187.3人の実力試し
さて、車で天陀を出発したわけだが……新人3人は車の速さに驚いている様子だ。
リオンの乗っていた車が最新モデルのひとつ前と言っていたから、それよりも倍は速さが出るこの車は驚愕に値するのだろう。
多少、悪路を走ってもサスペンションのおかげでほとんど揺れないし。
「……そういえば3人はどうしてハンターになれたにゃ?」
リオンが後部座席にいた3人に話を振る。
それは俺も不思議に思っていたことだ。
彼らではまだハンターとしては半人前なのだから。
「ええとですね。私のおじいちゃんが昔、Bランクのハンターだったんですよ」
「それで俺たち、小さい頃からその爺さんに鍛えられ続けてて」
「いい年齢になったら紹介状を書くからハンターギルドへいけと言われまして……」
「なんとも大雑把な話だにゃぁ……」
俺も大雑把だと思う。
せめて、もう2~3年は稽古をつけさせるべきだったような……。
「それで、私たちの暮らしている村に巡回騎士という方々がやってきて、国の制度が変わったこととこれからは大きな街では魔法を覚えられるチャンスがあるということを告げられまして」
「修行はまだ途中だったんですが爺さんから『いい機会だから修行は止めだ、街へ行き自らの力を高めよ』なんていわれて……」
「……で、一番近くにあった天陀の街に来ていたんですが、天陀の街じゃ新人ハンターは育てられないと言われて1カ月半ほど足止めされてたんです」
「なるほどね。そこに私たちが現れたと」
「はい。ギルドマスターがあちらが了承すれば邦奈良の都に連れて行ってもらえると教えられて、すぐにこの話に飛びついた次第で……」
「俺たち、迷惑だったでしょうか?」
「うーん……別に迷惑ではないですよね?」
「まあね。私たちものんびり帰るつもりはなかったけど、極端に急ぐ旅でもないし。リオン、どうせだから途中は宿場町にでも泊まる?」
「うーん、それは彼らのためになりませんにゃ。吾輩たちという絶対安全な先輩がいる間に、一夜だけでも野営を経験させておくにゃ。……小さい頃から経験を積んできたにゃら何回も経験しているでしょうがにゃ」
「はい、野営の経験は何度もあります。ただ、ハンターギルドに来てかからはないですね」
「それに野営っていっても、野生動物くらいしかいない山の中での経験しかないです。魔獣がいるような場所ではありません」
「ふむ……フート殿、邦奈良への到着が一日遅れますがよろしいですかにゃ?」
「構わないぞ。さっきアヤネもいっていたが急ぐ旅でもないしな」
「わかりましたにゃ。初日は普通にキャンプ地での野営、2日目は魔物が出る地域での野営にしますにゃ」
「了解した。ナビは任せたぞ」
「任されましたにゃ」
というわけで、予定を1日遅らせて新人たちに野営の経験を積ませることに。
初日は隊商やほかの冒険者などが集まる、一般的なキャンプ地だったので特に大きな問題はなかった。
……俺の車を譲ってくれとしつこい商人はいたけど、ミスリル貨を見せたら黙って自分たちの野営地に帰っていったし。
で、問題の2日目、わざと街道からそれて林の中で野営をする。
気配察知には遠くの方で魔獣がうろついていることを感知できるが……俺たちの気配にあてられて近寄ってはこないみたいだ。
ただ、これでは練習にならないので、4人で相談して気配をなるべく表に出さないようにする。
こうすれば、漏れ出しているのは新人たち3人の気配だけになり、魔物も近寄って来やすくなるだろう。
襲撃がないに越したことはないけどさ。
「皆さん、料理ができました」
料理に関しても3人に任せてある。
一般的な冒険者やハンターが食べる保存食系のスープだが腹にたまるし栄養価も高い。
街から遠出できないでいたはずの3人が、なぜこんなものを持っているか聞くと『祖父から常に備えておくように』と言われていたそうだ。
リオンもそれには感心したようで、3人を褒めていた。
食事が済めば警護の順番を決めてそれに従って行動するだけである。
順番としては、俺とリコ、ミキが一番目。
リオンとバルトが二番目。
