154.ストーンランナー対策会議

「さて、晩ご飯も終わりましたし、ストーンランナー対策会議の開始にゃ」


 食後のお茶まで飲み終わったところで、ついにリオンが切り出してきた。

 さて、ここからが本番だな。


「ストーンランナーの生態の復習からにゃ。ストーンランナーは決まったルートをグルグル走り回る性質がありますにゃ。吾輩たちは、そのコースの一部で待ち伏せをして強襲をするわけですが……」


「あの様子じゃ、不意打ちにはなりそうにないわね」


「だにゃ。ヤツは強者の気配に敏感にゃ。お三方がレベル120くらいなら不意打ちもできたでしょうが……」


「上げてしまったものは仕方がないさ。建設的な話をしよう」


「ですにゃ。戦闘パターンはいつもと一緒。アヤネ殿がフート殿をかばいながら戦い、吾輩とミキ殿は左右から攻め続けますにゃ」


「でも、あの岩の鎧を剥がさないことには攻撃も効かないだろう?」


「そうですにゃ。問題はそこですにゃ。なので、今回は吾輩たちも魔法剣や魔法拳を絞って使っていきますにゃ。ミキ殿、灼熱拳をお願いできますかにゃ? 吾輩は水纏剣でいきますので」


「了解です。岩を剥がしきるまではその戦法で行きますね」


「よろしく頼むにゃ。アヤネ殿にお願いしたいのは、炎のブレス……というか火球弾対策ですにゃ」


「火球弾ねぇ……それって、【消炎の盾】や【氷河の鎧】で防げる?」


「十分に防げますにゃ。そんな頻繁に使ってくるものでもないですから、【消炎の盾】で消してくれるとありがたいですにゃ」


「オーケーオーケー、やってやりましょう」


「さて、最後にフート殿ですが、こちらも岩剥がしに協力して欲しいんですにゃ」


「わかった。炎と氷か水を交互に当てればいいんだな」


「その通りですにゃ。ただ、攻撃の前には合図をくださいにゃ。吾輩とミキ殿が巻き込まれないようにですにゃ」


「了解した。……で、それで終わりじゃあないよな?」


「当然ですにゃ。岩を剥がすのは第一段階、それが終わってからが本番ですにゃ!」


 力強く言い切られた本番の言葉に、ミキとアヤネもさらに集中する。

 そして、それを言い切ったリオンは、俺たちの顔を見渡してから話を続ける。


「お三方はなぜストーンランナーが、ストーンランナーと呼ばれているかわかるかにゃ?」


「え? 岩をつけたまま走り回っているからじゃないの?」


「それもあるにゃ。あの重たい岩を身に纏って走り続けているのだから、その名前も正解と言えますにゃぁ。」


「現実は違うと?」


「全部の岩を剥がせばわかるのですがにゃ。あの岩、体と尻尾しか剥がせないのにゃ」


「うん? どういうことよ、ネコ?」


「言ったとおりにゃ。前後脚部と頭部の岩は完全に体と一体化してますにゃ」


「後ろ脚の岩って外れるんじゃなかったの?」


「取り外し可能なんですにゃ。自分の思い通りに」


「それは……また」


「すごいにゃろ? これが高レベルモンスターの生態にゃ」


「確かに言われてみれば、ラーヴァトータスもエイスファンも不思議生物だったな」


「ストーンランナーは特にそうにゃ。そして、その生態系こそがストーンランナーの強みですにゃ」


「どういうことよ?」


「……ああ、そう言うことですか」


「なんとなく理解できた」


「あんたら夫婦だけ理解しても仕方がないのよ!」


「普段は全身に五層の岩を身につけて走り続けているんだ。その岩がなくなったらどうなると思う?」


「そりゃあ、体が軽くなって動きやすく……あ」


「その通りだにゃ。体が軽くなった分、非常に機敏な動きをしてくるようになりますにゃ。それでいて、前脚や後脚、頭には岩がついたままなので攻撃力はほとんど下がりませんにゃ」


