王家の面々

213.王太子殿下との面談

 会議室に残ったのは俺たち4人と軍務卿、内務卿、それに国王陛下である。

 さて、俺たち4人はどうすればいいんだ?


「……ふう、まったく。肩肘張る会議はきついぞ」


「それが王の役割というものです」


「ですな。場をわきまえていただかねば」


「わかってるよ。それじゃ、赤の明星たちはついてきてくれ。奥の部屋に王太子を待たせているからよ」


「え、ええ、承知しました」


 なんだろう、すごくフレンドリーになったというか、雰囲気が変わったぞ。

 ひょっとしなくても、これが素の状態の国王陛下なのか。

 軍務卿と内務卿を見れば、肩を落とし首を横に振っているあたりそんな感じだな。


 国王陛下は奥の扉から出て行こうとしている。

 慌てて軍務卿と内務卿が続き、俺たちもそのあとに続いた。

 そして迷路のような道をたどりひときわ豪華な扉の前に立つと、国王陛下はノックだけして返事を待たずに入っていってしまう。

 ……なんというか、自由だな。


「国王陛下……いえ、いまは父上とお呼びしてよろしいのでしょうか?」


「おう、父上呼びでいいぞ」


「では、父上。ノックをするのはいいのですが、返事を待ってから入室してください。警護のものたちやメイドたちが驚いています」


「細かいことは気にすんなって。それよりも、ほれ。お前が会いたがっていた赤の明星たちを連れてきたぞ」


「本当ですか!? ……おほん。入室を許可します。どうぞ」


 いままでのやりとりも筒抜けだったが……入室許可が出たんだし入るとするか。

 部屋の中にいたのは20歳を過ぎたあたりと見える偉丈夫、でも爽やかさは失われていない青年だった。

 国王陛下に似た面影がある以上、この彼が王太子なのだろう。


「初めまして、赤の明星諸君。私がこの国の王太子、ブノワ = ナユタである」


「今更かっこつけんなってブノワ。気楽に行こうぜ、ここは公の場じゃないしよ」


「父上は砕けすぎです、まったく……」


 さて、名乗られたのだから自分たちも名乗るのが礼儀だよな。


「初めまして、王太子殿下。俺は……」


「君たちの名前は知っているよ。フート殿、ミキ殿、アヤネ殿、そして指導役リオン殿」


「光栄ですにゃ」


「さて、君たちを呼んだのはこんな話をするためじゃないんだ。……父上も立ってないでソファーに座ってください。内務卿と軍務卿、それから赤の明星の皆様方もどうぞ」


 席に着くように促されたので下座の席に座ろうと思ったら、先に内務卿と軍務卿が座ってしまった。

 今回は俺たちが主役だから上座に座れってことね……。


「さて皆様をお呼びだてした理由ですが、フェンリル学校についての話を伺いたかったためです。発起人の中心人物であるあなた方なら詳しい話も聞けるのではないかと」


「詳しい話……なぁ」


「王太子殿下、失礼ながら最近の学校については商業ギルドマスターのエドアルドが詳しいですにゃ。吾輩たちは長期間の遠征から帰ってきたばかりですので最近の様子をあまり知らないのにゃ」


「むしろその方が都合がいいのです。最近の様子については報告書で読みましたし、数回お忍びで直に様子を見に行きました。とても活発で向上心のあるいい学校だと思います」


「お褒めいただきありがとうございます。……それで、どのような話を聞きたいのでしょうか?」


「フェンリル学校を設立しようと思った経緯から設立のためにどうしたのか、どうやってスラムの住人や子供たちを説得したのかなどです。できれば最初から細かくお話しいただきたい」


「細かくですか? かなりの時間がかかりますが」


「お気になさらずに。本日の公務はもう終わらせてありますので」


 この王太子殿下、見た目以上に切れ者のようだ。

 でも話を聞きたいというのなら話をしてみようか。

 それを王族や軍務卿、内務卿がどう思うかは別問題として。


「そもそもの始まりは、ハンターギルド前で行き倒れかけてた少女を拾ったところからだな」


「あれを行き倒れと呼ぶのかは怪しいところにゃが……行き倒れですにゃ」


 その後、学校設立に至った経緯を説明していく。

 子供たちに最低限の教育を施したかったこと。

 そのためにまず育てようと思ったのが身寄りのないスラムの子供たちだったこと。

 スラムの住人たちにこの計画を信じてもらうためにいろいろ根回しをしたこと。

 学校の用地が確保できたため、学校を建築しスラムの顔役と一部の子供たちを内覧に招待したこと。

 その結果としてスラムの子供たちのほとんどを受け入れられたことを伝えるに至った。


 ここまで話し終えたが……国王陛下や王太子殿下を始め、軍務卿、内務卿までも頭を抱えている。

 そして突然、王太子殿下が俺たちに向かって頭を下げてきた。


「済まない、赤の明星諸君! これは本来であれば国が動くべき事案だった!」


 廊下まで聞こえそうな声で俺たちに謝罪し、王太子殿下はさらに言葉を続ける。


「それなのに一民間人である君たちが発起人となりギルド連合をまとめ上げ、スラムの住人たちの信頼を勝ち取り、子供たちを育てることになるなんて……そこまでしていたとは国の次代を担うものとして恥ずかしい限りだ」


