ストーンランナー討伐戦

153.冒険者崩れとストーンランナー

「つきましたにゃ。ここが、【泥岩の亜竜】ストーンランナーの生息地帯ですにゃ」


「生息地帯というか何というか……」


「あそこで戦っているのがストーンランナーですよね?」


「戦っているのは、冒険者崩れどもか……っていうか、赤の明星どもも混じっているな?」


「そうですにゃ。しかし、あの装備とレベルでストーンランナーに挑むとは、無謀を通り越して無能ですにゃ」


 眼下に広がる光景。

 そこでは、例の冒険者と思わしき連中どもがストーンランナーに挑んでいる。

 ただし、装備はどう見ても普通の鋼製、レベルも100前後しかない。

 さすがに、無理が過ぎるというものだろう。

 実際問題、ストーンランナーにキズひとつつけられていないし。


「フィリップ様! このままでは全滅してしまいます!」


「うるさい! あの魔物を倒せば私はさらに強くなれるんだ!」


「お、お前もそう思うか? まったく、女のいないこんな辺境まで出てきた甲斐があるってもんだぜ」


「ガイン、お前にもあの獲物は渡さんぞ!」


「へいへい、フィリップは最近短気になったことで。さて、それじゃ、俺が終わらせてきますか!」


 ガインは手首をぶらぶらと振りながら戦場の方へと歩いて近づいていく。

 ……でも、コイツ、レベル90しかないんだよなぁ。

 レベル至上主義とはいわないけど、レベル100を超えた辺りからの成長率はバカにならないのに。


「俺が行く。てめーらザコは下がってろ」


「はっ。ガイン様の出陣だ! 下がれ、下がれ!!」


 冒険者たちのリーダーらしき男の合図で全員が距離を開ける。

 これで、ガイン対ストーンランナーの構図はできたわけだ。


「はっ、岩トカゲごときが俺たちの覇業を邪魔できると思ってるのかよ! 食らえ、爆砕拳・烈白閃!」


「あ、あれ、私が覚えられるようになってた技です」


「これは良い見本ですにゃ」


 ガインが両手を合わせ握りしめると、そこから白い光が発せられるようになった。

 他方、ストーンランナーはというと……まったく驚異を感じていないのか、微動だにしていない。


「行くぜ! おりゃあ!」


 ガインは高く飛び上がり、ストーンランナーの脳天めがけて両手を振り落とす。

 するとそこでガイン自身も巻き込んだ大爆発が起こったのだ。

 その威力は、見た目にはすさまじく、辺りは砂埃に包まれている。


「はぁはぁ、やったぜ、クソトカゲがよ……」


 砂埃から出てきたガインは、傷こそないものの体力のほとんどを失っているような様子である。

 いまにも倒れそうな体を支えているのは、気力か意地か。

 どっちだとしても、無駄な抵抗ではあるんだけど。


「GYUIIII!!」


 今回初めて聞くストーンランナーの鳴き声。

 いままでは敵認定すらされていなかったのだから、当然か。


「リオン、いまの技ってダメージがあったのか?」


「いや、おそらくノーダメージにゃ。でも、全力で頭を叩かれれば、誰だって怒るにゃ」


「ですよね。そして、私はあのスキル取るの止めます。役に立ちそうにありません」


「ここぞというときの大技にはよさそうにゃが……フート殿の回復が間に合わなければ、そのまま殺される可能性がありますからにゃぁ」


「それよりも、やつらどうするんだろうな?」


「もう、万事休す、と言ったところでしょうにゃ。少なくとも、ガインという男は敵認定されていますにゃ。ストーンランナーは、『ランナー』の名前を持つとおり、素早く長距離を移動できますにゃ。この場を逃げられても、追いかけられて終わりですにゃ」


