?

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