「ブノワ、それを言い出したら俺も同じだぜ。ギルド連合ができていろいろやっていることは知っていたが……ここまでの大ごとだとは考えていなかったからな」


「私もです。せいぜい、ただの保護施設止まりだと考えていたのですが……」


 国王陛下や王太子殿下を始めとする重鎮たちの間で、フェンリル学校の株がまた上がっていきそうな気がする。

 ここは釘を刺してでも止めないと。


「あの、申し訳ありませんが俺たちも最初はスラムにいる子供たちの保護施設兼一般教養を教える場として学校を建てたんです」


「……本当かよ? いまの生徒たちを見てると怪しいぜ?」


「それは生徒たち自身の頑張りの結果です。もちろん、自分たちの想像をはるかに超えた優秀な教師陣をそろえられた幸運はありました。ですが、そこから知識と技術を学び取っていったのは子供たち自身の意欲と努力によるものです」


「……それはそれで評価しなくちゃなんねぇなあ」


「まったくです。王立学院のやる気のなさときたら……」


「王立学院の話は置いておきましょう。あそこのことを考えるだけで嫌気がさす」


 王太子殿下は相当王立学院がお嫌いな様子だ。

 そこまで嫌われるとは、よほどひどいんだろうなぁ……。


「次にいまの生徒たちの様子を伺いたいのですが。いま現在はどのような雰囲気なのでしょう?」


「とても活気に満ちあふれていますにゃ。それぞれが自分のできることを探してギルド棟を歩いてみたり、武術や魔法の稽古にいそしんでみたり。とにかく今できることを全力でやっていましたにゃ」


「なるほど……では、なにか問題になっていることは?」


「そうですね……運動系の施設を建てるための敷地がなくなってしまったため、訓練場から生徒たちがあふれていることでしょうか」


「……本当にうらやましい悩みだ」


「王立学院のバカどもに現実をわからせてやりてぇ」


「そのための学校対抗戦とします。抜かりはありません」


「頼んだぜ。……そういや、大聖堂爆破事件のときに10歳にも満たない生徒が救護所の中で大活躍してたって話を聞いたが、本当なのか?」


「間違いであってくれればよかったんですが……どうやら本当らしいです」


「吾輩たちは年少組と呼んでおりますが、その生徒の一部が学校を抜け出して救護に駆けつけましたにゃ。そしてその子供たちは揃って上位の回復魔法持ちだったのにゃ」


「そんな偶然……いえ、偶然ではないのか」


「俺たちもそう考えています。ほとんどの生徒が囮になり、上位の回復魔法が使える生徒が脱出できるように動いたんじゃないかと」


「末恐ろしいな。それだけの作戦を考えられる地頭の良さと行動力、本職の回復魔法士でさえぶるっちまう救護所でも平然と回復にあたれる胆力はよ」


「それでいて基本的な公用語の読み書き、それに複雑な四則演算まで習っていることを確認しています。……正直な話、私としては今のうちから国で勧誘したいほどの人材です」


「話を聞けば俺だってしてぇよ。軍務卿、お前の意見は?」


「大聖堂爆破事件の際、現場にいた騎士の指揮下に入り見事な連携でがれきの除去や人命救助にあたっていたと聞きます。許されるのであれば今のうちから騎士候補生として育てたい気持ちです。……ですが」


「やはりスラム育ちという肩書きが問題ですか」


「ちっ、頭の硬い貴族どもには苦労させられるぜ」


「まったくです。貴族が国を回している時代は終わりかけています。いまでは各種ギルドの方が発言力を増してきているというのに……過去の栄光ばかりにすがりつくとは嘆かわしい」


「っと、そんな愚痴を聞かせるためにお前たちを呼んだんじゃなかった。……俺のつかんだ情報によれば一般市民向けにフェンリル学校の門戸を開こうとしている。間違ってねぇな?」


「ええ、間違っていません。ただし、がっつりふるいにかけさせていただきますが」


「よし、それを聞いて安心した。俺の子供……第三王子になるんだが、そいつの身分を隠し商家の息子としてフェンリル学校に通わせたい。可能か?」


 うわぁ……無理難題が来たよ。

 リオンも頭を抱えているし、ミキとアヤネも遠い目をしている。

 ここは理事長判断なんだろうな、どうしよう……。

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