「そうなのね……私たちが助太刀に入るってのはどう?」


「後ろから刺されるから止めておけ」


「敵の敵が必ずしも味方とは限りませんにゃ」


「そ。じゃあ、このままあの冒険者崩れがどうなるか見ていましょう」


「アヤネ殿もこの世界の常識に染まってきたにゃぁ。無理に手助けに入られるよりマシにゃが」


「ですね。あいつらを助ける理由はいまのところありませんし」


「そうですにゃ。赤の明星だからといって、ろくな鍛練も積まずに享楽を貪ったものの末路ですにゃ」


「……そういえば、センザはどうしてるんだろうな」


「城の諜報部隊で修行しているそうですにゃ。赤の明星らしく物覚えがよいと評判だそうにゃ」


「……ネコ、あんたそんな情報どこから仕入れてくるのよ?」


「ギルマス経由ですが何かしたかにゃ?」


「あの人なら知ってそうよね……」


「そんなことより、ついに動きますよ!!」


 怒り狂っているように見えたストーンランナーであったが、その実かなり冷静で、ガインの動きを観察していた。

 その間にガインは少しでも体力を回復させようとポーションを飲んでいるが……無駄だったようだな。


「GYUI!」


 一声鳴いたストーンランナーは空高く舞い上がり、自慢の頑丈な石頭による頭突きを食らわせようとガインに迫る。

 ガインもそれを間一髪躱すが……倒れ込んだまま起き上がることはできない様子だ。


「GYU」


 そこにトドメといわんばかりに、鋭い前脚の爪でガインを切りつけようとするストーンランナー。

 爪は何の感情も持たずに振り下ろされ、そして……。


「ぐぅ!?」


 冒険者崩れのひとりがガインをかばった。

 かばったところで、犠牲者がふたりになるだけのような気がするがな。


「フィリップ様! お願いいたします!!」


「やれやれ、僕は尻拭い係じゃないんだが……まあ、仕方がないね。手伝ってあげようか」


 今度はフィリップが前に出てきて白く輝く聖剣を作り出す。

 ……とは言っても、俺と戦った時より、さらに小型になっている。

 込められている力は大きいのだが、これでどうこの場を切り抜けるつもりなのだろう?


「食らえ!! 聖剣技・閃光波!!」


 フィリップが聖剣を振り下ろすと聖剣からすさまじい光が発せられ、さすがのストーンランナーも目を眩まされられた。


「いまだ! ガイン様たちを救出してキャンプまで戻るぞ!! ヤツとてタダの魔物! キャンプ地には入れまい!!」


 負傷したガインと冒険者崩れを担いで、一目散に逃げ出すパーティ。

 全員で十人か。

 これで全員とは思えないが……最低限この人数が生きているということは記憶しておこう。


 さて、ストーンランナーの方だが、フィリップたちが逃げ出した方をしばらくみた後、こちらに視線を投げかけてきた。

 まるで『戦うのなら付き合うぞ』と言わんばかりの気迫でだ。

 だが、俺たちの方にも変化がないことを知ると、フィリップたちが逃げていった道とは別の道へと軽快に走り去っていった。


「……どうでしたかにゃ? あれがレベル140モンスターが発する殺気ですにゃ」


「前もって教えてくれ、リオン。心臓に悪い」


「でも、戦えないことはないですよね」


「殺気を投げ返さないように押さえつけるのに必死だったけどね」


「まあ、今日はもう日が落ち始めていますし、この辺でキャンプ地に移動するにゃ」


「キャンプ地って……やつらが占領しているキャンプ地はいやよ?」


「大丈夫ですにゃ。ミキ殿とアヤネ殿は少し狭い思いをすると思いますが……ついてきてくださいにゃ」


 崖を軽快に飛び降りるリオンに付き従い、たどり着いたのは岩山のしたにできた人ひとりが這ってくぐり抜けられそうな穴だった。

 リオンがその中に入っていくので、俺たちもそれに従い中へと入っていくことに。

 すると、穴の中は洞窟となっており、奥には水場とキャンプ地が整備されていた。


「ここが礫岩の荒野、第3キャンプ地ですにゃ。ストーンランナー狙いならここが一番のおすすめスポットですにゃ。……出入りがきついですがにゃ」


「まあ、それは我慢するわ。さてそれじゃあ、夕食まで時間はあるし、ハウスに入ってストーンランナーの具体的な対策を考えましょう!」

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