204.邦奈良の現状 ギルド連合 学校理事会議編 3

「学校対抗戦って具体的にはなにをやるんだ?」


「基本的には生徒同士の力比べですね。剣術戦、魔法戦、弓の正確さなどなど、そういったものを競うことになっています」


「競技内容を決めるのはあちらか?」


「はい……その予定でしたが、問題が?」


「内務卿には迷惑をかけるが……大至急内務卿に連絡をして学校対抗戦を受けることと、両学校にとって公平なルールに基づく競技内容を考えてもらうんだ」


「はい。……ですが、手土産もなしに動いていただけるでしょうか。内務卿にもお立場があります」


「手土産ならあるにゃ。フート殿、あれの欠片を出すにゃ」


「ああ。どうしても剥がれ落ちたヤツね。了解」


 俺はアイテムボックスから例の素材からかけて落ちた破片を取り出し、商業ギルドマスターへと渡す。

 さすがに商業ギルドマスターはこれがなんなのか一瞬で見抜いたらしく、渡されたものと俺たちの顔を交互に見ている。


「それを渡すときに伝言もひとつお願いできるかにゃ。吾輩たち、今回は『王室』への献上品としてそれの本体を用意してあるとにゃ」


「正直、私もその話に加わりたいのですが……王国に献上するのでは仕方がありませんね」


「王国じゃないぞ、『王室』だ」


「はい? 同じでは?」


「王国への献上品では吾輩たちが国の下についたと勘違いするバカが生まれますのにゃ。なので王室、国王陛下とその配偶者やご家族たちに対する献上品としてしまえば国に供与したことになりませんのにゃ」


「厄介ですね。あなた方も」


「厄介なのにゃ。下手に実力を持ってしまったが故に」


「ともかく、学校対抗戦の話は承りました。その方向で進めましょう」


「ああ。俺たちも時間ができたら見に行くよ」


「時間がなくても見に行くことになるにゃ。理事長」


「……やっぱり?」


「だにゃ」


「子供たちの成長ぶりを見る機会だし……いいか」


「では、そのように取り計らいます」


「ほかに議題は」


 大聖堂がらみのやらかしについても聞いた。

 ほかに問題事項はあるのだろうか。

 と思ったら挙手があった。

 あれは……冒険者ギルドのギルドマスター、ロレーヌさんか。


「どうぞ」


「すまないねぇ。……実はさ、新しく建てていまはまだ空き家になっているフェンリル学校の寄宿舎。あそこを使って下位冒険者をフェンリル学校に通わせたいんだよ」


「フェンリル学校に? 今更?」


「今更って思うだろうが下位冒険者なんてそこらの田舎から出てきた物ごとを理解していない若者やら都会に住んでいても居場所のない三男四男がなる仕事さ。そんな連中に魔物や魔獣を倒してこいと言っても死人が増えるばかりだからねぇ。きちんとした戦闘訓練を受けさせてやりたいのさ」


「それについてはハンターギルドからも同じ提案をいたします。幸いハンターギルドにおいて正会員になる頃には相応の実戦経験を積んでいるものがほとんどです。ですが対人訓練などは甘いものが多く、また魔法制御に難があるものも非常に多い。Eランク下位とFランクはフェンリル学校で鍛えてもらいたいところです」


「あー、つまり両者とも下位ランクの連中を受け入れてほしいと」


「そうなりますね」


「だねぇ」


「そこんところどうなの、エドアルドさん?」


「すでに寄宿舎は3棟600人を受け入れる体制ができています」


「600人かにゃ? 1200人ではなく?」


「今回建てた寄宿舎はすべてふたり部屋にいたしました。現在の生徒たちについてもふたり部屋にするかと提案したのですが……4人部屋の方が楽しいしそのままで、という回答をいただきました」


「なるほどにゃ。で、どうするにゃ、フート理事長?」


「受け入れるにしても問題はすでにいる子供たちとの軋轢だよな。冒険者にしろハンターにしろ、ちゃんとしたライセンスを持って活動しているんだ。それを教育施設に放り込んで先輩は元スラムの住人なんて耐えられるものかね?」