アヤネとアキームが三番目、ということになった。
リオン先生曰く、本来なら魔術師は優先的に休ませて魔力回復に努めさせるのが通例らしい。
今日は一切戦闘をしていないので、一番目に当番を割り当てる形をとった。
だが、やはり3人も寝ずの番がリコひとりでは不測の事態に対処するのが難しいと考え、邦奈良の都に着いたらまずはテイマーギルドでリコの従魔を探そうということになった。
「すみません、非力な魔術師の私のためにおふたりも警護にまわっていただくなんて」
「気にするな……といっても気にするだろうから、これも練習だと思って失敗を恐れずにしっかり番をこなすんだ」
「そうですよ。いざとなればテラとゼファーもいますから、問題ありません。即死さえしなければフートさんが治療も行えます。これ以上ない安全な練習機会なので頑張ってください」
「ありがとうございます。……そうだ、フートさん。魔法のコツって聞いてもいいですか? 私だと上手く精霊を操りきれなくて……」
「リコは精霊魔法の使い手だったよな。だったら、精霊を操るって考えをまず捨てた方がいい。精霊は操るんじゃなくて協力してもらうものなんだ」
「協力……ですか?」
「ああ。詠唱句はこの世界の理に触れるための……なんていえばいいのかな。あくまでもおまけだと思ってくれていい。精霊魔法では、精霊にどれだけ明確なイメージを与えることができるかが鍵になる」
「……精霊に明確なイメージ」
「明日の朝にでも俺の魔法を見せるよ。俺の場合、無詠唱で発動できるからあれなんだけど、精霊にどんなことをしてほしいか、どんな結果を生み出してほしいかを明確にイメージで伝える方が発動しやすくなる」
「……都の魔法理論って進んでいるんですね」
「都の理論というよりも俺のやり方なんだけどな。都にある学校でも同じやり方でかなりの数の生徒が成功してるから間違った理論じゃ無いと思うぞ」
「学校? ですか? 王立学院に伝手が?」
「まずはそこからですよね。都にはいまフェンリル学校と呼ばれる学校が作られたんです。元はスラムの子供たちを保護するための教育施設だったんですが……」
「後ろ盾が都の各種ギルドでな。本気度合いがまったく別次元になった結果、スラムの子供を保護する施設から英才教育を施す施設にさまがわりしてしまったんだよな……」
「邦奈良の都って、進んで……」
「ん、どうした?」
「これは……動物とは違う気配。アキーム、バルト、起きて! 魔物が出たかも知れない!!」
「なに!? 魔物!!」
「わかった、すぐいく!」
……へぇ、危機察知能力や気配察知能力も敏感だ。
わざと話にのめり込ませて見たんだが、話をしている間も常に周囲を警戒していた。
そして、危険な気配を感じた瞬間、仲間を起こす判断力、仲間もそれに応じてすぐに飛び出してくる即応性、どっちも合格だな。
あとは戦闘能力だが……こっちは危なくなったらテラたちを援護に向かわせよう。
「敵の種類とかはわかるか?」
「わかんない。ただ、こちらをじっと伺っている」
「周りを囲まれている感じだな。となると集団で狩りをすることに慣れている魔物、ウルフ系か?」
「だろうな。……リオン先輩のいうとおり、この木立の中じゃ両手剣は扱いにくそうだ」
「僕の大盾も相性が悪そうだ。一方向を守っている間に、別方向から噛みつかれるよ」
「いままでの修行がおままごとの域だったってよくわかりますね」
「だな。でも、今回は先輩たちがいてくれるんだ。格好悪いところは見せらんねぇ」
「どういう陣形でいく?」
「リコを中央にして俺とバルトは牽制役だ。リコ、悪いけどお前が魔物倒すか追い払うかしてくれ。いけるか?」
「うん、いけると思う」
「よっしゃ。じゃあ、戦闘開始だ」
3人が戦闘態勢を整え終わったあと、少ししてからウルフ系の魔物が攻撃を始めた。
……もちろん、普通は待ってくれないが、テラとゼファーが威嚇して襲わないようにしていたわけだ。
戦闘はかなりスムーズに進んでいく。
アキームは両手剣で、バルトは大盾で魔物を牽制し近づけない。
ときどき怪我をするが、自力で回復魔法をかけて回復している。
