156.ストーンランナー戦 2
「ふむ……今日は出会えませんでしたにゃ」
「消化不良なんだけど、どうするのよ、ネコ」
「まあまあ、アヤネさん、落ち着いて」
昨日、ストーンランナーとの初戦を終えた俺たちは、今日もストーンランナーの巡回ルートに沿って車を走らる。
だが、今日は日暮れ近くまで車で移動してもストーンランナーに出会うことはなく、そろそろ引き上げる時間となった。
「ふーむ、考えられる理由はふたつにゃ。吾輩たちがストーンランナーのあとを追うように走ってしまったのがひとつ。ただ、この理由だと、途中途中で休憩を入れるはずのストーンランナーに追いつくはずにゃ」
「もうひとつの理由はなんだ、リオン」
「……あまり考えたくはないのですが、普通の個体とは巡回ルートが異なる可能性ですにゃあ。そうなると、巡回ルートを探るところから始めねばならず、想定していた二週間よりも時間がかかってしまいますにゃ」
「……とことんついてないわね、今回の遠征」
「例のサジウス領の連中に今回のストーンランナーか……」
「リオンさん、他のモンスターを優先したりとかは……?」
「それは絶対にダメですにゃ。残りの2匹は危険度が跳ね上がりますにゃ。ストーンランナーからソウルの回収、できればスキルも強奪して、それから挑まないと命に関わりますにゃ」
「それほどか」
「それほどですにゃ」
「……相当な危険地帯よね、ここ」
「はいですにゃ。何せ、魔黒の大森林と灰色の森の狭間にあるような場所ですからにゃあ」
「……よく、あの冒険者崩れさんたちが生き残っていますよね?」
「ミキ殿もなかなか言いますにゃぁ。でも、確かにそれは不思議ですにゃあ」
昨日の様子だと俺たちが二週間戦ってきたザコにすら負ける気がする。
なのに、普通にこの荒野で生活できるっていうことは……。
「誰かが手を貸している?」
「でしょうにゃ。そしてそれは……」
「教会勢力か」
「あいつらも赤の明星という旗頭はほしいのでしょうにゃ」
「あんな役に立ちそうにないバカどもでも?」
「バカどもでもですにゃ。そもそも、あの教会を設立したのも赤の明星という話ですからにゃあ」
「ふーん、眉唾物ね」
「ですにゃ。……ん?」
「え?」
「この気配は……?」
全員が気配に気がつき車から飛び降りる。
車の死角、崖の頂上にストーンランナーは悠然と立っていた。
その瞳はこちらを見てはおらず、山の向こうをじっと眺めている。
「……なんなの、一体?」
「わからないにゃ……。どうするにゃ?」
「それって戦うかどうかですか?」
「そうだにゃ。戦闘をしていないので消耗はしていないのにゃ。いま奇襲をかければ先手を取れるにゃ」
確かに、いま攻撃すれば先手をとることはできるだろう。
ただ、なんとなくだが……それは悪手な気がして。
「いや、やめだ。今日は、様子見だけにしておこう」
「……わかったにゃ。どちらにしてももうすぐ夜、暗がりの中でアイツとは戦いたくないにゃ」
「まるで戦ったことがあるみたいな言い方ね、ネコ」
「あるんだにゃ。暗くてこちらの視界が制限されているのに、あちらは俊敏に攻撃してくる。あれほど恐ろしい経験もなかなかないですにゃ」
「……それは遠慮したいわね」
「まあ、そういうわけですにゃ。ここは静かに撤退……」
そのときだった。
ストーンランナーが急にこちらを振り向いて、視線を向けてきたのは。
「……バッチリ目があっちゃいましたね」
「あっちゃったにゃあ」
「これは、逃げられないわね」
「あちらがどうでるか、次第だがな」
俺たちのにらみ合いは数分続き、どちらも動こうとはしない。
すると、頭の中に声が響いてきた。
『戦わぬのか、ニンゲン?』
「……念話?」
『ニンゲンは我らを狩る為にここに来ていると聞くぞ? 戦わぬのか?』
「……今日はもう暗くなるからやめにしておくにゃ」
『そうか。ニンゲンは食事をしなければ生きていけないのだったな』
「モンスターは違うの?」
『我にとってみれば食事など無意味。そこらの岩を喰らう方がよほどの美味よ』
「……今日は戦いませんが、いつかは必ず倒します」
『いい目だニンゲン。強者は我も好きだぞ。では、さらばだ』
それだけ言い残し、ストーンランナーは崖の向こう側へと飛び降りていった。
しかし、念話も使えるのか……。
「リオン、普通のストーンランナーって?」
「念話を使うなんて話、聞いたことありませんにゃ」
「……相当、強い個体っていうわけね」
「私たちが自分たちを倒しに来ていることも知っていましたね」
「ああいう個体は本当に強いにゃ。……今日はそれを確認できただけで十分過ぎる収穫にゃ」
「そうだな。……ちょっとあそこの崖から何が見えるのか確認してきてもいいか?」
「吾輩も興味がありますにゃ。全員で向かいますにゃ」
少し迂回することになったが、ストーンランナーがいた場所には無事たどりつけた。
そして、ストーンランナーが見つめていた先は……。
「……あれって」
「魔黒の大森林ですにゃ」
「なんであんな場所を見つめていたんでしょう?」
「わからないな。……リオン、何か知っているか?」
「吾輩も聞いたことがありませんにゃ。吾輩たちがあれほど接近しても無視していたのですから、何か意味はあるのでしょうが、にゃ」
結局、この日は直接戦闘はなしで終わった。
だが今回倒す事になった個体の特殊性を知るいい機会にはなれたんじゃないかな。
……それがいいことか、悪いことかわからないけど。
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