202.邦奈良の現状 ギルド連合 学校理事会議編 1

 昼食を食べ終わったらリコたちは修行の続き、俺たちはギルド連合との打ち合わせだ。

 ユーリウスさんからはわからないところがあればその都度聞けばよいとの報告も受けている。

 ユーリウスさんは一足先に会場である商業ギルドの方に向かってしまったので追いかけるように俺たちも向かった。

 もっとも、入り口から出鼻をくじかれることになるのだが。


「確かにギルドマスターたちの会合が行われますが一般市民の入場は受け付けられません」


「吾輩たち一般市民ではなく、その会合の関係者なのであるが?」


「では紹介状をご提示いただけますか?」


「俺たちのバッジそのものが紹介状そのものだと思うんだが?」


「そのようなものでお通しするわけにはいきません。お引き取りを」


 こんな調子で入り口の時点で30分以上時間が過ぎている。

 顔見知りのギルドマスターがきてくれればいいのだが……こういうときに限って誰も来ないんだよな。

 それとも懸案事項があるため俺たちが来るよりも先に集合してその打ち合わせをしているか。

 ……どっちにしろここを通れないんじゃ話にならないんだが。


「さてどうしたものかね」


「普通は吾輩たちの特徴を記した回覧が回っているはずにゃ。吾輩たち、商業ギルドにとってもVIP中のVIPであるからして」


「でもあのおばさん、聞く耳を持たないわよ?」


「ほかの職員さんが割って入ろうとしても遮ってましたよね」


「……ここで俺たちが本当に帰ったらどうなるんだろう?」


「やめてあげてくださいにゃ。間違いなく受付責任者数名の首が飛ぶにゃ」


「うーん、でもここでのんびりしているわけには……」


「約束の時間、10分も過ぎてますしね」


「困ったわね……」


 俺たちがどうしたものかと頭を悩ませているところに階段の上から声をかけられた。

 この声は……商業ギルドのマスター、エドアルドさんだな。


「おお、皆さんここにいましたか。よかった。なにか事故に遭ったのではと心配していたのですよ」


「事故……事故ねぇ」


 思わず苦笑を浮かべてしまうが、それを見逃してくれるエドアルドさんではなかったらしい。


「……なるほど。商業ギルド内での事故ですか。彼らの受付を担当していたものは名乗り出なさい! 誰も名乗り出なかった場合、当番の受付担当者すべての責任とします!!」


 エドアルドさん、相当お冠らしい。

 自分のギルドでこんなことがあったとなると、いままでも似たような案件があったのだろうからな。

 ……そして案の定、誰も名乗り出ようとしなかった。

 だがほかの受付の視線によって誰が俺たちを担当したかがすぐにわかった。


「……ふむ、フリーダ、またあなたですか」


「またって言うのは心外ですね、ギルドマスター。まるで何回も同じような問題を起こしているようじゃありませんか」


「まったく、都合のいい頭をしていますね。今回の一件だけではなく、あなたが受付だったおかげで流れてしまった重要案件は6件にも登ります。本来であればその損害賠償を求めるところなんですが、殊勝な態度に免じて厳重注意で済ませていたのが間違いでした」


「そもそも、あんな小僧どもがあのフェンリル学校の関係者なんですか? 聞いて呆れますよ。生徒たちの代表ならわかりますけどね」


「ふぅ……あなたは私が朝のうちに回した回覧すら読んでいないようだ。彼らはフェンリル学校の立役者、理事長や理事ですよ。それに無礼を働いた。しかも、回覧まで読んでいないという職務怠慢は目に余りますね。フリーダ、あなたを懲戒免職とします。私物を集めてここを立ち去りなさい」


「へっ、そんなことを言っていいんですか? 私が知っている商業ギルドの情報は結構な数になりますよ?」


「そうですね。くれぐれも、事故などには気をつけて」


「ああ、そうですか。ではこれにて」


 フリーダと呼ばれていたおばさんはギルド裏へと消えていった。

 そして、さっきのギルドマスターの言葉は……。


「“裏”を使って消すんですね」


「人聞きが悪いですよ、理事長。車の事故ではね飛ばされるか、深酒のしすぎで命を落とすか……まあ、長生きできないのは確定ですがね」


「そこまで気にすることでもないにゃ」


「そうですね。さあ、ギルド連合の会議へと向かいましょう。時間が押しているので皆さんお待ちですよ」


「そうだな。待たせてしまった分、サクサク進めたいとことだ」


「……無理だと思います」


「え?」


「ともかく、こちらの会議室です。どうぞ」


 観音開きになっている扉をくぐると各ギルドのギルドマスターが勢揃いしていた。

 中にはユーリウスさんや、冒険者ギルドのロレーヌさんといった顔見知りもいる。

 端のほうの席には見覚えがない人もいるけど……俺たちがいない間に加わった新規参入組かな?