「難しいでしょうねえ。やはりここでも選抜チームにおける対抗戦で白黒つけるのがよろしいかと」


「そんな簡単に納得するものなのか?」


「冒険者って生き物は強いものには従順……というか、そこから学び取ろうとするものなのさ」


「ハンターも似たようなものですよ。強者の技術を盗み取る、それができなければ上にはなかなか進めませんから」


「世知辛い世の中ねぇ……」


「そういう意味でも、あんたらが開示してくれた『精霊魔法と元素魔法についての考察』と『精霊魔法と精霊の共感による魔法効果の変化』の2冊は世の中に激震を走らせるものだったんだけどねぇ……」


「うん? あの程度の知識、秘匿しなくても開示して誰でも扱えるようになった方が便利だろうよ?」


「あの程度の知識、が魔術師の秘匿事項なんですよ」


「実際あれが刊行されてから魔術師ギルドの製版部門はその2冊の印刷でかかりきりになったて言うからねぇ。そこんところどうだったんだい、爺さん」


「いやはや、3週間はあの2冊しか印刷しませんでしたぞ。我々魔術師ギルドからしても激震が走る内容で実証試験をしてみた結果、有用性がかなり高いことを立証してしまいましたからな。いや、まったくすごい研究成果でした」


「研究と言うよりも実戦経験で得た知識なんだけどな……」


「それでもお前さんが得た知識には変わりないさね。それを気前よくポンと出せるお前さんもすごいこったが」


「さすがに無詠唱に関しては難しいから説明しづらいのだけど……」


「フートさんはかなりの感覚派ですからね。本に起こそうとすると理論だって説明しなければいけない。なんでしたら、そういったことを仕事にしている人間を紹介しましょうか?」


「んーいや、いまはやめておくよ」


「それは残念。……まあフートさんの無詠唱は精霊魔法よりでしょう。元素魔法との差がこれ以上開かないという意味でも賢明ですな」


「さてそれではこの議題はここまでにしましょうか」


 エドアルドさんが手を叩き、周囲の注目を集める。

 あと残っている議題なんてあるんだろうか?


「最後の議題はテイマーギルドからです。マルガさん、お願いします」


「ええ。とは言ってもたいした問題ではないわ。今いるフェンリル学校の生徒たちに従魔を与えられないか試してみようと思うのよ」


「従魔かにゃ。育てるのが大変なのでは?」


「育てやすい子たちを選んで試してみるわ。それで理事長にほしいのはその許可ね」


「……従魔を買い取る決裁じゃないんだな」


「理事長にはお世話になっているし、この間は後天性魔法でも契約できるっていう事例を見せてもらったから今年はタダよ。来年からはお代をいただくけど」


「ふーむ。エドアルドさんやユーリウスさん、ロレーヌさんの意見も聞きたい」


「では私めから。私としては、絶好の機会かと。いまのフェンリル学校の生徒は自分たちの修行は一段落しています。そこに新しい風を送り込むという面でもよい提案だと思います」


「私も賛成ですね。彼らが将来どんな職業に就くにしても従魔がいる、というのはマイナスになることは少ないです。マイナスになるとすれば、貴族のお屋敷で住み込みなどをするときですが……さすがに平民にはそこまでのことはさせないでしょう」


「アタシも同意見だね。従魔を鍛えるって意味でも連携を覚えるって意味でも早いほうがいい。今回のテイマーのの提案は渡りに舟ってヤツだろうよ」


「じゃあ戦闘系ギルドとしては反対意見はなしと。生産系ギルドの皆さんは?」


 そちらに話を振ってみたが、誰も発言せず、首を横に振ったり肩を上にあげたりといったジェスチャーで返された。

 よくわからないが生産系ギルドでも従魔はいた方がいいという判断なのだろう。


「それでは反対なし、ということで従魔契約を試してみてもいいですよ。場所は……この前行った保護施設ですか?」


「……なんとなくだけど、あそこに行くと大変な事になりそうなのよね。だから今回は従魔ショップに卸していたのも含めて、フェンリル学校の講堂で行う予定よ」


「了解しました。細かい日程などは校長と詰めてください」


「わかったわ。ありがとね」


「いまのところの大まかな懸念事項は片付きましたね。あとは……ハンターギルドと冒険者ギルドでどれだけ入寮者を募るかなどがありますが、そこは両ギルド長にお任せいたします。それでは今日の会議は解散となります」

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