「めんどくさい相手ね」


「めんどくさいですめばいい方にゃ。ヤツの敏捷性は、壁にはりついて短距離を走ったり、三角跳びをしたりしてくるほどなのにゃ」


「……それってリオンより速くない?」


「そこまでではありませんが……ミキ殿では少し厳しいですにゃあ」


「そんなのどうやって戦うんだ?」


「第二形態になったときは吾輩が牽制役に回って相手の動きを阻害しますにゃ。その間に、ミキ殿とフート殿でダメージを積み重ねるのですにゃ」


「それってリオンが危険じゃない?」


「吾輩、HP16万」


「あ、そうだったわね」


「直撃をもらわなければ、そんなにダメージは受けませんにゃ。受けてもフェアリーヒールが飛んでくる安心感があれば、怖くありませんにゃ」


「信頼してくれてありがとう」


「いえいえ。いままでのストーンランナー討伐に比べればいい条件が揃っていますにゃ」


「ちなみに普段はどうやってたのよ」


「盾役ががっちり囲んで逃がさないようにしますにゃ。その上で、攻撃役がひたすら削っていきますにゃ」


「……なんて言うか、非効率ね」


「お三方が効率的すぎますにゃ」


「それで、魔法は? 第二段階でも炎と水か?」


「いえ、水と氷に限定してくださいにゃ。ストーンランナーは爬虫類系のモンスター。水や冷気で体を冷やしてやれば動きは鈍りますにゃ」


「荒野は暑いけどね」


「だからこそ、連続して冷やし続ける必要がありますにゃ」


「わかった。俺は大丈夫だ」


「あの、リオンさん。私は水氷拳で戦った方がいいでしょうか?」


「ミキ殿は灼熱拳と水氷拳の同時発動で攻撃力アップを狙ってくださいにゃ。……ああ、そうそう。吾輩たちアタッカー陣は前脚の攻撃の他、後脚の打撃、尻尾の振り回しにも注意ですにゃ。こちらの攻撃は腹部に集中ですにゃ」


「わかりました!」


「タンクとして気をつけなくちゃいけない攻撃は?」


「とりあえず突進だけは常に注意にゃ。躱せないようなら全力防御にゃ。生きていればフェアリーヒールで全回復にゃ」


「痛いのはいやなんだけど……仕方がないか」


「この先のモンスターでは囮として、確実に攻撃を防いでもらうこともあるのですがにゃ……」


「そのときは覚悟を決めるわ」


「今のうちから覚悟を決めておいてほしいにゃ」


「わかったわ。アタッカー、ディフェンダー。どっちも話を聞いたし、他に聞いておいた方がいいことは?」


「これくらいで大丈夫にゃ。後はゆっくり休んで英気を養うにゃ。あの冒険者崩れどもも、数日間は動けないはずですからにゃ」


「りょーかい。それじゃ、私は先に寝かせてもらうわ」


「私たちも休みましょう、フートさん」


「ああ、そうだな」


「あ、フート殿は少し残ってほしいにゃ」


「うん? わかった」


「それじゃあ、先に部屋に戻ってますね」


「ああ、じゃあな」


 俺を呼び止めたリオンは、相変わらずソファーでくつろいだままだ。

 さて、何の用事なんだろう。


「フート殿、ソウルパーチャスの経験値共有設定、吾輩の経験値共有を1%で設定してほしいにゃ」


「……いいのか、リオン?」


 経験値共有だが、割り当てを0%にしておくと共有されないが、自分が倒した分は丸々自分のものになる。

 今回の申し出は、自分の経験値はいらないという宣言のようなものだ。


「いいのですにゃ。これから先のモンスター討伐。お三方、赤の明星を徹底的にレベルアップさせるためのものですにゃ。できれば吾輩と同じ180くらいまで上がってくれるとありがたいのだがにゃぁ……」


「それは無理だ。20億ほどの経験値が必要だからな」


「……さすがに足りませんにゃぁ。もう少し時間があれば届くと思うのですがにゃ」


「どっちにしろ時間切れが近いだろ?」


「ですにゃ。各モンスターに2週間ずつ見ておかなければ危険ですにゃ。明日、全員に伝えますが、ストーンランナー相手に一日で勝てるとは考えないことですにゃ。……一日あるとほとんどの傷が塞がってしまうのが難点ですがにゃ」


「きっついな」


「楽なモンスターハントは滅多にありませんにゃ」

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