 この席の序列は、基本参加順だし。

 最終的には序列なしの円形テーブルがいい、と発注しているがそんな大きさのテーブルは無理! と返されてしまっている。

 解せぬ。


「フート理事長、ずいぶんと遅い到着だねぇ」


「ええ、まぁ、ちょっと」


「これには商業ギルドから謝らなければいけません。フート理事長たちは30分ほど前からいらしていたようなのですが、受付で止められていたようなのです」


「受付じゃと? なんでまた?」


「……素行不良の人間はどこにでもいるのですよ。今回はたまたまそういう人間にあたってしまったわけでして」


「まあフート理事長たち遅れたことは置いておきましょう。おかげでいない場所で相談しておきたかった懸念事項も片付きましたし」


「そうですね。……フート理事長たちはこちらのテーブルにどうぞ」


「ああ。わかった」


 どうやら座る席順なども決まっているようなのでそれに従って着席する。

 そしてようやく会議が始まった。


「皆さんお待たせしました。それでは学校運営会議を始めたいと思います。司会は私エドアルドが務めさせていただきます」


「細かい説明はいい。さっさと始めるぞい」


「ですね。まずは今季の収支決算報告書から。……正確には〆は7月頃を予定しておりますので予想ではありますがこのような形になるかと。


 会議資料をめくってみると確かに収支決算報告書が載っていた。

 支出が多いのは当然だ。

 元々あった建物を壊し、整備して校舎などをを作り、スラムの子供たちを受け入れて毎日の寝食や授業で使う教科書や武具などを貸し出しているんだからな。

 ……ただ気になるのは……。


「エドアルドさん、聞いていいか?」


「はい。どうぞ、フート理事長」


「なんで“収入”があるんだ? フェンリル学校で売ってるものなんてあるのか?」


「それはですね。まず第一に国からの後天性魔法覚醒施設およびその研究資料に対する対価です。それが収入の大半を占めます」


「なるほど。そっちはわかった。……じゃあ、この細かい数字は?」


「そちらが困っているのですよ……」


「困っている?」


「儂から話すか。学校の小僧どもも鍛冶や調合、錬金術に手を出すようになった。しかも魔法学科の講師が考案した魔法理論を用いた制作方法とかいう技術を使ってな」


「魔法学科……なにをやってるにゃ」


「儂も最初は馬鹿にしていたが……すぐに認識を改めさせられることになった。かすかではあるが精霊の祝福を受けた武器ができたからな」


「私は錬金術士ですが、同意見ですわ。錬金術には風と水の精霊術式を用いているらしいのですが、それだけで魔力伝導率が30%も向上し、しかも耐久性まで上がっている素晴らしい作品ができていました」


「俺は調合ギルドのマスター代理だが、こっちも似たようなものさ。普通のポーションよりも即効性が高く、回復量も高い。危険なところに行く連中にはもってこいの品になってたよ」


「……本当になにをやっているんだ、フェンリル学校の生徒」


「もちろんすべてを売り払っているわけではありませんよ。完成したもののなかで特にできのいいものを各ギルドマスター、あるいは目利きに特化した人材にお願いして問題がないか確認してもらい、問題ないと判定されたものだけ市場に流通しています。剣に関しては一般レベルの品もわざと流通しているようですが」


「一般の鍛冶屋とそこの客も目利きができるようになんねぇとな!」


「……とまぁフェンリル印の商品は大人気でして今更売るのをやめるわけにも行かないのですよ」


「承知した。ただ、このお金は……」


「この売り上げは子供たちが卒業するまで貯めておいてなにか役立つ品を贈るときに使わせていただきます。問題ありませんね」


「ああ、問題ない」


「……さてフート理事長には知ってもらわねばならないこととして大聖堂破壊事件の際に起こったことも話さなければなりませんね」


 ああ、午前中にユーリウスさんが言っていたヤツか。

 どういう話を聞けるのやら……。

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