邦奈良へ帰郷

188.懐かしの邦奈良

「うーん、やっぱりこの時間帯の門は混み合っているよな……」


「仕方のないことですにゃ。のんびり行きましょうにゃ」


 運転席の俺と助手席のリオンはなかなか進まない状況に少しじれていた。

 門まであと30メートルくらいまで来たのだが……そこで止まって動かなくなったのだ。

 邦奈良の都で検問をするときってこんなに待たされたか?


「フート、まだ進まないの?」


「まだ進まん。こりゃ、なにか事故かなにかあったかもな」


「ふーん、様子を見てくる?」


「いや、俺たちは一市民だ。門兵に任せよう。門兵が押さえられなくなったら取り押さえよう」


「りょーかい。いつでも飛び出せるように準備しておくわ。……あ、後ろの3人はテラたちと一緒に留守番ね」


「わかりました。なにもないに越したことはないのですが……いかれるときは気をつけて」


「ご心配ありがとうございます。……それにしても、なにを揉めているんでしょうね」


「話を聞いてきたにゃ」


 いつの間にか車を降りて情報収集を行っていたらしいリオンが戻ってきた。

 さて、なにが行われているんだろう?


「結論から言いますと、入街しようとしているのはご禁制の品……まあ、言葉を濁しても仕方ないにゃ。各農村部から買い集めてきた娘たちを夜の店で働かせようとしている男たちのようですにゃ」


「それがご禁制の品なのか?」


「邦奈良の都……つまり王家直轄領の法において、人身売買は借金に関係するもの以外御法度ですにゃ。あの商人、どうやら別の貴族領からやってきたみたいなのにゃが、邦奈良の法を知らなかったらしいのにゃ」