そしてリコは先ほど教えたとおり、精霊を無理矢理従えさせるのではなく協力をお願いするように魔法の使い方を変えていた。
それによって威力の増したリコの魔法は魔物の体を貫き、何匹かを仕留めることに成功する。
格下の手頃な獲物だと思っていたらしい魔物たちは、思わぬ反撃を受けて浮き足立ち、散り散りに逃げ出していった。
「……もう魔物の気配はないよな」
「僕も気配は感じないよ」
「私も感じないよ。上手く撃退できたみたい」
魔物を退けたあともしばらくの間は警戒する辺りも高評価かな。
この辺はしっかり教育されているようだ。
戦闘時間は15分ほどだったが、彼らにとってはもっと長く感じただろうね。
「お疲れさん。魔物はもういないぞ」
「不利な装備でよく戦えましたにゃ。そして、吾輩たちが武器の交換を勧めた理由もわかっていただけましたかにゃ」
「はい、まさかこの程度の木立の中で戦うだけでも戦いにくくなるなんて思ってませんでした」
「僕たちが魔物と戦ってたのは開けた平地で一方向から攻めてくるばかりだったので……。あれって全然実戦じゃなかったんですね」
「魔法も上手く発動できました。本当に精霊にお願いするように、イメージを伝えるように使うだけでこんなに変わるなんて思ってもみませんでした」
「……ふむ、3人とも得るものがあったみたいで結構ですにゃ」
「ちなみに、さっき倒していた魔物、レベル20程度の魔物よ。あなたたちのレベルは?」
「ええと、15程度です」
「意外と低いですね。ハンター志望なのでもっと高いと思ってました」
「俺たち、今年成人したばっかりなんですよ」
「爺さんも魔物との実戦は成人するまでやらせてくれなかったしな……」
「レベル上げの機会が少なかったもので……」
「そういうことなら仕方がないにゃ。レベルが低いことは問題にゃが、連携、考え方、個人個人の能力は十分に及第点ですにゃ。都のハンターギルドでは吾輩からも推薦をしておくにゃ」
「本当ですか!?」
「にゃ。なんならフート殿たちも推薦者に名前を連ねてもいいのにゃよ?」
「……俺ら、まだハンターになって1年経って無いんだけど?」
「でもCランクハンターにゃ。あくまで参考にしかなりませんが推薦者としては十分ですにゃ」
「そういうことなら。俺も推薦しようか」
「私たちもしたほうがいいのかしら?」
「フート殿がした時点で、アヤネ殿やミキ殿も推薦に同意したとみなされるにゃ。その必要はないにゃ」
「……あの、ハンターになって1年経っていないのにCランクってすごい人なんじゃ……」
「そうでもないさ。ちょっとした偶然が重なった結果だよ」
「努力も積み重ねていますがにゃ。ともかく、3人は今日は寝るにゃ。寝ずの番はテラとゼファーに任せるのにゃ」
「え、いいのでしょうか?」
「黙っていたけど、俺たちが気配を隠さなければこの辺の魔物は近寄ってこないんだ。今回は3人の試しということで、わざと襲われやすい状況を作っていたのさ」
「そうだったんですね。ありがとうございます」
「そういうわけだから、明日の朝までしっかり休むといいにゃ。明日の朝の出発も早いにゃ」
「はい、それでは失礼します」
3人を見送ったあと、彼らの戦闘について総評する。
結果は、装備と状況を考えて十分合格、あとは装備を調えさせれば問題ないだろうという結果に。
そして翌朝、リコたちに俺の魔法を見せたのだが、アキームとバルトは完全に圧倒されていた。
リコは自分の魔法との違い、そして自分もいずれはこの段階に至れる可能性があるという希望を胸に抱いていたようだ。
魔法の披露が終わったら車に乗って邦奈良の都へ出発、午前中の間に都が見えるところまでたどり着いた。
「うーん、ようやく帰ってきたわね」
「はい。まずはハンターギルドでいろいろ報告ですけどね」
「いろいろお使いがあるのは仕方のないことですにゃ。それが終わればしばらくはのんびりできますにゃ」
本当にこの数カ月は忙しかったわけで……。
ゆっくり骨休めしたいな。
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