「ふーん。でも、それで、あんなに揉めてる理由は?」


「ここは邦奈良にゃ。彼女たちを『所持している』ことそのものが法に触れる行為なのにゃ。つまり、いまから引き返そうにも、彼女たちは解放しないとお縄になるのにゃ」


「ははーん、読めてきたわ。その商人からすれば商品を手放したくない、でも手放さないと帰れない。それで揉めてるのね」


「そういうことにゃ。衛士長まで出てきての大騒ぎのようですにゃ」


「その商人、邦奈良の法律は調べてこなかったのかねぇ?」


「さぁ……かなり田舎から出てきているようにゃ。知らなかったとしても無理はないにゃ」


「どっちにしろ、官憲が動いているなら派手な騒動になるまで俺たちは手出しできないな」


「はいですにゃ。相手は邦奈良の法では違法商人とはいえ国元では合法的な商人の可能性もありますにゃ。我々ハンターが手を出すとさらにややこしくなりますにゃ」


「ややこしく……ですか?」


 後部座席から、アキームが控えめに質問してくる。

 まあ、この辺も教えておかないと余計な火種の元になるだろう。


「基本的に俺たちハンターはハンターギルドの看板を背負ってる、そこまではわかるな?」


「はい、なんとなくですがわかります」


「で、今回のような一件をハンターが片付けてみろ。ハンターは許可証のある奴隷商を襲う野蛮人、って評判がどこかの領で噂になるかも知れない。そうすると……」


「その領での狩りに影響が出るんですね」


「正解だにゃ。街中のいざこざを止める程度なら問題ないのにゃが、今回はちょーっとマズいですにゃ」


「できれば、さっさと入りたい……って!?」


「バカなのかにゃ!? 官憲相手に武器を抜くとか!?」


 奴隷商? の護衛できている冒険者風の男たちは合計12名、この場に集まっている衛兵は6名。

 人数が倍ならいけるとでも判断したのか、男たちは武器を振り上げて衛兵に襲いかかっていた。


「……さすがに加勢するか」


「ですにゃ。こうなっては、ギルドの看板云々ではなく一市民としての行動になりますにゃ」


「アヤネとミキは留守番な」


「わかってるわ。相手との相性、悪いもの」


「気をつけてくださいね」


「では、いっくにゃー」


「ああ、いくか」


 俺たちは車を飛び出し、全速力で……いや、俺は全速力、リオンは俺にあわせて先行する程度の速さで駆け抜ける。

 それを見ていた、新人3人は……。


「すごい……あれなら車より速く走れるんじゃ?」


「短時間だけですよ? あのスピードで走ったらそんな長くはもちません」


「何事も一長一短ってことよ。……あ、もう着いたみたいね」


 悪漢が暴れているところまでたどり着いた俺たちは、衛兵に加勢することを告げてすぐさま魔法を発動する。

 発動させたのはマキナ・ハンズ、非殺傷性で広範囲の相手を一度に拘束できる優れものだ。

 実際、悪漢どもは一瞬の抵抗もできずに電撃で気絶してるし。

 鑑定でレベルを見てみると……うわ、よっわ……。

 数で衛兵を圧倒し、凶器を振り回していたせいで捕まえられなかったんだな……。


「助かりました、フート殿」


「あれ、俺の名前知ってたんだ」


「ええ。それで、街中へと逃げ去った奴隷商の馬車ですが……」


「そろそろ戻って……きたな」


「へ……ああ、本当だ。あれは……『青雷』のリオン殿ですね」


「ああ、そうだ。……二つ名マニア?」


「……いやはや、強いものへの憧れというのを子供の頃から捨てきれず……」


「いいんじゃないか? 周りに迷惑をかけてるんじゃないし」


 俺が衛兵と話しているうちに、リオンが馬車を通行の妨げにならない場所へと横付けした。


「奴隷商は中で気絶させてあるのでさっさと回収してあげてほしいにゃ。それから、女の子の中にはかなり怖い目にあった子もいるみたいだから、女性の人が事情聴取するといいにゃ」


「何から何まですみません……我々が不甲斐ないばかりに」


「今回は突発的な事故みたいなものだから気にすんにゃ。衛兵にけが人は出ていないのかにゃ?」


「軽いけが人は出ましたが回復魔法ですでに治療済みです」


「……ここでも回復魔法か」


「なにかおっしゃられましたか?」


「いいや、なんでもない。俺たちは自分の車に戻るよ」


「それでしたら、優先的に検問をお通ししても……」


「順番は守らなきゃダメにゃ。急ぎの理由があるならともかく、今回は急ぎではないのでご遠慮しますにゃ」


「わかりました。ご協力感謝いたします」


「ばいにゃー」


 車に帰る途中、俺たち……というか俺の戦闘を見ていた検問待ちの人々から声をかけられたが適当に愛想笑いを振りまいて車までたどり着く。

 検問も再開した様子で、ゆっくりとしたペースであるが前に進み始めた。


「フート先輩、やっぱり強かったんですね」


「あんなのフートが強いのうちに入らないわよ。レベル100越えのモンスターにも同じことをやってのけるんだから。もちろん、相性もあるけどね」


「……レベル100越えですか? 皆さんのレベルって一体……?」


「教えてもいいがあまり聞かない方がいいと思うぞ。普通のやり方じゃ一生かかってもたどりつけない方法でレベルを上げてるから」


「参考までにどのような方法でレベルを上げているか教えていただけますか?」


「自分たちのレベルより格上のモンスターを連続狩猟だにゃー。ソウルがバンバン入るからあり得ないレベルに到達できるにゃ。普通は死ぬのにゃけど」


「わかりました。私たちはやりません」


「それが賢明ですにゃ。吾輩たちだって好き好んでこのような命がけの行為をやってるわけではないのですがにゃ」


「え? それってどういう……」


「次の方、どうぞ」


「おっと、俺たちの番だな」


「続きはまた今度、機会があったらだにゃ」


 検問では邦奈良の都へ帰ってきたこと、天陀の街から新人ハンター3人の護衛依頼を受けてきたことなどを申告。

 念のため、車内も確認してもらったら通行許可が出た。

 俺は街中での運転許可がないため、リオンに運転手は交代だ。

 そして、俺たちはついに邦奈良の都に戻ってくることができたわけだが……。


「……ふむ、中央大聖堂が壊されていますにゃ」


「そんなこと街の入り口からなんでわかるのよ、ネコ」


「街の入り口からでも見える高さであるからですにゃ。問題は誰がやったかですにゃが……」


「その辺もハンターギルドにいったときに聞いてみましょう。後ろの3人も初めて見る邦奈良の都に圧倒されていますし」


「……そういえば、お三方は珍しい、という表情はしても圧倒はされていませんでしたにゃ」


「そこは俺たちの出自の問題ってことで」


「了解ですにゃ。時間が余ったら3人は簡単な観光案内をしてあげますにゃ。だから、まずはハンターギルド本部に移動ですにゃ」


 ハンターギルドに行く途中も人通りはかなり増えていた。

 俺たちが修行に出る前はここまでではなかったはずなのだが……。

 ハンターギルドで確認することが増えたようだな。

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